麻耶雄嵩『隻眼の少女 (文春文庫)』文藝春秋(2013/03/08)を読みました。随分久しぶりに本格推理小説を読みました。なお、単行本版は(2010/09)に発売されています。ということで、ネタバレ満載ですから御注意を。
ヒトの性は性染色体の組合せで決まり、男はXY、女はYYの組合せです。しかし性の決まり方は生物により実に様々で、これが蜂の場合は、染色体が2本ずつの対をなす2倍体がメスとなり、未受精卵から生まれる半数体(1倍体とは言わないのだね、これが)がオスとなります。すると、娘は母(女王蜂ですね)と父(オス蜂です)から染色体を1本受け継ぐ、つまり両方の形質を半分ずつ受け継ぎますので、母と娘との血縁度は1/2と定義されます。では姉妹間、つまり同じ女王から生まれた働きバチ同士ではどうなるでしょうか。働きバチの1対の染色体のうちの1本は父親の1本の染色体で、これは姉妹間で共通なので1/2の形質は共通となります。もう1本の染色体は母の2本の染色体のどちらかですから、これが姉妹間で同じものになる確率は1/2*1/2=1/4です。つまり3/4の形質が共通となり、姉妹間の血縁度は3/4と定義されます。それゆえに働きバチは自身の子供を作らずとも姉妹間で利他的に振る舞うことで自分の遺伝子を残せるのです。
いやあ、まさかハミルトンによる真社会性昆虫についての血縁選択説を推理小説のネタにする作家が出るとは驚きでした。
「スガルというのは古語で蜂の異名」なんて露骨に書いてるし。
それはともかく、この小説世界での「(名)探偵という職業」の在り方はなかなか説得力があっておもしろいです。とはいえ、冷静に考えるとやはり異世界(並行世界と言うべきか)の職業に見えてくるけれど。
さて、いよいよネタバレ、ということで、私が第1部で考えたのは次の点でした。
真犯人は体力がある。元刑事を確信を持って襲ったこともありますが、さらに、成人男性の死体に背広を着させた上で仰向けにしておく、というのは力も慎重さも必要な作業だと考えたからです。ひ弱で小柄な子供なんて真っ先に容疑からはずれます。
次は、いくつかの証拠がミスディレクション(misdirection)を狙った細工だとしたら、真犯人は探偵みかげの思考法、とはいかなくとも名探偵なる者の思考法を知っていないと不自然であり、頭が良すぎるのではないかという点です。さらにみかげの実力も評価しているはずです。初代みかげが有名なのはあくまで警察司法関係者の間という設定ですから、琴折家でそれほど確信をもっいてる人間というと絞れそうな気も・・。とはいえ第1事件での推理を見た後でなら誰でも、特に頭の良い真犯人ならみかげの実力は正当に評価できますね。
また、もしみかげが登場しなかったとしたら第1事件では静馬が逮捕されるはずですが、その後の第2事件ではもう静馬を犯人にはできません。どうする計画だったのでしょうか?
頭が良すぎて名探偵に挑むかのような細工、という点から妄想したのは以下の筋でした。
1.初代みかげが未解決だったという事件との関連があるのではないか?
その真犯人が再び娘に挑むとか。でもあまりに陰謀めいて不自然です。
18年後の第2部では相当な年になるはずだし。犯人も2代目か?
2.今では基本手筋とも言える、探偵が真犯人説
母のようになろうと思い詰めてる印象だし、デビューを飾るための自作自演というのは
動機としては自然とも言えます。(本格推理小説の中では、ですが。)
でも、さすがに父が殺されるに至ってこの筋は捨てました。
いや、父が娘のデビューのために命を捨てるという筋も浮かびましたが、どう見ても
自殺ではないし・・。
3.上記以外とすれば登場人物の誰かが巧妙に自分の性格を偽装している。
はずだけど、うーむ。
そして最後に第1部での真犯人(実は違う?)のみかげとのやり取りが妙に冷静だったことです。頭の良すぎる真犯人だったとしたら、これは自然と言えますが、誰かをかばった見かけ通りの人だったとしたら、不自然に冷静過ぎると思いました。
で、まあ耐えきれずに最終解決を読んだのでした。
上記の不自然な点も全て自然に落とし込む最終解決を、この作家は用意していましたね。脱帽です。しかしこの真犯人像は現実世界ではありえないのではと思えるような天才ですね。それでも、絶対ありえないと断言できないほどには自然だし、本格推理小説なら完全に許せるでしょう。リアルさを求めすぎたら失望するでしょうね。
でもアマゾンでの5ページにも渡る多数の書評では評価が極端に分かれてますね。現代では推理小説ファンも多様化しているということでしょう。選択淘汰説との関連は現時点では紫陽花 "玲瓏"さん(2013/5/12)だけが書いてました。体力からの推理を披露してたのは、あれれ?さん(2011/1/20)でした。
私はこの作家の作品はこれが初めてですが、他にも問題作を書いてるようですね。
なお、ライターの焦げ跡での左右関係が文章だけではわかりにくかったのですが、次の図のようなことだということでしょうね。他にも図があれば一発で理解できるのに文章だけなのでわかりにくいという部分がありました。これは他の多くの小説でも同じことはあるのですが、読者としてはつらいですね。
