文化遺産としての赤塚不二夫論 今明かされる赤塚ワールドの全貌

赤塚不二夫を文化遺産として遺すべく、赤塚ワールド全般について論及したブログです。主著「赤塚不二夫大先生を読む」ほか多数。

アニメ版・第2作(88年)、第3作(98年)新原作・なかよし版『アッコちゃん』

2020-04-26 16:40:59 | 第3章

連載終了から実に十九年を経た1988年、フジテレビ系列による第二作目のテレビアニメ(88年10月9日~89年12月24日)の放映開始に伴い、「なかよし」10月号より、再び『アッコちゃん』の新作がリメイク連載される。(~89年9月号)

こちらも『おそ松くん』同様、レトロブームに便乗したテレビアニメとのタイアップ企画で始まったシリーズ連載だ。

第二作目のアニメ版では、アッコのキャラクターが第一作目の良家のお嬢様キャラをイメージさせるヒロイン像から一変、アクティブで男勝りな女の子像に設定されることになる。

また、前作のアニメ版では外国航路の船長という役どころだったアッコのパパが、当時テレビドラマの主人公にフィーチャーされる程花形職業として認知されていたニュースキャスターとして登場した以外にも、ママが超売れっ子の絵本作家という設定が付け加えられ、アッコ達ファミリーの住む家も、ロココ調建築の洋館から近代的なテラス付きハウスへと変更された。

これらのシチュエーションもまた、原作リメイク版のディテールに受け継がれ、作品全体にバブル景気時代のファッションや小道具、ライフスタイルが顕著に反映するなど、「なかよし」版の新原作は、「りぼん」版の旧原作とは全く趣の異なるファッショナブルなイメージを纏うと同時に、80年代少女趣味の嗜好を溶け込ませたキャッチーな美少女コミックへの傾斜を強めていった。

なお、「なかよし」版は01年に日本語と英語の台詞を併記したバイリンガル版も刊行。赤塚作品では00年、10年に『バカボン』、17年、19年に『おそ松くん』のバイリンガル版がリリースされ、幅広い世代の語学教育に活用されている。

第二作目のテレビアニメ・シリーズと「なかよし」版新原作の連載が終了した約八年後の1998年、『ひみつのアッコちゃん』は、再びフジテレビ系列において、三作目(98年4月5日~99年2月28日)のアニメが新作として放映される。

最高視聴率20・7%をマークするなど、レイティング面において、大健闘を見せた88年版『アッコちゃん』だったが、早々の段階で後番組の企画が決定していたほか、シリーズが高視聴率をキープし、余力を残したまま番組を終了することで、新たな『アッコちゃん』を再生し得ることも可能だという、テレビ局側のインテンションが働き、比較的短期のうちに放送終了した悲運のプログラムでもあった。

そんな諸般の事情を受け、暫しのインターバルを置いて復活を遂げたのが、第三シリーズである。

やはり、この第三作版『アッコちゃん』も、先行の二作のアニメ版と同様、作風や各種設定、キャラクターメイクに至るまで時代に沿ったアレンジが施され、原作本来の『アッコちゃん』とは、従来以上に似て非なるパラレルワールドの様相を呈していた。(尚、第三作放映開始に伴い、曙出版・曙文庫レーベルにて、『ひみつのアッコちゃん』第1巻が刊行される。赤塚のコミックスが同社より新刊としてリリースされるのは、77年の『天才バカボン』第31巻以来、実に二一年ぶりのことであったが、売り上げの不振からか、第2巻の発売はなされず、赤塚にとっての曙出版での刊行は、同書をもってピリオドを打つ結果となった。)

特に、美少女ヒロインの潮流が大きく変移した時代に作られただけあって、アッコのキャラクターは、原作の原型を一切留めていないビジュアルへと翻案され、オールドファンを愕然とさせる結果となった。

だが、作品の根底に流れる女の子と鏡の永遠の繋がり、憧れの姿に変身したいと願う女の子共通の深層意識をリアライズしたテーマは、時代を超越して、あらゆる世代の少女達に深いシンパシーを与え、親子二代に渡って『アッコちゃん』のファンだという人達も少なくない。

そういった意味でも、世代を超えて女の子を魅了し続けた『ひみつのアッコちゃん』は、夢見る少女達にとって、永久に変わらぬ憧れの存在であり、ハイファンタジーな魔法少女アニメにおけるクオリティー高きスタンダード作品と言えるだろう。


第二期連載の大幅な加筆訂正

2020-04-26 11:34:30 | 第3章

旧原作のリライトを中心とした68年版の第二期連載、もしくは、それ以降に刊行された虫コミックス(虫プロ商事・全3巻、69年)、アケボノコミックス(曙出版・全5巻、74年)、スターコミックス(大都社・全3巻、80年)、ぴっかぴかコミックス(小学館・全3巻、05年)小学館文庫(小学館・全1巻、05年)等の単行本では、コンパクト等のアイテムの他、ストーリー設定、キャラクター造形など、切り貼りや描き足しによる大幅な加筆訂正がなされ、アッコやモコ、カン吉といったレギュラーキャラのデザインにおいても若干の変更がなされるが、漫画名作館(アース出版局・全3巻、94年~95年)、完全版(河出書房新社・全4巻、09年)、オリジナル版(河出書房新社・全4巻、12年)は、きんらん社版(全4巻、64年~65年)曙出版A5版 (全6巻、65年頃)を主な底本としており、初出版に近い再編集版『アッコちゃん』を読むことが出来る。

