NHKのサイエンスゼロがお気楽に「ダーウィンの進化論に異議あり(2016/12/25,11:30放送)」なんてタイトルの番組を放送しました。再放送は01/07,0:30です。これは「徹底解説!科学の未解決問題」と題した2本連続の2週目のもので、1週目は「心はどうやって生まれるのか?(2016/12/18,11:30放送)」です。
解説者兼ナビゲーターの竹内薫は『99・9%は仮説(2006/02/16)』や『まだ誰も解けていない 科学の未解決問題(2014/01/23)』の著書でわかるように未解決問題が大好きな人ですから、「ダーウィン理論では説明できないことがいっぱいある」と無理やりにでもタイトル付けする人ですけど、「ドーキンスの『利己的な遺伝子』を読んでこの道にはいった[*1]」という長谷川英祐準教授まで乗せられちゃってます。
お題は2つで、カッコウで有名な"托卵"と長谷川準教授の研究テーマである"働かないアリ"の問題です。この2つのどこがダーウィン理論では説明できないのかというと・・・。活字からの引用ではないので、私の脳内で翻訳してから書きますが・・。
一番目に登場するのは"働かないアリ"ですが、これは長谷川英祐『働かないアリに意義がある』メディアファクトリー (2010/12/21)に詳しく書かれています。要約すれば、
・ひとつの巣の中の働きアリにはよく働く者からほとんど働かない者まで多様性がある。
・その理由は、もしすべてが100%近く働くアリだと何かの時に全員倒れてしまうから。
・よく働くアリが疲れたりして働けなくなった時に働かないアリが働きだす。
[*2](2017/05/29追加)
一言で言えば労働力に予備を抱えているということです。で長谷川英祐の言葉では、「効率が良くてたくさん子孫を残せる者が生き残る、というのがダーウィンの理論だったはずなので矛盾する」「さらに"働かないアリ"は巣の生産性を下げている」。ここで竹内薫が合いの手「会社だったら首ですよね。」
これぞミスリーディング誘導のお手本ですね。どうしてアリの巣が人間の会社と同じ目的を持たなきゃいけないのさ!
長谷川英祐もどうして「効率が良くて」などとダーウィンが書いてもいない言葉を挿入するんでしょう。進化論はちゃんと理解しているはずだと思うのですが。いや、先達を越えたいという研究者の野心は理解できるんだけども。それとも本当に「効率が良い者が生き残る」というのがダーウィン理論のひとつだと誤解しているのでしょうか?
アリの巣の目的は生き残る事です。生産性を上げることではありません。自分たちの巣に必要な資源を得るための生産性は必要でしょうが、そのために常に100%の力を出していたら何らかの危機の時に全滅します。いざという時の予備を持つことは生き残りには必須の危機管理なのです。例えばヒトでも"火事場の馬鹿力"の言葉で表されるように、危機のない通常状態では100%の力をだせないような仕組みが備わっています。労働力の予備である"働かないアリ"はまさにダーウィン理論の正しさを示す例であり、実際に見つかる前に予測できた生物学者がいなかったことが不覚というべき事例でしょう。
ただし、"働かないアリ"が生じるメカニズムには色々とおもしろい謎がありそうです。
次に"托卵"では托卵先の親に見つかるとか様々にリスクも多く、自分で育てるより「効率が悪い」はずなのに進化している、としています。ダーウィン理論では「効率が悪いものは淘汰されるはずだ」。とか言っといて結末では種明かし(の中のひとつかも知れないが)をしてるじゃないですか。ちゃんとダーウィン理論で説明してるじゃない(^_^)。
会場アンケートで「托卵はダーウィン理論に反すると思うか?」という問いに半数以上は「反しない」と回答してましたから、一般参加者のみなさんはなかなかにまともでしたね。確かに日本では「ダーウィンの進化論」と言えば確かな権威でしょうからお気楽に逆らうことができます。ある種の宗教や政治家をからかうようにお気楽にからかいの標的にもできるでしょう。これがアメリカだと「ダーウィンなんか火あぶりだ」とまじめに思ってる人も多そうだから、あんまりお気楽ではありません。進化論裁判を始めとする事情を色々と知っていれば、竹内さん達もお気楽にはなれないと思います。この事件とその影響についてはKousyoublog「進化論教育は罪か?スコープス裁判と原理主義が変えたアメリカ」(2010/03/25,2015/10/14)が詳しそうです。そしてアメリカ教育事情,第32回「アメリカ人と進化論」(2012/08/10)によれば現在(2012/08/10)でも、「つい最近まで進化論を教えることのなかった州もありますし、どのように教えるかは教師の自由として、いまだに教室で進化論を取り上げない教師が多い州もあります。」とのことでした。
なお反ダーウィニズムについては次の2つのサイトが参考になります。
忘却からの帰還 "Intelligent Design Watcher" Kumicit's Blog
進化論と創造論
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*1) at home こだわりアカデミーの2013年3月号掲載記事より、
「もともと、子どものころから生き物の動きを見るのが好きだったんですが、アリに興味を持ったのは、大学2年生くらいの時。イギリスの動物行動学者リチャード・ドーキンスの著書『利己的な遺伝子』を読んだことがきっかけでした。」
*2)(2017/05/29追加) 2017/04/25の記事に『働かないアリに意義がある』の記事を書いた。
本ブログの関連過去記事
ダーウィンの5つの進化理論-1-(2010/08/01)
ダーウィンの5つの進化理論-2-(2010/08/07)
