『アッコちゃん』の総体的なワールドビューは、明るく朗らかで、夢いっぱいの楽しさに包まれた超ファンシーなテイストを漂わせたエンターテイメントと言えようが、連載後期を迎えると、アッコと同世代の少女達が、成長幼少期であるが故の未熟さから、共通して抱く苦悩や、情緒的に強く色付けされたメランコリックな意識体験といった現実の生活の中で実感する行き場のないエモーションを作品のテーマに掲げることにより、読者の内生的な倫理観や、感情領域における情操を育んで確実なメッセージを共存させたエピソードもまた、顕著に描かれるようになった。
「ひいきはやめて」(64年11月号)は、裕福な家庭環境に恵まれながらも、母親から相反する扱いを受けている二人の姉と弟の感情の相克をテーマにしたエピソードで、姉であり、アッコとモコの同級生でもあるマリとその弟のケイ坊との間に横たわる確執や、母親のマリに対する溺愛ぶりや狭量さなど、一家族の屈折した現実生活の有り様や、人間観における様々な矛盾と心理的葛藤が、幾分シリアスな風合いを伴って表出され、人と人との繋がりにおける価値基準、延いては、本当の家族の在り方とは何かを問い掛けた意欲的な一本である。
その成績優秀ぶりや容姿端麗さから母親の寵愛を受ける中、次第に自尊心が芽生え出し、ついついケイ坊に対し、不遜な態度を取ってしまうマリの慢心ぶりと、逆に母親に愛情を注いでもらえない疎外感から、誰からも心を閉ざし、ネガティブな感情でしか、他者とコミュニケート出来ないケイ坊の痛切なる悲哀を浮き彫りにしながら、アッコ達がその崩れかかった家族関係を修復してゆくヒントを伝えるという、子供寄りの視点に沿って展開するハートウォーミングなストーリーで、家族同士における心遣いや節度の重要さ、別け隔てない愛情を保ちつつも、自己本位に傾き易い頑な心を和らげ、我が子に自立心、他者の心を慮る心情を涵養し得る適切な距離感を留め置くことの大切さが、押し付けがましくなく、しかし厳粛に描かれているあたりには、感服せざるを得ない。
姉と弟、母親と弟が互いの感情を、身近なところで、手に取るように斟酌し合う希望に満ちたラストもまた、素朴な次元で描かれていながらも、情味のこもった深みと繊細を帯びており、赤塚のコンシャンスが心に染み入る手堅いワンシーンだ。