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消えた。
前触れもなく、音もなく、まるで最初からいなかったかのように、彼女は消えた。
「……え」
どれだけ待っても、彼女が時計塔から出てくることはなかった。
たったの一声すらも、二度と聞こえることはなかった。
「…………な、に……が……」
ぽすっ、といつになく優しい音でアダムは僕の頭に手を置いた。促されるままのろのろと首を振ってみれば、もう誰も彼女のことなんか気にせず祭を楽しんでいた。
「さっき? ああ、なんか言ってたね、興味なかったから無視したけど。君の知り合いだったの?」
「祭の時期は浮かれて奇行に走る奴がいるからなあ。なんか目立ちたかったんじゃねえの?」
「あー、さっきの。自由の人間たちよーって何か叫んでたやつ? 意味分かんないよねー」
たくさん聞いて回った。でも答えはみんな似たり寄ったりだった。
なんだか疲れて、時計塔の下に行儀悪く座り込んだ。
「忘れよ、トルル。全ては太陽が見せた白昼夢(ファンタジー)だったのだ」
アダムはそう言った。
でも僕は、何故か覚えておかなきゃいけないと思った。
僕にとってあの子は、「この街で出会ったコスモス色の髪のちょっと変わった女の子」でしかない。
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