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ひらひらと、柔らかい薄紅色の花びらが途切れることなく視界を横切っていく。その向こうで、鬼たちは思い思いに閑談に興じていた。
一口に鬼の一族と言っても、共通しているのは角があるということだけで、容姿は様々だった。硬貨よりも明るい金色の目、雪を固めたような白い髪、藍の草で染められた布よりも濃い青い肌。甕を直接抱えて飲むような偉丈夫、柳よりもたおやかに立つ鬼、他にもたくさん。彼らはみんな、お茶やお酒を片手に笑っていた。
僕が慣れた土や石で固められた平らな地面の上ではかったけれど、そこはたしかに誰かが暮らす町だった。
「さあ、着いたぞ。ここがわしの家だ」
分かれるいくつもの枝の道を、そして枝と枝の間に架けられた橋を渡り歩いて、一軒の立派な茅葺き屋根の屋敷に辿り着いた。ここに来るまでの間、たくさんの鬼がヤクシャ童子さんに声をかけてきて、同時に僕を見て驚いたように目を丸くしていた。やっぱり人間は珍しかったのかな。
家を囲う塀や門はなく、にぎやかな声が風に乗って聞こえてきていた。
「つい先日、大蛇(おろち)の者から今年の酒が届いてな。実はおぬしらが来るのを待てずに、飲みはじめてしまった。わっはっは!」
「なんと! 客人より先に飲むとはどういう了見か! 笑い事ではないぞ、ヤクシャ童子! あの有名な大蛇の酒というなら我も飲むぞ! 早よう連れてゆけ!」
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