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司祭様はナフキンで口元を軽く拭うと話してくれた。
「普通は縁のないことですから、知らないのも無理はありません」
彼は両手を組んで、食卓の上に置いた。
「エクリプスの夜とは、百年に一度訪れる皆既月蝕の夜のことです。皆既月蝕とは闇に完全に食われた月。昇っていても見えない、沈んでいても気づかない。夜の空から象徴的な輝きが失われるその日に、世界の扉は開く」
「世界の、扉……?」
ビュオッと風が部屋の中を走り抜ける音がした。
錯覚? この奥の部屋には窓がないはず。それになにより、蝋燭が吹き消されていなかった。
……一体、何があった?
僕は思わず生つばを飲み込んだ。
「そう、世界の扉が開くんですよ。そして彼らが帰還してきます。今はもう昔の神話の時代、かつてこの地で覇を争った種の片割れが」
「それ、は」
「――――悪魔と呼ばれる者たちです」
どっと心臓が大きく脈打った。冷や汗が止まらない。
『悪魔は確かに存在する』
そういえば、僕にそう忠告(おし)えてくれた誰かがいた気がする。それでも一縷の望みをかけて、僕はおずおずと口を開いた。
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