<風雨の中の花立場>
山頂はまるで嵐の丹沢:塔ノ岳(今年31回目)
(単独山行)
2009年7月10日(金)
■今日こそ丹沢だ!
4時に起床する.早速、月額315円也の天気予報のサイトを開く。今日は、朝、8時頃までは「曇」だが、9時頃から15時頃までは「晴」という予報である。それならば、絶対に丹沢塔ノ岳を往復しようと決める。
何時ものように、そそくさと簡単な朝食を済ませて、5時10分に家を出る。かなり強くて生暖かい風が吹いている。夏至は過ぎたとはいえ、すっかり明るくなっている住宅街の路を最寄の駅へ急ぐ。同じ時間でも、ついこの間まで、真っ暗だったのに、日本には季節感があっていいなとつくづく思う。
駅近くできれいに咲いている百合の花が強い風に揺らいでいる。
大船駅から東海道本線で小田原に出る。たった2分しかない乗り換え時間を、超駆け足で階段を上り下りして、やっと小田急電鉄6時23分発小田原行飛び乗る。車窓から眺めると、箱根、丹沢の山並みはどす黒い雲で山麓まで覆われている。天気予報では今日は晴れのはずだが、どうも怪しいなと思い始める。
渋沢発大倉行のバスに乗車する。韋駄天のTさん、もうすぐ登頂2000回のMさん、三角髭のTさんなどご常連が数名乗車している。そのほかの一般客は意外に少なくて、全体で10数名しか乗っていない。
■元気なご常連
バスが大倉に到着する。生暖かい風がビュービューと吹いている。
韋駄天グループのご常連は、そそくさと塔ノ岳山頂を目指して出発する。少し遅れてMさんが、私を、
「さあ~・・一緒にアベ」
と促しながら歩き出す。
「アベ・・」(と聞こえた)は、どこかの地方の方言で、「歩く」を意味することは自明である。
私はMさんと一緒に出発したかったが、モタモタしていて、遅れてしまう。結局、皆さんより5~6分遅れて7時02分に歩き出す。生暖かくて、やや強い風が吹いている。手元の寒暖計では、大倉の気温は+28℃である。
私のすぐ前には、バスの中でしきりに北アルプスのことを話していた3人組が、雑談をしながら、歩いている。登山口から、谷合の杉林に入ると、風はピタリと止んで、蒸し暑くなる。たちまちのうちに汗が吹き出てくる。私は、熱射病になっても困るので、絶対に無理はしないぞ自分自身に言い聞かせる。それに、昨日(7月9日)、山旅スクール5期の野詩歌さんやトドさんと、鎌倉駅から山間の「鎌倉上の道」沿いに藤沢駅まで歩いたばかりである。自覚的には疲れは残っていないものの、どこかに疲労が蓄積しているかもしれない。だから、今日は楽しみながら登ることに徹しようと、何度も何度も自分に言い聞かせる。
<雲がたれ込めていて富士山が見えない>
■駒止茶屋まで1時間06分
湿度はたぶん100パーセントに近いのだろう。とにかく、登山途中のものすごい湿気には参ってしまう。湿気で蒸し暑い登山道をあえぐようにして登り続け、7時35分に尾根上に雑事場ノ平に到着する。尾根に出た途端に、今までとは別世界のように涼しくなる。冷たい海風が杉林を抜けて吹き抜けている。風が火照った体から湿気を取り除いてくれるので、生き返ったように気分がよくなる。
見晴山荘を通過して、急な階段路に差し掛かる。私は意識的に登攀速度を抑えながら、疲労が蓄積しないように注意を続ける。
7時53分、一本松を通過する。海風がますます強くなり、沿道の杉林をゴウゴウとうならせながら、稜線を吹き抜けていく。ゴウゴウと唸りを上げる風に混じって、ウグイスの啼き声が絶えず聞こえてくる。
やがて急な上り階段を登りきって、8時08分に駒止茶屋を通過する。大倉を歩き出してから、すでに1時間06分も経過している。
「こんな蒸し暑い日には、1時間を切ることは無理だな・・・」
と自分に言い聞かせて、そのまま登り続ける。
