前回の続きです。
合同の公理までを使い、線分と角について合同関係および大小関係が定義できました。これで順序尺度として定義できたと言えます。さらに線分同士の和と角同士の和も定義でき、その一意性が合同の公理から示されます。角の和の導入により、平行の公理が成立すれば三角形の内角の和が2直角になるという定理も証明されます。すなわち間隔尺度としても定義できたと言えます。次はいよいよ比例尺度として線分を定義すれば相似関係を導入できるのですが、比例理論の展開はユークリッドも悩んだ問題らしく、『原論』では第Ⅴ巻「比例論」から登場します*1)。それまでの面積とか円の定理については比例を使わずになんとかしているのですね。
一方『幾何学基礎論』では相似関係はまず三角形の相似として定義しますが、それは「2つの三角形の対応する3組の角がそれぞれ合同であること」という単純なものです(p102)。ただし、「相似な2つの三角形の対応する辺の比は等しい」という定理を成立させるために、そもそも比例関係とは何かという定義が必要です。そこで、平行の公理を使って線分間の積を導入し、その積により線分間の比例関係を定義します。
図1
すなわち図1のように点Oで直角に交わる半直線の一方yの上に点Aを取り、他方の半直線xの上に点Bおよび積の基準となる点Eを取ります。線分OA,OB,OEをそれぞれa,b,1と呼ぶことにすれば、a,b,1というのはいわば半直線上の座標を示すことになり、点A,B,Eの代わりにa,b,1と表示してもよくなります。ここで点B(座標b)を通り直線EAに平行な直線が点Aを通半直線と交わる点と点Oとを結ぶ線分を線分ab、つまり線分aと線分bとの積と定義します。そして積から線分同士の比例関係を定義します。
比例関係の定義 a:b=a':b'であるとは、ab'=ba'であることである
さて合同の公理により半直線x上に点Oを端点としてaと合同な線分a'を取り、半直線y上に点Oを端点としてbと合同な線分b'を取ることができます。すると積の順序を入れ替えた線分baを半直線y上に作れますが、これがabと一致すること、つまり線分の積について交換則が成り立つことは、次のパスカルの定理から示されます。
パスカルの定理 一直線上に点A,B,Cがあり別の直線上に点A',B',C'があるとき、AB'とBA'が平行かつBC'とCB'Aが平行ならばCA'とAC'も平行である。
図2
ところで線分の積を一意的に定義するには平行の公理が必要ですが、これにはもっともな理由があります。曲率がゼロでない面では三角形を拡大縮小すると内角の和が変化してしまい、「角が全て合同で、3辺の比が全て等しい」という相似関係を満たす三角形は一般には作れないからです。曲がった空間では相似形を保ったまま無理矢理拡大縮小しようとしても、どこかに歪みが生じるということです。
さてパスカルの定理は実は射影幾何学での有名な定理で、上記の定理はその特別な場合です。一般的なパスカルの定理は「円錐曲線上の六角形の対辺同士の交点3つは同一直線上にある」というものです。楕円で示すと図3aのようになりますが、ネット上で図を探すと図3bのように示した図が多く見つかりました。たぶん図3aよりスペースが小さくて済むからでしょう(^_^)。このようにパスカルの定理での六角形は普通にイメージする凸六角形とは限らず、辺同士が交わる図形でも構いません。6点を一筆書きでつないだ図形というのがぴったりしていると思います。
図3a
図3b
で、これらの図を点光源で照らして影を作っても、つまり射影変換しても、直線は直線のまま、円錐曲線は円錐曲線のまま、交点は交点のまま、ですからパスカルの定理は全ての円錐曲線について成立することがわかります。そして交わる2直線というのは円錐をその頂点を通る平面で切った断面にできますから、これも実は円錐曲線のひとつで、図4aのようにパスルカルの定理が成立します。さらにこの3点の共線を無限遠直線とすれば『幾何学基礎論』で使った定理になります(図4b)。
図4a
図4b
続く
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*1) 『原論』における比例論の事情については、斎藤憲「ユークリッド『原論』とは何か」岩波書店(2008/09)の第8章に詳しい。
