徒然日誌(旧:1日1コラ)

1日1枚画像を作成して投稿するつもりのブログ、改め、一日一つの雑学を報告するつもりのブログ。

至の月、階段と迷路の街にて 13

2019-11-22 20:33:51 | 小説







 本文詳細↓



 司祭様はナフキンで口元を軽く拭うと話してくれた。
 「普通は縁のないことですから、知らないのも無理はありません」
 彼は両手を組んで、食卓の上に置いた。
 「エクリプスの夜とは、百年に一度訪れる皆既月蝕の夜のことです。皆既月蝕とは闇に完全に食われた月。昇っていても見えない、沈んでいても気づかない。夜の空から象徴的な輝きが失われるその日に、世界の扉は開く」
 「世界の、扉……?」
 ビュオッと風が部屋の中を走り抜ける音がした。
 錯覚? この奥の部屋には窓がないはず。それになにより、蝋燭が吹き消されていなかった。
 ……一体、何があった?
 僕は思わず生つばを飲み込んだ。
 「そう、世界の扉が開くんですよ。そして彼らが帰還してきます。今はもう昔の神話の時代、かつてこの地で覇を争った種の片割れが」
 「それ、は」

 「――――悪魔と呼ばれる者たちです」

 どっと心臓が大きく脈打った。冷や汗が止まらない。
 『悪魔は確かに存在する』
 そういえば、僕にそう忠告(おし)えてくれた誰かがいた気がする。それでも一縷の望みをかけて、僕はおずおずと口を開いた。


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