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ぐっと声をひそめた。もし誰かに聞かれたら頭がおかしいと思われるぐらいの自覚はあった。
「…………さあな。我が今語ることは何もない」
ここまできてまた沈黙主義か。それが少し癇にさわって、問いつめようとしたとき王城からわあっとひときわ大きく歓声が上がった。
「天に坐す御使いよ、我らが父祖なる英霊たちよ! どうか永久の祝福を与えたまえ! 斯くして此処に栄華の道は築かれん!!」
永世礼賛の舞台の終わりを告げる祭祀の口上から、万歳三唱へ続く――
「否ッッ!!」
――はずだった。
「建国の歴史は終わらない! 情けないかつての為政者たちは、保身のために気高い誇りと幾万の友の未来を捨てた!!」
コスモス色の女の子の声は、朗々と街中に響き渡った。皆が不思議そうな顔で、辺りを見回していた。突然始まった演説に、みんな戸惑っているんだろう。
僕だけが時計塔を見上げていた。
僕だけが、そこにいると知っていた。
「聞け! 自由の民たる人間たちよ! お前たちは嘘をつかれている! この世界は」
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