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天の声?:『ロメリア戦記』より

2024-04-29 10:09:37 | 架空世界
前回の続きです。

 ロメリアの能力である"恩寵"という"奇跡"について再掲します[1巻1章]
---------- 引用開始 -----------
 ただ王子が旅立つと知ったその夜。王子のために教会でお祈りをしていた時、天から荘厳な声とともに一つの奇跡を与えられたのだ。
 奇跡の名は『恩寵』。その効果は周囲にいる私の仲間に幸運と好調をもたらし、逆に敵対する者には不運と不調をもたらす。
 自分自身にはなに一つ効果を発揮しないが、王子たちは常にこの『恩寵』の恩恵にあずかっていた。
---------- 引用終了 -----------

 しかしロメリアの能力の効果は「なんだかいつもより好調だ」と感じるくらいで、曖昧なものです。おかげで、魔王討伐(魔王暗殺?)のパーティーの仲間たちは"恩寵"の効果を知ることなく、ロメリアを役立たずとして仲間外れにしてしまいます。こういう曖昧な効果の能力は、魔法や超能力が普通に存在する世界を描いた他の作品ではなかなか見かけないのではないでしょうか?[*1]
 他の作品にもよくある支援系魔法に分類されるのでしょうが、多くの支援系魔法は効果がはっきりしていますし、普通の魔法同様に持ち主の意思で発現します。"恩寵"はロメリアが一緒にいるだけで自然に発動しているようですが、これだけなら例がないわけでもありません。でも効いてるのかどうかわかりにくいような曖昧な魔法なんて、使いずらいし、必殺の魔法みたいに戦局打開の決定打にもならないし、ストーリー的にも主役になりにくいし。

 ではこの曖昧な"恩寵"の効果はどのように観測されているのかと言えば、
---------- 引用開始 -----------
 最初のころは体の調子がいいことに驚いていたが、数日もすればそれが当たり前となり、気にもしなくなっていた。
 しかし『恩寵』の効果は侮れない。
 王子たちはすでに好調な状態に慣れきっているが、敵対している相手にしてみれば、突然の不調に体の感覚がついていかず、ミスが重なり本来の力を発揮できない。逆に好調続きの王子たちは勢いづき、結果として戦いの流れを引き寄せることが出来た。
---------- 引用終了 -----------

 コーヒーの目覚まし効果より強いくらいの自覚される効果はあるみたいです。それ以外はロメリア自身の観察によるものだけが効果を確認できる観測的証拠です。敵の不調は、敵自身の自覚はわかりませんから、これもロメリア自身の観察によるものです。
 パーティーでのロメリアは後方支援役でしたから、仲間の体調観察もしっかりしていたでしょうし、自身の観察では"恩寵"の効果を確信できたのでしょう。でもやっぱり盲検で統計取らないと効果は確認できないんじゃないでしょうか?

 優れた軍師という理性的人間であるはずのロメリアも、自分を疑うということは難しい、というのも確かでしょうが。「天から荘厳な声とともに」与えるよと言われただけで、効果を確かめもせずに王子について行ってしまったというのは冷静なロメリア像とのずれも感じるのですが、理由は色々考えられるところです。
  ・とても信心深かった。(でも理性や論理的思考を失くすほどではない印象だけど)
    (教会の中だったから神以外の声とは思わなかったのかも)
  ・当時は王子を愛していたので矢も楯もたまらず。
  ・魔族から人々を救える力があると知って矢も楯もたまらず。
  ・まだ冷静な軍師としては成熟しておらず、成長したのは旅の間の経験ゆえ。

 困ったことに"恩寵"のことを他人に話すと能力が消えるらしいのです。
---------- 引用開始 -----------
 だが私は『恩寵』のことをだれにも話していなかった。
 『恩寵』の能力を考えれば話すべきではなかったし、何より力を授かった時、人に話すと能力が失われると天からの声に念押しされたからだ。
---------- 引用終了 -----------

 NHKからのお願いです。私たちは騙されない。「誰にも言うな」に注意!
 (「あなただけに特別な」にも注意だね!!)

