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内閣府M&A研究会報告書に思う -残された実務的課題は何か?-

2006-10-17 | 事業再生・M&A

 いつもご覧下さり誠に有難うございます。
最近は「こんなもの見つけましたよー」という、
独創性のない紹介ネタばかりで恐縮ですが、
そろそろ3月決算企業の中間決算が発表されますので、
また決算短信へのツッコミも再開したいと思います。お楽しみに。


で、本日のネタは日経にも紹介されておりましたが、
昨日、内閣府M&A研究会から発表された
「本格的な展開期を迎えたわが国のM&A活動」という報告書を取り上げます。

詳細は下記HPからご確認頂ければと思います。
 http://www.esri.go.jp/jp/mer/houkoku/0610houkoku.html


本報告書では、日本企業のM&A活動の現状分析や評価、
課題とその対応についてコンパクトに纏めておりまして、
全体像をサクッと理解したい方には好適かと思います。

で、私はこの中で指摘された、
法律・税制・会計上の課題について簡単にまとめてみました
「課題≒M&Aを行う上での障害」と読み替えますと、
今後の制度改正の際に注目される可能性が高い論点であると
思ったからです。

以下、本委員会の公式見解ではないですが、
当報告書p39以下にある「議事概要資料」にあった、
私が有益だと思った論点を中心に整理
してみました。

ですので、独断と偏見で整理したものなので、
皆様におかれましては参考程度でご覧下さい。
(→要は、自分のために整理してます。あしからず。)

――――――――――――――――――――――――――――――――
■新会社法

 ①交換買い付けにおける「有利発行」規制
  交換対象会社の株式の市場価格にプレミアムを乗せた価格で
  評価することは、買収者側の株主にとって不利益ではないか?
  現金買収でも同様の問題があると。  

 ②ゴーイングプライベートを実施する場合の少数株主の締め出しの規制
   会社法改正前では、例えば、株式移転を行い、さらに営業譲渡と
   清算を組み合わせることでフリーズアウト(締め出し)が実現できる
   考えられていた。
   しかし、これが果たして適法なのかどうかに関しては疑義あり。
   正面から「締め出し」ができる立法が必要との議論あり。

 ③外国会社との国際的な合併
    国際合併・国際会社分割(外国会社が当事者となる合併・会社分割)は、
   新会社法の下では、立法担当者の解説によれば「一切認めない」との
   ことであるが、なお理論的な議論は残っていると。

 ④実質的な債務超過会社との合併の可否
   新会社法の下でも解釈論として残っている問題。


■税制

  ① 課税繰延べのあり方
    現金合併等の場合、外国株式を利用した三角合併の場合、
    交換買付けの場合等で課税は繰延べられるのかという問題。
    (→極めて重要な問題ですね)

  ②タックスフリー・スピンオフ    

    日本の会社分割法では100%株主割当の分割方分割を可能にした。

    しかし、組織再編税制が無税要件として、グループ内再編と共同事業権
    の2つしか定めておらず、100%株主に割り当てることはこのどちらにも
    当らないため「有税取引」になってしまい、スピンオフはできるが、
    タックスフリーにはできない。   

   日本では子会社に価値を付ける場合に子会社を新規株式公開(IPO)
   することが一般的。  
   しかし、子会社を上場して価値を付け、親会社が子会社の価値を
   全部実現しようと思い株を売るとキャピタルゲイン・タックスがかかり、
   子会社IPOは、エクイティ・バリューを税金分毀損し、株主価値の破壊となる。
   
    タックスフリー・スピンオフは株主価値創造に資するので行われることが
    一般的であり、円滑行えるよう、組織再編税制に「第3の無税要件」を
    加える必要がある。


  ③ 法令適用事前確認制度
    当局は04年3月、「特定の納税う者の個別事情に係る取引等」
    についても文書解答手続きの対象とすることなった。
    今後このサービスが十分機能することが期待されると。

  ④その他
    ・ポイズン・ピルの税法上の課題
       →国税庁から出されたガイドラインを踏まえて検討されるべき。
    ・ 従業員持株制度への税制上の措置
        →会社からの資金援助する際、何らかの優遇措置があれば
         もっと利用されるとの実務界からの意見あり。

■ 会計

  国際会計基準と米国基準の統合化の動きがある中、
  日本の場合、特に企業買収の場合の
  「持分プーリング法適用」「のれんの償却」の2つが課題(※)。

  もし米・欧のような考え方になった場合、
  無形資産、無形財産をのれん以外に、かなり細かいパーツに振り分け
  ていくことになり、非常に手間がかかることが想定される。

  (※)下記pdfファイルの7・8ページ目を参照下さい。
    http://www.esri.go.jp/jp/mer/houkoku/0610_3_3.pdf

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

(簡単な補足)

①「タックスフリー・スピンオフ」の部分は、その内容の濃さ・切れ味から、
  当研究会メンバーでもあり、私も注目している
  服部暢達一橋大大学院助教授によるものだと思います。
  (だからどうした?とのツッコミが予想されますが)。

  なお、服部助教授に関連して、あずさ監査法人主催のM&Aセミナーの
  講義録がHPにありましたので、併せてご紹介します。

  テーマは「敵対的買収と日本型防衛策」と、直球ド真ん中です。
  http://www.kpmg.or.jp/resources/newsletter/financial/cf/200606_2/01.html


②会計に関する論点、特にプーリング法に関しては、
  例の日本の会計基準コンバージェンス(収斂)において検討課題
     となっております。
    M&A実務の世界においても、会計基準のコンバージェンスの動向は、
   目が離せない、ということがお分かりいただけたかと思います。

ではまた。 


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