本ブログ「異生物の心」(2024/06/30)や「魔界の異生物SF?」(2024/06/30)では架空の知的生命体の心を想像してみたのですが、これが人とも異なる実在の動物達の心を描くということになりますと、ジャンルがとても曖昧になります。なにせ、そんなテーマのフイクションは太古の昔からありますから。
動物フィクションの主人公として圧倒的に多いのは犬、次に猫、でしょうね、やっぱり。SFと銘打ってはいないのに、怪しげな脳手術とか突然変異としか思えない理由で人並の知能を持っている犬が主人公のフィクションなんていくらでもありそうです。
素のままでも人並の知能を持っているかも知れない動物としては、現在の所は海のクジラ、イルカ類、陸では象の仲間が有力で、クジラ類がちよっと賢くなった知的異生物というのは、SF作品には割とよく登場します。でも象さんはあまり記憶にありません。
その象さんの一種であるケナガマンモス(Woolly mammoth)が、なかなかの知的生命体であったという想定のSFが、スティーブン・バクスター(Stephen_Baxter)『マンモス』[Ref-1]です。
マンモス達の描写は原生のゾウの生態を忠実に反映させてリアルな動物フィクションになっています。群れのリーダーは経験豊富な女性であること、排泄物への忌避が少ないこと、足を通じて低周波音を聞き取り遠方とも会話ができること、など。そして普通の低周波音どころか大地(地球)の運動までも知覚できるという設定がなされました。26千年周期の歳差運動さへ認識していて「大年」と名付けているのですから。もっとも歳差の認識には、「伝承」を通じた超長期間の「記憶」を持っていることも貢献しています。なにせ哺乳類が恐竜におびえながら生活していた時代の「記憶」が神話として残っているのですから、ぶっ飛んでいます。『ジーリー・クロニクル』[Ref-2]などでの時間の果てや空間の果てへのぶっ飛びに比べれば可愛いものかも知れませんが。
これほどの知恵を抱えている彼らから見ると、人類というのは『迷った者』と呼ばれる最も恐ろしい危険生物です。ごもっとも。
しかし、高度な知性を持つ彼らも数が減り絶滅寸前の状態。この話は実は、これもSF定番の「最後の人類の物語」とも言えます。ここでの人類というのは知的生命体という意味ですけどね。けれど現実に絶滅している種が主人公なので、もうドキドキしまくりです。しかも我々が知っているどの時代かがわからない。主人公にはそんな知識はありませんから。これが現代、というか20世紀第3四半期以降くらいであれば、彼らと人類が遭遇すれば人類側はなんとしても彼らを絶滅から防ごうとするはずです。が、それ以前であれば逆にとどめを刺しかねません。
などと考えたのは私のミスで、実は割と早い段階に時代を示すヒントが登場していたのでした。速読で読み落としてました。
もちろん技術文化という面では彼らのレベルはアウストラロピテクスと比べてもどうかという状態で、様々な自然や他生物の脅威にさらされているし、普通に軽はずみな者も人間並みにいるしで、かなりの負傷事故も起きますので、そういう痛みが苦手な方は気を付けてください。
なお原作は3部作(1.Silverhair, 2.Longtusk, 3.Icebones)ですが、現在の日本語訳は第1部だけです[Ref-1]。
最後に彼らに引き継がれている格言がいくつか登場しますが、これがなかなか名言なのです。
===========引用開始=====================
はじめてオオカミにかまれるのはオオカミのせい、二度目はおまえのせい。 p64
旅のコツは、一番危険の少ない道をえらぶこと p94
水の消えるところでは、分別もじきに後を追う p314
いまや彼女はオオカミのもの p173
昼間が終わらなくなると、われわれは冬毛と一緒に心配を脱ぎ捨てる p147
===========引用終り=====================
なお、実在したマンモス属はアジアゾウから分岐していて、ケナガマンモス以外にも何種類もがいます[Ref-3]。
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Ref-1) スティーヴン バクスター(Stephen Baxter);中村融(訳)『マンモス―反逆のシルヴァーヘア (海外SFノヴェルズ)』早川書房 (2001/07) ISBN-13:978-4152083586
原作3部作The Mammoth Trilogyの第1部。
Ref-2)
2a) スティーヴン・バクスター;古沢嘉通(訳)『プランク・ゼロ (ハヤカワ文庫 SF―ジーリー・クロニクル (1427))』(2002/12/01) ISBN-13:978-4150114275
2b) スティーヴン・バクスター;小野田和子(訳)『真空ダイヤグラム (ハヤカワ文庫 SF ハ 9-9 ジーリー・クロニクル 2)』(2003/01/01) ISBN-13:978-4150114305
