コラムの著作権は村松弁護士本人に帰属します。
このブログ以外での引用等は固くお断りいたします。
日刊帝国ニュース 1999年8月23日
弁護士ウォッチング 弁護士 村松謙一
前回の続き
2)この要求をされた取引先側としては当該倒産企業が
破産ということにでもなれば、将来における取引・売上高
はなくなってしまうのであり、更には仮に受取手形の
支払サイトが3ヶ月であれば遡って3ヶ月分(例えば
3000万円の手形×3ヶ月分=9000万円)の合計額
を直ちに支払え(返せ)と迫られるのである。まさに
泣き面に蜂であり、取引先が消え、将来の売上が無くなり
そのことだけでも経営不安に陥ってしまうのに加えて、
ただでさえ少ない手持現金から手形買戻し金額を一括して
銀行に返済しては、たちどころに資金ショートに陥って
しまうことは、誰の目にも明らかであろう。
割引した資金は、すでにその都度、支払い等に当てて
しまっており、手元に留保しておく余裕などはありは
しないからである。
3)このように会社破産等は、単に破産時点からの将来に
向けての問題だけでなく、重要なことは、その時点から
遡ること数ヶ月に及んで、取引先に影響力を及ぼすもので
あり、私が極力、法的手続き、特に破産手続きを避けうる
ことならば避けたい理由である。
逆のことを言えば、会社の再建、立て直しすることに
ついては、一般取引業者の手形割引の買戻しのことも
視野に入れて、少なくとも資金ショートと目される
3ヵ月前位からは、立て直しの準備に取り掛かる必要が
あろう。
3.そうは言っても、目の前に起こっている現実、
「割引手形の買戻し要求」にどう具体的に対処したら
いいのだろうか。
1)もちろん法律上は買い戻し義務があるのだから、
割引代金の返還をしなければならないことは当然で
あるが、何回も述べているように、会社再建のためには、
a)今この時点で払わなければならない性質の費用と、
b)今この時点では払ってはならない性質の費用とを、
歴然と区別して、目の前の危機に当たらなければならない
ということである。
前者は、手形決済資金、買掛金、加工賃等の材料費や
給料等の労働賃金であり、後者は、この手形買戻し金等
が適例であろう。
要は、会社の資金繰りに不安を残さないような返済か
否かなのである。
2)この根拠は、例えば再生型の倒産事件たる会社更生、
民事再生等にあっては、法律上は当然支払うべき性質の
費用であっても、裁判所は「弁済禁止の保全処分」と言って
あえて支払ってはならないとの保全命令を出し、支払を
一時的に停止させて、再建の軌道に乗せるような命令を
出してくれるのである。裁判所ですら、再建のためには、
支払を一時停止せよと言っているのである。
この背景には、会社を再建させるためには、まず資金繰りが
何より大事であり、無節操な資金の流出を防ぐことおよび
公平の観点から、ある人には払い、ある人には払わないと
いった偏頗弁済を防ぐということが、再建にとって最も
重要な要素として主張しているのである。
それは、とりも直さず、全債権者の利益に資するからである。
3)とすれば、法的手続きをとらない自主再建という方式で
あっても、再建=正義という目的は同じであり、その目的の
ための手段として、弁済を一時的に停止することは、
かえって全債権者のためにも意義のあることなのである。
弁済を一時的に停止することに、罪悪感を感じる必要は
少しもないのであることがお分かりいただけたでしょうか。
ア)もうお分かりのことと思うが、手形の買戻し要求に
対しても、自社の資金繰りに照らし合わせて、場合に
よっては、10回、20回程度の分割弁済をお願いする
ことだ。
イ)もしくは、手持ちの他の手形を代物弁済としてお預け
することだ。
要は、ただでさえ乏しい資金をできるだけ後ろ向きの
資金でなく、将来の経営・生産のための前向きの費用
(例えば仕入資金、従業員の給料等)に使いたいのだ。
金融機関においても、手形割引に関しては、取引業者は
一種の被害者であり、同情の余地を十分にくんでくれる
ものである。
4)分割返済等のお願いの際に提出すべき資料については、
前述した条件変更時に提出すべき7つの資料(7月26日
号参照)を用意することは、手形の買戻し交渉時に
おいても同様である。
手形買戻しに応ずることで、直ちに潰れてしまうことの
方が、金融機関にとっても迷惑な話であり、かえって被害が