ダーウィンの5つの進化理論-3-(2010/08/14)
ダーウィンの5つの進化理論-4-(2010/08/25)
解説者兼ナビゲーターの竹内薫は『99・9%は仮説(2006/02/16)』や『まだ誰も解けていない 科学の未解決問題(2014/01/23)』の著書でわかるように未解決問題が大好きな人ですから、「ダーウィン理論では説明できないことがいっぱいある」と無理やりにでもタイトル付けする人ですけど、「ドーキンスの『利己的な遺伝子』を読んでこの道にはいった[*1]」という長谷川英祐準教授まで乗せられちゃってます。
お題は2つで、カッコウで有名な"托卵"と長谷川準教授の研究テーマである"働かないアリ"の問題です。この2つのどこがダーウィン理論では説明できないのかというと・・・。活字からの引用ではないので、私の脳内で翻訳してから書きますが・・。
一番目に登場するのは"働かないアリ"ですが、これは長谷川英祐『働かないアリに意義がある』メディアファクトリー (2010/12/21)に詳しく書かれています。要約すれば、
・ひとつの巣の中の働きアリにはよく働く者からほとんど働かない者まで多様性がある。
・その理由は、もしすべてが100%近く働くアリだと何かの時に全員倒れてしまうから。
・よく働くアリが疲れたりして働けなくなった時に働かないアリが働きだす。
[*2](2017/05/29追加)
一言で言えば労働力に予備を抱えているということです。で長谷川英祐の言葉では、「効率が良くてたくさん子孫を残せる者が生き残る、というのがダーウィンの理論だったはずなので矛盾する」「さらに"働かないアリ"は巣の生産性を下げている」。ここで竹内薫が合いの手「会社だったら首ですよね。」
これぞミスリーディング誘導のお手本ですね。どうしてアリの巣が人間の会社と同じ目的を持たなきゃいけないのさ!
長谷川英祐もどうして「効率が良くて」などとダーウィンが書いてもいない言葉を挿入するんでしょう。進化論はちゃんと理解しているはずだと思うのですが。いや、先達を越えたいという研究者の野心は理解できるんだけども。それとも本当に「効率が良い者が生き残る」というのがダーウィン理論のひとつだと誤解しているのでしょうか?
アリの巣の目的は生き残る事です。生産性を上げることではありません。自分たちの巣に必要な資源を得るための生産性は必要でしょうが、そのために常に100%の力を出していたら何らかの危機の時に全滅します。いざという時の予備を持つことは生き残りには必須の危機管理なのです。例えばヒトでも"火事場の馬鹿力"の言葉で表されるように、危機のない通常状態では100%の力をだせないような仕組みが備わっています。労働力の予備である"働かないアリ"はまさにダーウィン理論の正しさを示す例であり、実際に見つかる前に予測できた生物学者がいなかったことが不覚というべき事例でしょう。
ただし、"働かないアリ"が生じるメカニズムには色々とおもしろい謎がありそうです。
次に"托卵"では托卵先の親に見つかるとか様々にリスクも多く、自分で育てるより「効率が悪い」はずなのに進化している、としています。ダーウィン理論では「効率が悪いものは淘汰されるはずだ」。とか言っといて結末では種明かし(の中のひとつかも知れないが)をしてるじゃないですか。ちゃんとダーウィン理論で説明してるじゃない(^_^)。
会場アンケートで「托卵はダーウィン理論に反すると思うか?」という問いに半数以上は「反しない」と回答してましたから、一般参加者のみなさんはなかなかにまともでしたね。確かに日本では「ダーウィンの進化論」と言えば確かな権威でしょうからお気楽に逆らうことができます。ある種の宗教や政治家をからかうようにお気楽にからかいの標的にもできるでしょう。これがアメリカだと「ダーウィンなんか火あぶりだ」とまじめに思ってる人も多そうだから、あんまりお気楽ではありません。進化論裁判を始めとする事情を色々と知っていれば、竹内さん達もお気楽にはなれないと思います。この事件とその影響についてはKousyoublog「進化論教育は罪か?スコープス裁判と原理主義が変えたアメリカ」(2010/03/25,2015/10/14)が詳しそうです。そしてアメリカ教育事情,第32回「アメリカ人と進化論」(2012/08/10)によれば現在(2012/08/10)でも、「つい最近まで進化論を教えることのなかった州もありますし、どのように教えるかは教師の自由として、いまだに教室で進化論を取り上げない教師が多い州もあります。」とのことでした。
なお反ダーウィニズムについては次の2つのサイトが参考になります。
忘却からの帰還 "Intelligent Design Watcher" Kumicit's Blog
進化論と創造論
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*1) at home こだわりアカデミーの2013年3月号掲載記事より、
「もともと、子どものころから生き物の動きを見るのが好きだったんですが、アリに興味を持ったのは、大学2年生くらいの時。イギリスの動物行動学者リチャード・ドーキンスの著書『利己的な遺伝子』を読んだことがきっかけでした。」
*2)(2017/05/29追加) 2017/04/25の記事に『働かないアリに意義がある』の記事を書いた。
本ブログの関連過去記事
ダーウィンの5つの進化理論-1-(2010/08/01)
ダーウィンの5つの進化理論-2-(2010/08/07)
ダーウィンの5つの進化理論-3-(2010/08/14)
ダーウィンの5つの進化理論-4-(2010/08/25)
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