徒然日誌(旧:1日1コラ)

1日1枚画像を作成して投稿するつもりのブログ、改め、一日一つの雑学を報告するつもりのブログ。

雅の月、花と霞の里にて 9

2019-11-04 21:42:04 | 小説









 本文詳細↓



 「なぜなら、誰も鬼の霊薬某(なにがし)というものを知らぬからだ。聞いたこともなければ、見たこともない。作り方さえ分からぬ。存在しないものを、どうやって売れというのか。鬼の肝から作られると言われど、思い当たるものは何もない。
 古来より鬼と人は時に争い、時に共存し、交流を持ってきた。今でこそ平穏な関係を築けているが、そうなるまでには短くない年月と紆余曲折があったという。そんな中で、自分たちより遥かに強靭で寿命が長く、妖術まで使う鬼を、人間は恐れ崇めてきた。だからこそ、『万病に効く鬼の霊薬』というまやかしも生まれたのだろう。
 男に何度説明しようとも、男はそんなことはない、あるはずだ、売ってくれとそればかり。しまいには男も業を煮やして、
 「こんなに頼み込んでいるというのに売らぬとは。ならば力づくで奪い取るのみ」
 と、剣を抜いて言った。
 こうなってはやむなしと、男を取り押さえ里の外へと追い出した。
 それからしばらくもしないうちに、一人の鬼が殺された。みな驚き怒り、
 「誰ぞ何かを見た者はおらぬのか」
 と問えば、
 「闇にまぎれて去る影を見た。遠く、速くてよく分からなかったが、人間のように見えた」
 という声が上がった。



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