<堀山の尾根を下るご常連>
■天気予報が外れる
堀山の尾根道に入る。風は相変わらず強い。沿道の木の梢が風でゴウゴウと唸っている。風で木の枝が激しく揺れている。富士山の写真を撮る定点で、富士山の方角を望むが、あいにく、雲が低く垂れ込めていて、今日の眺望は全く駄目である。でも、習性で、雲ばかりの写真を数枚撮る。
8時46分、堀山ノ家に到着する。小草平には人気が全くない。もちろん、本来ならば、ここからよく見える富士山も、今日は雲に覆われていて全く眺望がない。
そのまま急な岩稜登りになる。雨が降り出す。どうやら天気予報は外れたようである。
「天気予報は晴れ・・だから、すぐ晴れるだろう。まあ・・晴れなくても登っちゃえ・・!」
私は、雨が降り出したにもかかわらず、登り続ける。
■濃霧の萱場平
8時47分、戸沢分岐を通過する。分岐のすぐ上の萱場平で、定点観測用の写真を撮るが、深い霧である。ベンチで座っている人が、霧の中でぼんやり見える。どこかの山小屋に関係のある方のようである。
「ご苦労様です・・・」
と挨拶して通過する。
<霧の萱場平>
■風雨強まる花立山荘
雨が少し強くなる。足元がますます濡れ始める。登山道が滑りやすくなるにつれて、意気消沈してくる。辺りが濃い霧に覆われ始める。やがて、花立山荘直下の階段に差し掛かる。周りに樹木がほとんどない吹きさらしの階段を、霧雨を伴った強い風が吹き抜けていく。登る気が阻害されるが、半ば惰性で登り続ける。
9時07分に、花立山荘を通過する。山荘は濃い霧で覆われている。山荘のすぐ側まで近づかないと、そこに建物があるのが分からないほどである。
気がつくと、堀山ノ家を出発してから、41分も掛かっている。何時ものペースより5分ほど余計である。
「まあ、こんな天気だから仕方がないな・・」
とすぐに妥協してしまう。ただ、のんびり登ってきたので、全く疲労感はない。
<花立山荘直下の長い階段:ここから上は霧が濃くなる>
■凄いご常連
露岩帯を登り切って、9時16分、花立場を通過する。晴れていれば、ここで、富士山や南アルプスの写真を撮るが、今日は完全に雲の中である。風が荒れ狂うように強くなる。つづいて、尾根路を辿るが、見通しはほとんど利かない。
9時20分、金冷シの少し手前で、下山してくる韋駄天のTさんとすれ違う。
「今日は飛んだ天気になりましたね・・お気をつけて・・」
と挨拶してお別れする。
金冷シを通過して、最初の長い階段を登る。逆巻くような強風にあおられて周辺の木々の枝が激しく揺れている。前方の霧の中から、いきなり人影が「ヌウ~」っと現れる。三角髭のTさんである。
私と同じバスに乗り合わせたご常連が、次々に下山してくる。私は「自分だけなんでこんなに遅いのだろう」と情けなくなる。
強風に悩ませながら、登り続ける。そして、山頂直下で、下山しかかっているMさんとすれ違う。私は、Mさんに、
「・・・2000回まで、後、10回ぐらいですか?」
と伺う。
「・・そう。後、10回で、ちょうど2000回になるよ・・」
「そうでしたか。期待しています・・・」
すると、Mさんは、
「オウ・・!」
と力強く答えながら、右手で敬礼する。
一口に2000回と言うけれども、これは大変である。仮に年間100回登ったとしても、20年掛かることになる。仮に私に置き換えた場合、私はせいぜい年間に50回程度しか登っていない。そうなると、40年も登り続けないと2000回には達しない計算になる。
私の知り合いに、このような偉人がいることを、大変、誇らしく思っている。
<風雨の中、韋駄天のTさんが下っていく>
■ガラガラの尊仏山荘
9時36分に塔ノ岳山頂に到着する。大倉からの所要時間は2時間34分。今年の最低記録である。でも仕方がないなと納得する。