ヒトの性は性染色体の組合せで決まり、男はXY、女はYYの組合せです。しかし性の決まり方は生物により実に様々で、これが蜂の場合は、染色体が2本ずつの対をなす2倍体がメスとなり、未受精卵から生まれる半数体(1倍体とは言わないのだね、これが)がオスとなります。すると、娘は母(女王蜂ですね)と父(オス蜂です)から染色体を1本受け継ぐ、つまり両方の形質を半分ずつ受け継ぎますので、母と娘との血縁度は1/2と定義されます。では姉妹間、つまり同じ女王から生まれた働きバチ同士ではどうなるでしょうか。働きバチの1対の染色体のうちの1本は父親の1本の染色体で、これは姉妹間で共通なので1/2の形質は共通となります。もう1本の染色体は母の2本の染色体のどちらかですから、これが姉妹間で同じものになる確率は1/2*1/2=1/4です。つまり3/4の形質が共通となり、姉妹間の血縁度は3/4と定義されます。それゆえに働きバチは自身の子供を作らずとも姉妹間で利他的に振る舞うことで自分の遺伝子を残せるのです。
いやあ、まさかハミルトンによる真社会性昆虫についての血縁選択説を推理小説のネタにする作家が出るとは驚きでした。
「スガルというのは古語で蜂の異名」なんて露骨に書いてるし。
それはともかく、この小説世界での「(名)探偵という職業」の在り方はなかなか説得力があっておもしろいです。とはいえ、冷静に考えるとやはり異世界(並行世界と言うべきか)の職業に見えてくるけれど。
さて、いよいよネタバレ、ということで、私が第1部で考えたのは次の点でした。
真犯人は体力がある。元刑事を確信を持って襲ったこともありますが、さらに、成人男性の死体に背広を着させた上で仰向けにしておく、というのは力も慎重さも必要な作業だと考えたからです。ひ弱で小柄な子供なんて真っ先に容疑からはずれます。
次は、いくつかの証拠がミスディレクション(misdirection)を狙った細工だとしたら、真犯人は探偵みかげの思考法、とはいかなくとも名探偵なる者の思考法を知っていないと不自然であり、頭が良すぎるのではないかという点です。さらにみかげの実力も評価しているはずです。初代みかげが有名なのはあくまで警察司法関係者の間という設定ですから、琴折家でそれほど確信をもっいてる人間というと絞れそうな気も・・。とはいえ第1事件での推理を見た後でなら誰でも、特に頭の良い真犯人ならみかげの実力は正当に評価できますね。
また、もしみかげが登場しなかったとしたら第1事件では静馬が逮捕されるはずですが、その後の第2事件ではもう静馬を犯人にはできません。どうする計画だったのでしょうか?
頭が良すぎて名探偵に挑むかのような細工、という点から妄想したのは以下の筋でした。
1.初代みかげが未解決だったという事件との関連があるのではないか?
その真犯人が再び娘に挑むとか。でもあまりに陰謀めいて不自然です。
18年後の第2部では相当な年になるはずだし。犯人も2代目か?
2.今では基本手筋とも言える、探偵が真犯人説
母のようになろうと思い詰めてる印象だし、デビューを飾るための自作自演というのは
動機としては自然とも言えます。(本格推理小説の中では、ですが。)
でも、さすがに父が殺されるに至ってこの筋は捨てました。
いや、父が娘のデビューのために命を捨てるという筋も浮かびましたが、どう見ても
自殺ではないし・・。
3.上記以外とすれば登場人物の誰かが巧妙に自分の性格を偽装している。
はずだけど、うーむ。
そして最後に第1部での真犯人(実は違う?)のみかげとのやり取りが妙に冷静だったことです。頭の良すぎる真犯人だったとしたら、これは自然と言えますが、誰かをかばった見かけ通りの人だったとしたら、不自然に冷静過ぎると思いました。
で、まあ耐えきれずに最終解決を読んだのでした。
上記の不自然な点も全て自然に落とし込む最終解決を、この作家は用意していましたね。脱帽です。しかしこの真犯人像は現実世界ではありえないのではと思えるような天才ですね。それでも、絶対ありえないと断言できないほどには自然だし、本格推理小説なら完全に許せるでしょう。リアルさを求めすぎたら失望するでしょうね。
でもアマゾンでの5ページにも渡る多数の書評では評価が極端に分かれてますね。現代では推理小説ファンも多様化しているということでしょう。選択淘汰説との関連は現時点では紫陽花 "玲瓏"さん(2013/5/12)だけが書いてました。体力からの推理を披露してたのは、あれれ?さん(2011/1/20)でした。
私はこの作家の作品はこれが初めてですが、他にも問題作を書いてるようですね。
なお、ライターの焦げ跡での左右関係が文章だけではわかりにくかったのですが、次の図のようなことだということでしょうね。他にも図があれば一発で理解できるのに文章だけなのでわかりにくいという部分がありました。これは他の多くの小説でも同じことはあるのですが、読者としてはつらいですね。
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