文化遺産としての赤塚不二夫論 今明かされる赤塚ワールドの全貌

赤塚不二夫を文化遺産として遺すべく、赤塚ワールド全般について論及したブログです。主著「赤塚不二夫大先生を読む」ほか多数。

赤塚漫画唯一のラブコメ『ユーラブミー君』

2020-04-06 20:43:30 | 第2章

このように、『おそ松くん』の大成功を引き金に、少年誌、児童誌を発表媒体にギャグナンセンス街道をまっしぐらに驀進して来た赤塚だったが、こうしたメインストリームから外れたところで、本来ギャグ漫画として定着し得なかったジャンルの笑いを、様々な媒体を通じ、試験的に生み出していったのもこの頃だった。

ラブコメの元祖と呼べるのか否か、賛否両論を待つまでもないが、「平凡」に1965年7月号から約一年間連載された『ユーラブミー君』(~66年8月号)は、そんな恋愛コメディーの範疇にカテゴライズされて然るべきシリーズだ。

「平凡」という人気のアイドルや青春スターがグラビアを飾り、最新の音楽やファッション等のトレンド情報をいち早く提供する極めてミーハーなティーンエイジャー向けの娯楽大衆誌に、ドメスティックな赤塚作品が掲載されることに違和感を覚える向きもあるだろうが、フラれてもフラれても、積極果敢にラブハントを繰り返す高校生・三太郎と、そんな三太郎を振り回し、男の子からチヤホヤされたくて仕方がないガールフレンドの千代子を取り巻くシチュエーションには、ウェットな土壌から飛び出した、ベビーブーム世代特有のドライな恋愛観にフォーカスが絞られ、その軽妙洒脱な語り口も効を奏してか、異物挿入感を全く感じさせない。

この作品で、主役の三太郎を凌ぐ強烈な存在感を放つのが、似非インテリキャラの大学生、ミスター教養だ。

その風貌や性格から、若き日のイヤミを彷彿させるミスター教養は、毎回三太郎と千代子の恋路を邪魔し、散々な目に遭うという、ショボい軽みを帯びた劣敗者であり、既存の似非権威への痛烈なアンチテーゼを唱え続けた赤塚独特のデフォルメが突き出たトリックスターである。

エリート本来の実質的な存在から掛け離れたその無窮の愚行は、はからずも、イヤミ同様、チャイルディシュなルサンチマンに支配されており、その痛ましいまでの行動原理は、ドラマの安定性を攪乱するに充分な爆笑を引き起こすこと間違いないだろう。