合同の公理までを使い、線分と角について合同関係および大小関係が定義できました。これで順序尺度として定義できたと言えます。さらに線分同士の和と角同士の和も定義でき、その一意性が合同の公理から示されます。角の和の導入により、平行の公理が成立すれば三角形の内角の和が2直角になるという定理も証明されます。すなわち間隔尺度としても定義できたと言えます。次はいよいよ比例尺度として線分を定義すれば相似関係を導入できるのですが、比例理論の展開はユークリッドも悩んだ問題らしく、『原論』では第Ⅴ巻「比例論」から登場します*1)。それまでの面積とか円の定理については比例を使わずになんとかしているのですね。
一方『幾何学基礎論』では相似関係はまず三角形の相似として定義しますが、それは「2つの三角形の対応する3組の角がそれぞれ合同であること」という単純なものです(p102)。ただし、「相似な2つの三角形の対応する辺の比は等しい」という定理を成立させるために、そもそも比例関係とは何かという定義が必要です。そこで、平行の公理を使って線分間の積を導入し、その積により線分間の比例関係を定義します。
図1
すなわち図1のように点Oで直角に交わる半直線の一方yの上に点Aを取り、他方の半直線xの上に点Bおよび積の基準となる点Eを取ります。線分OA,OB,OEをそれぞれa,b,1と呼ぶことにすれば、a,b,1というのはいわば半直線上の座標を示すことになり、点A,B,Eの代わりにa,b,1と表示してもよくなります。ここで点B(座標b)を通り直線EAに平行な直線が点Aを通半直線と交わる点と点Oとを結ぶ線分を線分ab、つまり線分aと線分bとの積と定義します。そして積から線分同士の比例関係を定義します。
比例関係の定義 a:b=a':b'であるとは、ab'=ba'であることである
さて合同の公理により半直線x上に点Oを端点としてaと合同な線分a'を取り、半直線y上に点Oを端点としてbと合同な線分b'を取ることができます。すると積の順序を入れ替えた線分baを半直線y上に作れますが、これがabと一致すること、つまり線分の積について交換則が成り立つことは、次のパスカルの定理から示されます。
パスカルの定理 一直線上に点A,B,Cがあり別の直線上に点A',B',C'があるとき、AB'とBA'が平行かつBC'とCB'Aが平行ならばCA'とAC'も平行である。
図2
ところで線分の積を一意的に定義するには平行の公理が必要ですが、これにはもっともな理由があります。曲率がゼロでない面では三角形を拡大縮小すると内角の和が変化してしまい、「角が全て合同で、3辺の比が全て等しい」という相似関係を満たす三角形は一般には作れないからです。曲がった空間では相似形を保ったまま無理矢理拡大縮小しようとしても、どこかに歪みが生じるということです。
さてパスカルの定理は実は射影幾何学での有名な定理で、上記の定理はその特別な場合です。一般的なパスカルの定理は「円錐曲線上の六角形の対辺同士の交点3つは同一直線上にある」というものです。楕円で示すと図3aのようになりますが、ネット上で図を探すと図3bのように示した図が多く見つかりました。たぶん図3aよりスペースが小さくて済むからでしょう(^_^)。このようにパスカルの定理での六角形は普通にイメージする凸六角形とは限らず、辺同士が交わる図形でも構いません。6点を一筆書きでつないだ図形というのがぴったりしていると思います。
図3a
図3b
で、これらの図を点光源で照らして影を作っても、つまり射影変換しても、直線は直線のまま、円錐曲線は円錐曲線のまま、交点は交点のまま、ですからパスカルの定理は全ての円錐曲線について成立することがわかります。そして交わる2直線というのは円錐をその頂点を通る平面で切った断面にできますから、これも実は円錐曲線のひとつで、図4aのようにパスルカルの定理が成立します。さらにこの3点の共線を無限遠直線とすれば『幾何学基礎論』で使った定理になります(図4b)。
図4a
図4b
続く
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*1) 『原論』における比例論の事情については、斎藤憲「ユークリッド『原論』とは何か」岩波書店(2008/09)の第8章に詳しい。
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