拡大してしまうことになり、避けたいことなのだ。
このブログ以外での引用等は固くお断りいたします。
日刊帝国ニュース 1999年8月23日
弁護士ウォッチング 弁護士 村松謙一
前回の続き
2)この要求をされた取引先側としては当該倒産企業が
破産ということにでもなれば、将来における取引・売上高
はなくなってしまうのであり、更には仮に受取手形の
支払サイトが3ヶ月であれば遡って3ヶ月分(例えば
3000万円の手形×3ヶ月分=9000万円)の合計額
を直ちに支払え(返せ)と迫られるのである。まさに
泣き面に蜂であり、取引先が消え、将来の売上が無くなり
そのことだけでも経営不安に陥ってしまうのに加えて、
ただでさえ少ない手持現金から手形買戻し金額を一括して
銀行に返済しては、たちどころに資金ショートに陥って
しまうことは、誰の目にも明らかであろう。
割引した資金は、すでにその都度、支払い等に当てて
しまっており、手元に留保しておく余裕などはありは
しないからである。
3)このように会社破産等は、単に破産時点からの将来に
向けての問題だけでなく、重要なことは、その時点から
遡ること数ヶ月に及んで、取引先に影響力を及ぼすもので
あり、私が極力、法的手続き、特に破産手続きを避けうる
ことならば避けたい理由である。
逆のことを言えば、会社の再建、立て直しすることに
ついては、一般取引業者の手形割引の買戻しのことも
視野に入れて、少なくとも資金ショートと目される
3ヵ月前位からは、立て直しの準備に取り掛かる必要が
あろう。
3.そうは言っても、目の前に起こっている現実、
「割引手形の買戻し要求」にどう具体的に対処したら
いいのだろうか。
1)もちろん法律上は買い戻し義務があるのだから、
割引代金の返還をしなければならないことは当然で
あるが、何回も述べているように、会社再建のためには、
a)今この時点で払わなければならない性質の費用と、
b)今この時点では払ってはならない性質の費用とを、
歴然と区別して、目の前の危機に当たらなければならない
ということである。
前者は、手形決済資金、買掛金、加工賃等の材料費や
給料等の労働賃金であり、後者は、この手形買戻し金等
が適例であろう。
要は、会社の資金繰りに不安を残さないような返済か
否かなのである。
2)この根拠は、例えば再生型の倒産事件たる会社更生、
民事再生等にあっては、法律上は当然支払うべき性質の
費用であっても、裁判所は「弁済禁止の保全処分」と言って
あえて支払ってはならないとの保全命令を出し、支払を
一時的に停止させて、再建の軌道に乗せるような命令を
出してくれるのである。裁判所ですら、再建のためには、
支払を一時停止せよと言っているのである。
この背景には、会社を再建させるためには、まず資金繰りが
何より大事であり、無節操な資金の流出を防ぐことおよび
公平の観点から、ある人には払い、ある人には払わないと
いった偏頗弁済を防ぐということが、再建にとって最も
重要な要素として主張しているのである。
それは、とりも直さず、全債権者の利益に資するからである。
3)とすれば、法的手続きをとらない自主再建という方式で
あっても、再建=正義という目的は同じであり、その目的の
ための手段として、弁済を一時的に停止することは、
かえって全債権者のためにも意義のあることなのである。
弁済を一時的に停止することに、罪悪感を感じる必要は
少しもないのであることがお分かりいただけたでしょうか。
ア)もうお分かりのことと思うが、手形の買戻し要求に
対しても、自社の資金繰りに照らし合わせて、場合に
よっては、10回、20回程度の分割弁済をお願いする
ことだ。
イ)もしくは、手持ちの他の手形を代物弁済としてお預け
することだ。
要は、ただでさえ乏しい資金をできるだけ後ろ向きの
資金でなく、将来の経営・生産のための前向きの費用
(例えば仕入資金、従業員の給料等)に使いたいのだ。
金融機関においても、手形割引に関しては、取引業者は
一種の被害者であり、同情の余地を十分にくんでくれる
ものである。
4)分割返済等のお願いの際に提出すべき資料については、
前述した条件変更時に提出すべき7つの資料(7月26日
号参照)を用意することは、手形の買戻し交渉時に
おいても同様である。
手形買戻しに応ずることで、直ちに潰れてしまうことの
方が、金融機関にとっても迷惑な話であり、かえって被害が
拡大してしまうことになり、避けたいことなのだ。