Ref-3) 哺乳綱長鼻目ゾウ科マンモス属
動物フィクションの主人公として圧倒的に多いのは犬、次に猫、でしょうね、やっぱり。SFと銘打ってはいないのに、怪しげな脳手術とか突然変異としか思えない理由で人並の知能を持っている犬が主人公のフィクションなんていくらでもありそうです。
素のままでも人並の知能を持っているかも知れない動物としては、現在の所は海のクジラ、イルカ類、陸では象の仲間が有力で、クジラ類がちよっと賢くなった知的異生物というのは、SF作品には割とよく登場します。でも象さんはあまり記憶にありません。
その象さんの一種であるケナガマンモス(Woolly mammoth)が、なかなかの知的生命体であったという想定のSFが、スティーブン・バクスター(Stephen_Baxter)『マンモス』[Ref-1]です。
マンモス達の描写は原生のゾウの生態を忠実に反映させてリアルな動物フィクションになっています。群れのリーダーは経験豊富な女性であること、排泄物への忌避が少ないこと、足を通じて低周波音を聞き取り遠方とも会話ができること、など。そして普通の低周波音どころか大地(地球)の運動までも知覚できるという設定がなされました。26千年周期の歳差運動さへ認識していて「大年」と名付けているのですから。もっとも歳差の認識には、「伝承」を通じた超長期間の「記憶」を持っていることも貢献しています。なにせ哺乳類が恐竜におびえながら生活していた時代の「記憶」が神話として残っているのですから、ぶっ飛んでいます。『ジーリー・クロニクル』[Ref-2]などでの時間の果てや空間の果てへのぶっ飛びに比べれば可愛いものかも知れませんが。
これほどの知恵を抱えている彼らから見ると、人類というのは『迷った者』と呼ばれる最も恐ろしい危険生物です。ごもっとも。
しかし、高度な知性を持つ彼らも数が減り絶滅寸前の状態。この話は実は、これもSF定番の「最後の人類の物語」とも言えます。ここでの人類というのは知的生命体という意味ですけどね。けれど現実に絶滅している種が主人公なので、もうドキドキしまくりです。しかも我々が知っているどの時代かがわからない。主人公にはそんな知識はありませんから。これが現代、というか20世紀第3四半期以降くらいであれば、彼らと人類が遭遇すれば人類側はなんとしても彼らを絶滅から防ごうとするはずです。が、それ以前であれば逆にとどめを刺しかねません。
などと考えたのは私のミスで、実は割と早い段階に時代を示すヒントが登場していたのでした。速読で読み落としてました。
もちろん技術文化という面では彼らのレベルはアウストラロピテクスと比べてもどうかという状態で、様々な自然や他生物の脅威にさらされているし、普通に軽はずみな者も人間並みにいるしで、かなりの負傷事故も起きますので、そういう痛みが苦手な方は気を付けてください。
なお原作は3部作(1.Silverhair, 2.Longtusk, 3.Icebones)ですが、現在の日本語訳は第1部だけです[Ref-1]。
最後に彼らに引き継がれている格言がいくつか登場しますが、これがなかなか名言なのです。
===========引用開始=====================
はじめてオオカミにかまれるのはオオカミのせい、二度目はおまえのせい。 p64
旅のコツは、一番危険の少ない道をえらぶこと p94
水の消えるところでは、分別もじきに後を追う p314
いまや彼女はオオカミのもの p173
昼間が終わらなくなると、われわれは冬毛と一緒に心配を脱ぎ捨てる p147
===========引用終り=====================
なお、実在したマンモス属はアジアゾウから分岐していて、ケナガマンモス以外にも何種類もがいます[Ref-3]。
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Ref-1) スティーヴン バクスター(Stephen Baxter);中村融(訳)『マンモス―反逆のシルヴァーヘア (海外SFノヴェルズ)』早川書房 (2001/07) ISBN-13:978-4152083586
原作3部作The Mammoth Trilogyの第1部。
Ref-2)
2a) スティーヴン・バクスター;古沢嘉通(訳)『プランク・ゼロ (ハヤカワ文庫 SF―ジーリー・クロニクル (1427))』(2002/12/01) ISBN-13:978-4150114275
2b) スティーヴン・バクスター;小野田和子(訳)『真空ダイヤグラム (ハヤカワ文庫 SF ハ 9-9 ジーリー・クロニクル 2)』(2003/01/01) ISBN-13:978-4150114305
Ref-3) 哺乳綱長鼻目ゾウ科マンモス属
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