本文詳細↓
「同時多発的に更新される瞬間瞬間を書き綴った一冊の本であろう。
食事ができるまでのうたた寝で見る夢でもいい。
いやいや、何を言う。目で見て手に触れるものが世界だ。それ以上もそれ以下も、それ以外もあるまい。
ならば聞こう。風はどうして生まれ、星の光はいつからあって、海はどこへと続いているのか、さあ答(いら)えよ! 人を人たらしめる想像の力を捨てた愚か者どもめ!」
一瞬沈黙が下りた。朗々とした声に圧倒されたのもあったし、芝居がかった調子に戸惑ったのもある。
「……えーっと、今のは?」
「ひいひいじいさんが書いた劇の台詞。ひいひいじいさんは世界中をうろうろしてた自称芸術家で、ひいひいじいさんが書いた日記なんだかおとぎ話なんだかよく分からないものが残ってるんだよ。オレのお気に入りは、ケ・セルの山で雪男を見たときの話」
「はあっ!? なんっ……そ……っ!」
つまんでいたお菓子をまき散らしてアダムが叫んだ。
「汚い! でもケ・セルの山って一年中吹雪いている場所で、人間には立ち入ることすら困難な場所じゃなかったですか?」
「だから言ってるだろ。日記かおとぎ話かって」
「あ、そっか……。けどなんだか、嬉しいような気恥ずかしいような、ちょっと変な感じです。僕と似たような人が、他にもいたんですね」
「ああ、オレもお前の話を聞いてそう思った」
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