山頂は風雨が吹き荒れている。風雨で何も見えないので、辺りの写真を撮っても仕方がない。すぐに尊仏山荘へ向かう。
山荘入り口の鐘が、強風に煽られて、勝手に「カン、カン」と鳴っている。
山荘に入る。今日の小屋番はオーナーのHさんである。先客が1人居る。ご常連らしい。私が山荘に到着すると、入れ替わるように下山していく。
山頂の9時40分現在の気温は+17.3℃。やっぱり大分高温である。営業部長のミー君は不在である。
私は300円なりのお茶を所望する。お茶を飲みながら外の様子を眺める。風雨はますます強くなり、窓ガラス越しに、横殴りの雨がバチバチと当たっているのが見える。私がHさんに伺う。
「すごい風ですね。秒速どのくらいでしょう・・?」
「まあ、10メートルは越えているでしょう。かなり強そうですよ・・」
雨宿りをしながら、様子を見る。山頂には誰も現れない。山荘の客は私1人だけである。
「バスには、登山客がそこそこ乗っていたんですが、・・・一向に現れないですね」
「たぶん、この天気だから、ご常連以外の方々は、途中で下山したんでしょう・・」
■雨の中を下山
少し風雨が弱まる。
10時01分、私は濡れる覚悟で、山荘を出発して、下山を開始する。もちろん雨具はきちんと着用している。風に煽られながら、濡れた足元に注意しながら下り続ける。何時もなら、登ってくる登山者と絶えずすれ違うはずだが、今日は昇ってくる登山客の数が極端に少ない。まあ、こんな天気だから当然といえば当然だが・・・
金冷シ手前で、濃い霧の中、私の前方3~4メートルのところで、登山道の真ん中に2頭のシカが「ぬっ」と現れる。突然のシカで私はびっくりするが、シカもビックリしたようである。大慌てで、登山道から山の中へ走り去る。
霧と風の中を下り続けて、11時02分に堀山ノ家に到着する。相変わらず風は吹いているものの、何時の間にか雨は小止みになっている。私は堀山ノ家で、雨具を脱いで、半袖シャツ1枚になる。
駒止茶屋を過ぎる頃には、風も弱まり、周囲の霧もなくなる。どうやら、山麓までまとわり着いていた雲の下に出たようである。
下山途中、数名の登山客とすれ違う。異口同音に、
「山頂の様子はいかがでしたか・・?」
と聞かれる。
「山頂は雲の中で、かなり荒れていました・・」
と答えると、
「途中で引き返そうかな・・」
と返事をする方々も何人かおられた。
12時18分、無事、大倉まで下山する。
そういえば、盛んに北アルプスのことを話していた3人組とは、途中で会わなかった。どうやら、途中で下山してしまったらしい。
雨で濡れたのか、汗なのか分からないが、体中がべたべたする。早く家に帰って、風呂に入ろうと思う。
<見晴山荘から下界が良く見える>
[山行記録」
■水平歩行距離 7.0km
■累積登攀下降高度 1,201m
■登攀所要時間
大倉 発 7:02
塔ノ岳 着 9:36
(所要時間) 2時間34分(2.57h)
登攀速度 1,201m/2.57h=467.3m/h
■下降所要時間
塔ノ岳 発 10:01
大倉 着 12:18
(所要時間) 2時間17分(2.28h)
下降速度 1,201m/2.28h=526.8m/h
(おわり)
「丹沢の山旅」の前回の記事
http://blog.goo.ne.jp/flower-hill_2005/e/2a512ecc7704b1394bb53932a1d6dc21
「丹沢の山旅」の次回の記事
http://blog.goo.ne.jp/flower-hill_2005/e/877b2a78b599c552feb2ddc57663c6b3
山頂はまるで嵐の丹沢:塔ノ岳(今年31回目)
(単独山行)
2009年7月10日(金)
■今日こそ丹沢だ!
