徒然日誌(旧:1日1コラ)

1日1枚画像を作成して投稿するつもりのブログ、改め、一日一つの雑学を報告するつもりのブログ。

至の月、階段と迷路の街にて 14

2019-11-23 09:16:26 | 小説









 本文詳細↓



 「ただの……言い伝え、とか、ですか? 悪魔を見た人はいない。もしかしたら悪魔は物語の……」
 中の存在、と言いかけた僕を遮ったのはアダムの微妙に苛立った声だった。
 「何を言っておる。目の前にいるではないか」
 目の前と言うと、アダムとエクレアさん、司祭様しかいない。目を何度も往復させて彼らの顔を見つめても、不思議と思考はそこから先へ進もうとしてくれなかった。
 「フッ」
 ひたすら戸惑っていると、誰かの鼻から息が抜ける幽かな音がした。それは少しずつ、のどを鳴らす笑いへ変わっていった。
 「……司祭様」
 控えめに、だけど闇に深くこだまするような笑いを漏らしていたのは、山羊の獣人。だと、僕が思っていたモノ。
 「無垢で無知……。まあそれこそが、人間の美徳の最たるものとも言えるでしょうが」
 「あなたが悪魔……なんですか? 本当に?」
 「ええ。あの日、この大地にただ一人残ることにした、変わり者の悪魔が私です。以来この谷に住み着いて、隠居生活を謳歌しています」
 「隠居って……?」
 「悪魔は他者の魂を主食とする種族です。ゆえにどんな相手からも忌み嫌われているのですが、私はそれに飽きてしまいましてね」



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