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「一気に里へ飛んでもよかったのだが、やはり外からも万年桜を見てほしかったのだ。これほどの桜は、この大地には他にあるまい。よくよく目に焼き付けておけ」
「うむ、明るい中の桜というのも好(よ)いな。より華やかだ。前に見た時は夕方だったからなあ。入った時はイノシシの腹の中で揺られながらであったし」
「そういえばそうだったか。懐かしい話だ。おぬしがくると言ったら、会いたいという奴が二、三おったぞ」
「おおっ、どの女性(にょしょう)だ? 菖蒲(あやめ)の君か、若葛(わかかずら)の君か、それとも……」
「いや、ちょっと待って。普通に話を進めるな。なんだイノシシの腹の中って。そして何人いるんだよ」
思わず割り込んだが、アダムはきょとんとヤクシャ童子さんを仰いぐだけだった。
「いやあ、あの時のことは忘れもせんよ。わしがかっ捌いたイノシシの腹の中からこやつがころっと出てきおってなあ。さすがのわしも仰天したわ。はっはっは! まったく、よくぞ生きておったものよ。あと、おぬしに会いたいと言っていたのは酒呑み仲間のほうだ」
僕といいヤクシャ童子さんといい、こいつは普通に誰かと出会うということができないのだろうか……。頭が痛くなる話だったけど、自分を待っていたのが女性じゃないと分かって凹むアダムに溜飲が下がったので良しとする。
「さて、なにはともあれ歓迎しよう。ようこそ、我が里へ」
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