4時に起床する.早速、月額315円也の天気予報のサイトを開く。今日は、朝、8時頃までは「曇」だが、9時頃から15時頃までは「晴」という予報である。それならば、絶対に丹沢塔ノ岳を往復しようと決める。
何時ものように、そそくさと簡単な朝食を済ませて、5時10分に家を出る。かなり強くて生暖かい風が吹いている。夏至は過ぎたとはいえ、すっかり明るくなっている住宅街の路を最寄の駅へ急ぐ。同じ時間でも、ついこの間まで、真っ暗だったのに、日本には季節感があっていいなとつくづく思う。
駅近くできれいに咲いている百合の花が強い風に揺らいでいる。
大船駅から東海道本線で小田原に出る。たった2分しかない乗り換え時間を、超駆け足で階段を上り下りして、やっと小田急電鉄6時23分発小田原行飛び乗る。車窓から眺めると、箱根、丹沢の山並みはどす黒い雲で山麓まで覆われている。天気予報では今日は晴れのはずだが、どうも怪しいなと思い始める。
渋沢発大倉行のバスに乗車する。韋駄天のTさん、もうすぐ登頂2000回のMさん、三角髭のTさんなどご常連が数名乗車している。そのほかの一般客は意外に少なくて、全体で10数名しか乗っていない。
■元気なご常連
バスが大倉に到着する。生暖かい風がビュービューと吹いている。
韋駄天グループのご常連は、そそくさと塔ノ岳山頂を目指して出発する。少し遅れてMさんが、私を、
「さあ~・・一緒にアベ」
と促しながら歩き出す。
「アベ・・」(と聞こえた)は、どこかの地方の方言で、「歩く」を意味することは自明である。
私はMさんと一緒に出発したかったが、モタモタしていて、遅れてしまう。結局、皆さんより5~6分遅れて7時02分に歩き出す。生暖かくて、やや強い風が吹いている。手元の寒暖計では、大倉の気温は+28℃である。
私のすぐ前には、バスの中でしきりに北アルプスのことを話していた3人組が、雑談をしながら、歩いている。登山口から、谷合の杉林に入ると、風はピタリと止んで、蒸し暑くなる。たちまちのうちに汗が吹き出てくる。私は、熱射病になっても困るので、絶対に無理はしないぞ自分自身に言い聞かせる。それに、昨日(7月9日)、山旅スクール5期の野詩歌さんやトドさんと、鎌倉駅から山間の「鎌倉上の道」沿いに藤沢駅まで歩いたばかりである。自覚的には疲れは残っていないものの、どこかに疲労が蓄積しているかもしれない。だから、今日は楽しみながら登ることに徹しようと、何度も何度も自分に言い聞かせる。
<雲がたれ込めていて富士山が見えない>
■駒止茶屋まで1時間06分
湿度はたぶん100パーセントに近いのだろう。とにかく、登山途中のものすごい湿気には参ってしまう。湿気で蒸し暑い登山道をあえぐようにして登り続け、7時35分に尾根上に雑事場ノ平に到着する。尾根に出た途端に、今までとは別世界のように涼しくなる。冷たい海風が杉林を抜けて吹き抜けている。風が火照った体から湿気を取り除いてくれるので、生き返ったように気分がよくなる。
見晴山荘を通過して、急な階段路に差し掛かる。私は意識的に登攀速度を抑えながら、疲労が蓄積しないように注意を続ける。
7時53分、一本松を通過する。海風がますます強くなり、沿道の杉林をゴウゴウとうならせながら、稜線を吹き抜けていく。ゴウゴウと唸りを上げる風に混じって、ウグイスの啼き声が絶えず聞こえてくる。
やがて急な上り階段を登りきって、8時08分に駒止茶屋を通過する。大倉を歩き出してから、すでに1時間06分も経過している。
「こんな蒸し暑い日には、1時間を切ることは無理だな・・・」
と自分に言い聞かせて、そのまま登り続ける。
<堀山の尾根を下るご常連>
