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「あちらではおぬしとゆっくり飲めぬわ。ちょうどよい、なんぞ面白い話でもあったら聞かせてはくれぬか?」
ヤクシャ童子さんはゆっくりお酒を注ぎ終えると、ふっと息を吐いた。僕の前にお茶を入れた湯呑みを置いてくれ、ヤクシャ童子さんは静かに口を開いた。
「では、こんな話はどうだ? 題するならば……そう、『鬼事の怪』とでも言おうか。鬼が鬼事というのも妙なことだが」
カコーンッと、しないはずの鹿威しの音が聞こえたような気がした。
夢現(ゆめうつつ)の伽藍の間(ま)に、赤い鬼火が三つ、四つ灯る。
「今より三月(みつき)ほど前のこと。この里は鬼殺しの憂き目にあっていた。殺されるのは酔いつぶれた者か、力の弱い幼子ばかり。いずれも心の臓や肝を抉り取られ、無惨な死体だけが転がっていた。
始まりを思い返せばさらに十月(とつき)前。一人の人間の男がやってきて、
「鬼の霊薬を売ってほしい。金ならばいくらでも払う。これだけが最後の望みなのだ」
と、涙ながらに訴えた。
よくよく聞いてみれば、親しい者が病に伏し、明日をも知れぬのだとか。なんと哀れなことよ。さりとて、我らにも薬を売れぬ訳があった」
「それは、どうしてですか?」
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