徒然日誌(旧:1日1コラ)

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幕間 運命の席は夢の中を転がる−ケース5.《黄昏を傷つける獰猛なるもの》の場合

2019-11-09 10:55:25 | 小説








 本文詳細↓




 「すぐの相席となりますので、人間のお客様、できるだけお席からお立ちにならずにお待ちください」
 (機械人形、無貌の店員に連れられて退席)
 (無貌の店員、お猪口だけを持って戻ってくる)
 「それでは只今から相席再開となります。ごゆっくりどうぞ」
 「……あー、ここだここ! ちょっと待ってくれ!」
 (机の脚を這うようにして、鰐の頭と蜥蜴の体と蛇の尾と蝙蝠の羽を持った小さな何かが現れる)
 「いやー、悪りぃ悪りぃ。ちょっと体を小さくしすぎちまってな。どこにいるか分かんなくて焦っただろ。オレは《黄昏を傷つける獰猛なるもの》に名を連ねる一族のもんだ。気軽にエルって呼んでくれ!
 ……ほー、旅人ねえ。人間っていやあ鳥のように空を飛ぶこともできず、馬のように地を駆けることもできない、世界で最も脆弱な生き物じゃなかったか?
 ……他と比べりゃ見劣りする人間族だからと言ってたら何もできない、か。それもそうだな! お前の度胸に乾杯!
 ……で、オレは今来たとこなんだが、そっちは?
 ……はっはっは! 機械人形との一問一答か! そらぁ辛いな。で、思わず席替えを頼んだと。まあいいんじゃねえの? ここはそういう場所なんだし。
 ……小さくて親しみやすそうだとぉ? 言いやがったなこんにゃろー! オレらは火の中から産まれ、火を体に宿し、火の声を聞く一族だぞ、もっと畏れ崇めろー! だいたいオレぁ本当は、もっとでかくて強くてかっこいいんだからな!
 ……椅子に座れねーどころじゃねえさ。オレが元の姿に戻ったら、こんな店あっという間に潰しちまうぜ。どうだ、凄さが分かったか? 
 ……ん? オレらの種族名に聞き覚えがない? あー、でもたしかに、他の種族の奴らはオレらを別の名前で呼んでたな。何だったか忘れたけど。つか、オレのことばっかじゃねえか。お前のことも聞かせろよ。

 ……あー! 面白かった。もう少し聞いていたかったが、残念だ。オレはどうすっかー。もう少しいるかな。
 ……ははっ。閉店時間なんてあるわけねーだろ。ここは夢の中だぜ。夢を見る奴がいるかぎり、ここが閉まることはねえよ。
 ……それより、この先もここに来ることができたら気をつけろよ? 色んな奴が集まるここでも、人間は珍しい。もしかしたら人の肉が大好物って奴と相席するかもしれないぜ。じゃ、件(くだん)の美女が早く見つかるといいな。

 (無貌の店員が無機質な声で尋ねる)
 「本日のご相席はいかがでしたでしょうか」
 (無明の黒の中に続く白い螺旋階段を下りる)
 「またのご来店をお待ちしております」

 ―――――「おはようございます。どうかよい夢を」



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