■天気予報が外れる
堀山の尾根道に入る。風は相変わらず強い。沿道の木の梢が風でゴウゴウと唸っている。風で木の枝が激しく揺れている。富士山の写真を撮る定点で、富士山の方角を望むが、あいにく、雲が低く垂れ込めていて、今日の眺望は全く駄目である。でも、習性で、雲ばかりの写真を数枚撮る。
8時46分、堀山ノ家に到着する。小草平には人気が全くない。もちろん、本来ならば、ここからよく見える富士山も、今日は雲に覆われていて全く眺望がない。
そのまま急な岩稜登りになる。雨が降り出す。どうやら天気予報は外れたようである。
「天気予報は晴れ・・だから、すぐ晴れるだろう。まあ・・晴れなくても登っちゃえ・・!」
私は、雨が降り出したにもかかわらず、登り続ける。
■濃霧の萱場平
8時47分、戸沢分岐を通過する。分岐のすぐ上の萱場平で、定点観測用の写真を撮るが、深い霧である。ベンチで座っている人が、霧の中でぼんやり見える。どこかの山小屋に関係のある方のようである。
「ご苦労様です・・・」
と挨拶して通過する。
<霧の萱場平>
■風雨強まる花立山荘
雨が少し強くなる。足元がますます濡れ始める。登山道が滑りやすくなるにつれて、意気消沈してくる。辺りが濃い霧に覆われ始める。やがて、花立山荘直下の階段に差し掛かる。周りに樹木がほとんどない吹きさらしの階段を、霧雨を伴った強い風が吹き抜けていく。登る気が阻害されるが、半ば惰性で登り続ける。
9時07分に、花立山荘を通過する。山荘は濃い霧で覆われている。山荘のすぐ側まで近づかないと、そこに建物があるのが分からないほどである。
気がつくと、堀山ノ家を出発してから、41分も掛かっている。何時ものペースより5分ほど余計である。
「まあ、こんな天気だから仕方がないな・・」
とすぐに妥協してしまう。ただ、のんびり登ってきたので、全く疲労感はない。
<花立山荘直下の長い階段:ここから上は霧が濃くなる>
■凄いご常連
露岩帯を登り切って、9時16分、花立場を通過する。晴れていれば、ここで、富士山や南アルプスの写真を撮るが、今日は完全に雲の中である。風が荒れ狂うように強くなる。つづいて、尾根路を辿るが、見通しはほとんど利かない。
9時20分、金冷シの少し手前で、下山してくる韋駄天のTさんとすれ違う。
「今日は飛んだ天気になりましたね・・お気をつけて・・」
と挨拶してお別れする。
金冷シを通過して、最初の長い階段を登る。逆巻くような強風にあおられて周辺の木々の枝が激しく揺れている。前方の霧の中から、いきなり人影が「ヌウ~」っと現れる。三角髭のTさんである。
私と同じバスに乗り合わせたご常連が、次々に下山してくる。私は「自分だけなんでこんなに遅いのだろう」と情けなくなる。
強風に悩ませながら、登り続ける。そして、山頂直下で、下山しかかっているMさんとすれ違う。私は、Mさんに、
「・・・2000回まで、後、10回ぐらいですか?」
と伺う。
「・・そう。後、10回で、ちょうど2000回になるよ・・」
「そうでしたか。期待しています・・・」
すると、Mさんは、
「オウ・・!」
と力強く答えながら、右手で敬礼する。
一口に2000回と言うけれども、これは大変である。仮に年間100回登ったとしても、20年掛かることになる。仮に私に置き換えた場合、私はせいぜい年間に50回程度しか登っていない。そうなると、40年も登り続けないと2000回には達しない計算になる。
私の知り合いに、このような偉人がいることを、大変、誇らしく思っている。
<風雨の中、韋駄天のTさんが下っていく>
■ガラガラの尊仏山荘
