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今日の寝床は木々と木々の間の、ぱっかりとうまい具合に空いていた土の上だ。とても静かな山で、パチンッと火が爆ぜる音と、アダムがかつかつと缶詰を食べる音しかしない。
はあ、と吐いた息はもう白くはならなかった。夜からもすっかり、冬の気配は拭い去られている。
やがて、舐めたのかと思うほどピッカピッカに缶詰をたいらげたアダムはごろりと横になった。「食べてすぐ寝ると牛になるぞ」。僕はチクッと嫌味を刺したがなんのその。「我は牛ではない……鶏に……鶏になるのだ……」という寝言を漏らし、鼻提灯を膨らましてとっくに夢の中に入っていた。そうだった、おやすみ3秒は出会った時からアダムの代名詞だった。
アダムは僕の旅の唯一の同行者だ。故郷の川で釣り上げた魚にかぶりついていたという衝撃的な出会いから、もうかれこれ8年ほどが経つ。その間、僕がどこに行くにもついてきていたけど、まさかこの終わりの定まらない旅にまでついてくるとは思わなかった。
すぴょすぴょと間抜けな顔して寝てるから、思わず指を伸ばして鼻提灯を割ってみた。起きなかった。
何年も一緒にいるけど、実はアダムの正体を僕は知らない。アダムは見た目、素っ裸の体長約20cmの人型の生き物だ。人間族の赤子より小さく、小人族の成人より大きい。今までに何度となく何者であるかを尋ねたけど、「我は世界でただ一人の我である!」としか言わないので、もう諦めた。
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