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ノーベル文学賞2016

2016-10-18 06:43:10 | その他、雑記
 2016年のノーベル文学賞はボブ・ディラン氏に決まりました。文学賞にはいつもは興味のない私も、意外な分野からの受賞にちょっと驚いて興味を引かれました。私も文学賞と言えば小説と思い込んでいたのですが、考えてみれば歌詞は詩の一種であり詩も文学に違いありません。しかしそれならば過去にも小説ではなく詩にノーベル文学賞が与えられたことはあったのでしょうか? ということでウィキペディアの記事を読んでみますと、なんと小説・詩・戯曲が拮抗している印象です。チャーチルの伝記[*1]、はまあ文学と言えば文学でしょうけど、哲学でも何人かいたことは驚きです。ノンフィクションも文学だ。はい、その通りですね。

 この過去のリストを見れば歌詞による受賞なんて意外でもなんでもありませんね。単に私の思い込みが強かっただけです。今は自分の思い込みも調べればすぐに正せる時代でよかったですね[*2]。そのうちに短歌や俳句での受賞も・・・。

 それはともかく受賞理由は公式ウェブサイトプレス・リリースによれば、"for having created new poetic expressions within the great American song tradition" と随分簡単というか、悪く言えば具体性がないものです。これが自然科学関連の賞や経済学賞なら受賞理由となった業績は具体的に明確です。でも上記の文学賞の理由では、一体どの作品が受賞対象なのかさっぱりわかりません。むしろ、これらの作品群を生み出した全体の活動が受賞対象だというふうに受け取れます。

 過去の文学賞の受賞理由をいちいち確認するのも大変そうでやっていませんが、上記のウィキペディアの記事のリストを見るとジャンル欄に「哲学・小説・戯曲」などとあったりして、どうも具体的作品が明示されていないことが普通にありそうです。いいのかなあ、それで。結局受賞対象作品は受賞者の作品のすべて、となってしまいますがねえ。平和賞だって、対象となった業績はかなりはっきりしているのだけど。

 少なくとも他の賞のように「一発ものすごい発見でノーベル賞」ということはありえなさそうです。確かに具体的な作品について「誰もが認めるノーベル賞級の作品」というものを特定できるかというと、その評価に人間的価値観が大きなウェイトを占める文学作品では、ほぼ不可能とも思えます。となるとやはり「いくつもの作品を生み出すことで大きな影響を与えた人物」に与えるしか方法はなさそうです[*3]。

 なお「歌手」もしくは「歌」が受賞対象となったことに戸惑う声は多いのですが、もともと詩というものはある種のリズムに乗せて言葉に出すのが伝統だったのですから、そこは問題ないと思います。歌詞のない曲だけではさすがに無理筋でしょうが。過去に多くの文学賞をとった戯曲は曲の他に演技まで入っていますからね。でもシェークスピアの作品は戯曲だったなどの例を見れば、戯曲が文学賞の対象となることには違和感はないでしょう。

 以上、つれづれなるままの感想でした。

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*1) 「1953年の回顧録でノーベル文学賞」中央日報日本語版(2016/03/219
*2) それなのに調べずにうかつな発言をする人もいる。
 a) 時代の声を感じるノーベル文学賞の「文学賞についてはある程度著名な書籍として世界各国で翻訳され、広くその内容について認知され、共感されていることがかつての流れでありました。」という発言。かってとは何年から何年までを指すのだろうか?
 b) デヴィ夫人がボブ・ディランのノーベル賞受賞に異論「文学ではない」。まあ、この人は専門家でもなんでもない一般人だから調べなかったと責められる筋合いもない。調べる前の私も含めた一般人の平均的感想のサンプルと見るのが妥当だろう。
 c) 松本人志、ボブ・ディランのノーベル文学賞をバッサリ「ちんぷんかんぷん」(2016/10/16)。同上。「正直言うとよく分からない」一般人の、他愛ないおしゃべりのサンプルと捉えるのが妥当だろう。トークショーでの発言だもの。あっ、b)もテレビでの発言だった。
*3) 【文学ってなに?】ボブ・ディランのノーベル文学賞受賞についてどうして批判するひとがいるのか? (2016/10/15)では「「作品」でなく「ひと」に与えられる」と断言されている。そうなのかなあ、やっぱり。事実の認識としては、この筆者の文学観が妥当なものだと思います。

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