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「ただの……言い伝え、とか、ですか? 悪魔を見た人はいない。もしかしたら悪魔は物語の……」
中の存在、と言いかけた僕を遮ったのはアダムの微妙に苛立った声だった。
「何を言っておる。目の前にいるではないか」
目の前と言うと、アダムとエクレアさん、司祭様しかいない。目を何度も往復させて彼らの顔を見つめても、不思議と思考はそこから先へ進もうとしてくれなかった。
「フッ」
ひたすら戸惑っていると、誰かの鼻から息が抜ける幽かな音がした。それは少しずつ、のどを鳴らす笑いへ変わっていった。
「……司祭様」
控えめに、だけど闇に深くこだまするような笑いを漏らしていたのは、山羊の獣人。だと、僕が思っていたモノ。
「無垢で無知……。まあそれこそが、人間の美徳の最たるものとも言えるでしょうが」
「あなたが悪魔……なんですか? 本当に?」
「ええ。あの日、この大地にただ一人残ることにした、変わり者の悪魔が私です。以来この谷に住み着いて、隠居生活を謳歌しています」
「隠居って……?」
「悪魔は他者の魂を主食とする種族です。ゆえにどんな相手からも忌み嫌われているのですが、私はそれに飽きてしまいましてね」
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