 怪しいぞ、天の声、お前は一体何者なのだ! そのルールがお前にはどうにもできない自然現象や何者かの仕業なら、お前は少なくとも全能の神ではない。お前自身が決めたルールなら・・・動機はなんだ? そもそも『恩寵』というのはお前が自称しただけの、信仰者を狙ったネーミングだよな。
 いやいや、教会の中での祈りの最中だったから、ロメリアが勝手に『恩寵』という概念を当てはめただけなのかな? その可能性の方が強そうです。「天の声」というのもの自称ではなくロメリアの解釈の能性の方が強そうです。教会の祈りの場が我々が想像するような高い天井の空間なら、脳内だけに聞こえたはずの声は上の方から聞こえたようにも感じられたことでしょう。まあ、その効果は天の声も狙っていたでしょうけど。

 ロメリアは『恩寵』のことを話すと正気を疑われるという心配はあまりしていなかったようなので、天の声などと言っても「ありえない」と頭から否定される社会雰囲気でもなさそうです。むしろ稀有な役立ち能力として人間から狙われる方を心配していました。というか、神から恩寵を授かるという伝説は色々とあるのでしょうね。むしろ、勝手に「恩寵を授かった」などと公言したら、救世教教会ともめ事が起きそうな気がしますね。現実の中世ヨーロッパの教会だって、恩寵と認められれば良いけれど、下手すると逆に悪魔付きとか魔女とかレッテル張られそうですからね。
 けど、声の主が善意だけではないという可能性は、ロメリアになら少しは疑ってほしいなあ。

 実はロメリアはまだ知らないことなのだけれど、天の声を騙って某重要人物を操っていた謎の存在が登場するのです。さらに今は亡き魔王ゼルギスですが、群雄割拠する魔大陸を統一し、そこから農業を改革しては人口を増やし、産業を生み出しては商業を発展させ、ついに魔導船をも作り出し、「間違いなく歴史上二人といない人物」とロメリアに評されています[*2]。もしかして文明社会からの転生者とか召喚者ではと疑わせるような人物ですが、実は謎の存在が天の声でアドバイスしていたという可能性もあります。
 なにやら歴史の裏で暗闘を繰り広げる怪しい存在の影がちらほら。その正体は超生命ヴァイトン[Ref-2]かコリン・ウィルソン(Colin Wilson)『賢者の石』の悪役か。

 もし魔王ゼルギスが転生者だったとしても、恐竜絶滅の起きなかった別の時間線における恐竜人文明に生まれた一般人だった可能性も十分にあります。だからこそ人族を蹂躙したり奴隷化したりに抵抗がなかったのだったりして。

 ロメリアの天の声が単に引っ込み思案なだけの温厚で善意の存在なら良いのですが・・。口止めの動機も、例えば他の同様な存在にバレルことを恐れただけとも考えられますしね。
 それに"恩寵"を授けて以降は全く接触してこないというのは、某重要人物や(もしいたとしたら)ゼルギスの天の声とはやり口が違いますね。目的は何らかの理由で魔王ゼルギスを倒したかったことだけで、その後も"恩寵"を授けたままなのは御礼のつもり、ということなら一番良いパターンなんですが。忘れたころに天の声が聞こえてきて、しかも何かを要求したり何かをさせようとしたりしたら・・、まずは一旦電話を切って信頼できる人に相談しましょう!

 ところで、ロメリアを信頼する部下になら、"恩寵"効果を知らせればプラセボ効果も伴って、より強く効きそうですね。それでかえって部下が無理をするかも知れない、とロメリアなら危惧するでしょうけれど。

 ところで物語スタート時の婚約破棄宣言、異性の好みは人様々ですが、ふた昔も前の日本だと、ロメリアのように黙々と内助の功を尽くす女性に魅力を感じて3人のようなお転婆はちょっと、という好みの男性が多かったのではないかと思います。いや現在でも婚約破棄されるいわゆる悪役令嬢は積極的な性格で、悪役令嬢から婚約者を奪うヒロインは(見かけは)控えめというパターンが多いので、その点も少しユニークと言えばユニークですね。役立たずと勘違いされた主人公がパーティーから追放されるというパターンも踏襲しているので目立ちませんが。


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*1) 理性的観点では魔法などないとされる現実に近い世界を舞台として、魔法の存在が徐々に明らかになるというストーリーの作品でなら、曖昧効果の魔法はよくある。
*2) web版「第七十話 ユルバ砦での戦い⑧」。ロメリアは魔王ゼルギスを倒した時にその手記を手に入れており、このようなことを知った。

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Ref-1)
 1-a) 有山リョウ『ロメリア戦記 ~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~』小学館 (2020/06/24)~4巻(2022/04/25)~外伝(2023/07/19)
 1-b) web版
Ref-2)
 2a) E.F.ラッセル;矢野徹(訳)『見えない生物バイトン(世界の科学名作5)』講談社 (1966/01/01) [ASIN: B07WTZ4WXL]。国立国会図書館
 2b) E.F.ラッセル;矢野徹(訳)『超生命ヴァイトン』早川書房(1964)。キンドル版、グーテンベルク21(2015/08/14) [ASIN : B013T4WXGM]。
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