9時36分に塔ノ岳山頂に到着する。大倉からの所要時間は2時間34分。今年の最低記録である。でも仕方がないなと納得する。
山頂は風雨が吹き荒れている。風雨で何も見えないので、辺りの写真を撮っても仕方がない。すぐに尊仏山荘へ向かう。
山荘入り口の鐘が、強風に煽られて、勝手に「カン、カン」と鳴っている。
山荘に入る。今日の小屋番はオーナーのHさんである。先客が1人居る。ご常連らしい。私が山荘に到着すると、入れ替わるように下山していく。
山頂の9時40分現在の気温は+17.3℃。やっぱり大分高温である。営業部長のミー君は不在である。
私は300円なりのお茶を所望する。お茶を飲みながら外の様子を眺める。風雨はますます強くなり、窓ガラス越しに、横殴りの雨がバチバチと当たっているのが見える。私がHさんに伺う。
「すごい風ですね。秒速どのくらいでしょう・・?」
「まあ、10メートルは越えているでしょう。かなり強そうですよ・・」
雨宿りをしながら、様子を見る。山頂には誰も現れない。山荘の客は私1人だけである。
「バスには、登山客がそこそこ乗っていたんですが、・・・一向に現れないですね」
「たぶん、この天気だから、ご常連以外の方々は、途中で下山したんでしょう・・」
■雨の中を下山
少し風雨が弱まる。
10時01分、私は濡れる覚悟で、山荘を出発して、下山を開始する。もちろん雨具はきちんと着用している。風に煽られながら、濡れた足元に注意しながら下り続ける。何時もなら、登ってくる登山者と絶えずすれ違うはずだが、今日は昇ってくる登山客の数が極端に少ない。まあ、こんな天気だから当然といえば当然だが・・・
金冷シ手前で、濃い霧の中、私の前方3~4メートルのところで、登山道の真ん中に2頭のシカが「ぬっ」と現れる。突然のシカで私はびっくりするが、シカもビックリしたようである。大慌てで、登山道から山の中へ走り去る。
霧と風の中を下り続けて、11時02分に堀山ノ家に到着する。相変わらず風は吹いているものの、何時の間にか雨は小止みになっている。私は堀山ノ家で、雨具を脱いで、半袖シャツ1枚になる。
駒止茶屋を過ぎる頃には、風も弱まり、周囲の霧もなくなる。どうやら、山麓までまとわり着いていた雲の下に出たようである。
下山途中、数名の登山客とすれ違う。異口同音に、
「山頂の様子はいかがでしたか・・?」
と聞かれる。
「山頂は雲の中で、かなり荒れていました・・」
と答えると、
「途中で引き返そうかな・・」
と返事をする方々も何人かおられた。
12時18分、無事、大倉まで下山する。
そういえば、盛んに北アルプスのことを話していた3人組とは、途中で会わなかった。どうやら、途中で下山してしまったらしい。
雨で濡れたのか、汗なのか分からないが、体中がべたべたする。早く家に帰って、風呂に入ろうと思う。
<見晴山荘から下界が良く見える>
[山行記録」
■水平歩行距離 7.0km
■累積登攀下降高度 1,201m
■登攀所要時間
大倉 発 7:02
塔ノ岳 着 9:36
(所要時間) 2時間34分(2.57h)
登攀速度 1,201m/2.57h=467.3m/h
■下降所要時間
塔ノ岳 発 10:01
大倉 着 12:18
(所要時間) 2時間17分(2.28h)
下降速度 1,201m/2.28h=526.8m/h
(おわり)
「丹沢の山旅」の前回の記事
http://blog.goo.ne.jp/flower-hill_2005/e/2a512ecc7704b1394bb53932a1d6dc21
「丹沢の山旅」の次回の記事
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