また、リライトに付随し、アッコのペットで、『アッコちゃん』のマスコットキャラ的な役割を担うことになるキュートなメス猫・シッポナ、密かにアッコに恋心を抱きつつも、ついつい意地悪をして、いつも魔法のコンパクトでやっつけられてしまう暴れん坊の同級生・大将、その弟で、ガキ大将の兄の威光を笠に、周囲に偉そうな態度を振り撒く生意気な赤ん坊の少将、大将の飼い猫で、憎らしい巨漢猫のドラなどの新キャラクターも準レギュラーとして続々と登場。藤子・F・不二雄系メインストリームにも通ずるその均衡の取れたキャラクターアレンジメントは、シチュエーションコメディーという観点からも、総じて堅固な安定感を裏付け、作品世界に一気に弾みを付けていった。

一方、東映動画魔法少女路線第二弾としてスタートしたテレビアニメ版『ひみつのアッコちゃん』は、最高視聴率27・8%、平均視聴率19・8%という高アベレージをマークし、第一回目放送開始から、前番組『魔法使いサリー』(原作・横山光輝)を凌ぐ大ヒット番組となった。

その後、中嶋製作所以外の各メーカーとのライセンス契約を締結。文具、玩具、食品、衣料品に至るまで多種多様な商品展開を繰り広げ、アッコちゃんは、強力な顧客吸引力を有した人気キャラクターとして、版権ビジネスの面においても大きな成功を収めることになる。

テレビアニメ版がオンタイムで放映中だった1969年、原作版『アッコちゃん』は、「りぼん」12月号の「銀行強盗大ついせき」を最後に幕を閉じることとなる。

銀行強盗に遭遇したアッコが、モコからお父さんが犯人かも知れないと独白され、正義を尊ぶ想いとモコへの友情との狭間で苦悶しながらも、犯人調査へと乗り出してゆくサスペンスフルな一編だ。


アンティークな鏡台から木彫りの手鏡 そして魔法のコンパクトへ

2020-04-26 07:23:03 | 第3章

『ひみつのアッコちゃん』といえば、アニメ化(第一期)の際、玩具メーカー・中嶋製作所が大々的に売り出し、爆発的なヒットアイテムとなった魔法のコンパクトが有名だが、当初はコンパクトではなく、前述したようにアンティークな鏡台だった。

アンティークな鏡台は、前述の「われた鏡とお正月」で、不慮の事故から割られてしまい、元に戻れず、途方に暮れるアッコの前に、再び黒服にサングラスを纏った鏡の国の使者が現れ、鏡台の代わりに、持ち運びしやすく、いつでもどこでも変身可能なコンパクトサイズの木彫りの手鏡が手渡されるというプロットが、既に原作内で描かれていたが、東映動画の池田宏(後に、テレビアニメ版『ひみつのアッコちゃん』の演出を担当)は、アニメ化の構想案がプレゼンテーションされた極めて初期のステップから、マーチャンダイジング戦略の一環として、この木彫りの手鏡をグッズ化しやすく、また女の子の憧れの定番アイテムであるコンパクトへと変更する改善提案を強固に主張したという。

その結果、魔法のコンパクトは、コモディフィケーションにおいて、目論み通り、お洒落に目覚めた少女達の需要を喚起する超ロングセラーとして、玩具市場を席巻することになり、メーカー側に莫大な利益をもたらす結果となった。

アッコが様々なものに変身する際の「テクマク・マヤコン、テクマク・マヤコン、◯◯になあれ~」(テクニカル・マジック・マイ・コンパクトの略)や、元に戻る際に唱える「ラミパス・ラミパス・ルルルルル~」(スーパー・ミラーの逆さ読み)といった、今尚広く知られるこれらのフレーズは、第一期テレビアニメ化(69年1月6日~70年10月26日放映)に際し、初回のシナリオを担当した雪室俊一が発案した造語であり、テレビとのタイアップで、原作も前作同様「りぼん」(68年11月号~69年12月号)でリバイバル連載された際、東映動画のイメージ戦略にレスポンドし、魔法の手鏡はコンパクトに、変身の呪文は逆さ言葉から「テクマク・マヤコン」へと変換され、ここで漸く、原作版『アッコちゃん』も、現在のパブリックイメージへと定着してゆく。

また、第二期原作に当たる1968年版の第一回目作品「ふしぎなコンパクト」(68年11月号)では、大切な鏡を割ってしまったアッコが、魔法のコンパクトを件の黒服にサングラスの青年ではなく、夢の中で鏡の精から受け取るという、旧原作とは全く異なるエピソードが描かれ、歴代のテレビアニメ版の初回放送では、アッコが魔法のコンパクトを手に入れる経緯として、毎回このシチュエーションを踏襲して使われることとなった。