
<塔ノ岳山頂からの眺望>
時差と暑さに参った丹沢;塔ノ岳(今年31回目)
(単独山行)
2011年7月29日(金)
■時差がどうしようもない
何時ものことながら,月日の過ぎ去るのは実に早いなと実感しているが,ツール・ド・モンブラントレッキングを終えて,帰国してから,今日でもう5日になる.それなのに,私は,未だに逆時差があって,どうもしっくりしない.
帰国後も,毎日,夜21時頃就寝するが,23時から0時頃になると決まって,眼が冴え渡り,それから3時頃までは,どんなに眠ろうと思っても,どうにもならない.そのくせ,4~5時頃になると,今度はやたらと眠くなり,起きられなくなる.
実は,先週日曜日(24日)に帰国してから,2日間を開けた水曜日(27日)に塔ノ岳へ登ろうと思っていたが,残念ながら目が覚めたのが6時.これでは大倉発1番バスに間に合わない.それに,27日は天気も悪かったので,まあ仕方がないなと諦めた.
翌日の28日.またもや寝坊.また諦めた.
そして,今日,29日.
「29日は,何が何でも塔ノ岳へ行くぞ・・絶対に寝坊しないぞ」
私は前日夜から張り詰めた気持ちで居た.
ところが,例によって,0時頃,どうしても目が覚めてしまう.今日は絶対に4時には起きるぞと思いながら,寝ているのか目覚めているのか良く分からない状態で,ウトウトとしている.
その内に,「はっ」と正気に返る.時計を見ると,何と4時55分.
私は飛び起きる.もう家で朝食を食べる時間はない.とにかく,大急ぎで支度を調えて,5時10分に家を飛び出る.
外は前夜の蒸し暑さが残っている.空はドンヨリとしている.夜半に雨が降ったのか,路面が濡れている.今日も梅雨空のようにハッキリしない天気のようである.
■渋沢発大倉行1番バス
まずは大船駅から東海道本線の電車で小田原へ向かう.電車は空いている.大船駅前のコンビニで朝食用に買い込んだオニギリを食べながら,ぼんやりしていると,間もなく,小田原に到着する.電車の中で,携帯電話を持参するのを忘れていることに気がつく.
小田原駅で,たった3分しかない乗換時間の間に,猛ダッシュをして小田急電車に乗り換える.小田急の電車に飛び乗った途端に発車ベルが鳴り出す.心臓がバクバクする.階段を駆け上がっているときに,
「今日は,随分,身体が重いな~ぁ・・・」
と実感する.なにせ,まだ時差と寝不足が重なって,体調は最悪のようである.
渋沢発大倉行1番バスは,空き空きである.ご常連は韋駄天のTさんとN村さんの2人だけ.お二人と雑談をしている内に,大倉に到着する.
韋駄天のTさんから,来週土曜日に,いつも1番バスに乗っているご常連の集いを開くので出席するように促される.こんなノロノロ足の私でも,ご常連の末席に加えて頂いたことが,とても嬉しい.
「ツールドモンブラントレッキングのことも聞かせて下さい・・」
とのことなので,旅の写真を持参するつもりである.
<バス停大倉に張り出されたヒル対策用の塩>
■蒸し暑くてやり切れない
例によって,1番バスの乗客が全員歩き出してから,最後に私も歩き出す.7時05分である. 大倉の気温26.2℃.湿度が極めて高く,無風.気温はそれほど高いようにも思えないが,湿度がヤケに高くて,とにかく蒸し暑い.私の体調は最悪.何としても身体が重い.こんなときに少しでも頑張ったら,すぐにバテてしまい,挙げ句の果てに,熱射病になることは必定である.私は安全第一を念頭に置きながら,身体が暑さに十分馴れるまで,極々ユックリ登ろうと決心する.幸いなことに私の前後に登山者の姿はない.自分の前に登山者が居ればどうしても追い越したくなるし,後ろから追われると頑張りたくなる.こんな邪気を払拭するのに何時も苦労するが,今日は前後に登山者の姿が無いので,その心配はない.
それにしても,ベラボーに蒸し暑い.ほんの一寸でも風が吹いてくれれば,随分と救われるのだが,今日は全くの無風である.バス停大倉から登山口までの舗装道路を歩いている間だけで,いつもより数分余計に時間が掛かってしまう.
登山道に入る.路面は幾分濡れていて滑りやすい.蚊やアブが私の周りをうるさく飛び回る.
7時45分,やっと見晴茶屋を通過する.そして大倉尾根最初の難所である急坂に差し掛かる.今は夏.繁茂した緑陰が頭上に覆い被さっている.全く風がないので,辺りは湿気で淀んでいる.坂の遙か上の方に男性が1人歩いているのが見える.私は熱中症にならないようにハイドレーションシステムから少しずつ,少しずつ,水を補給しながら,ユックリ,ユックリと登り続ける.
身体は,もう自分でも嫌になるほど,相変わらず重い.
「今日はどうも体調が思わしくないな・・・途中の駒止茶屋か堀山の家辺りで下山しようかな・・・」
と思いながら登り続ける.
8時07分,ようやく一本松を通過する.本来ならば駒止茶屋付近を歩いていても良い時間である.
駒止茶屋を過ぎて,登山道が平坦になっても相変わらずデレデレとしか歩けない.何時もならばこの辺りで涼しくなるのだが・・・・
そのとき,近くの森から,急にホトトギスの啼き声が聞こえてくる.そういえば,登り始めてから今まで,ただの一回も鳥の囀りを聞いていないことに気がつく.ホトトギスの啼き声を聞いた途端に,私のやる気を起こすスイッチがオンになったような気がする.ホトトギスの啼き声に促されて,もう少し登ってみようかなと思い始める.
<鬱蒼とした緑陰の急坂>
■富士山が見える
8時27分,ようやく駒止茶屋を通過する.歩き出してから1時間22分も経過している.平素のラップに比較すると20分ほど余計に時間を掛けていることになる.でも,それでも良い.とにかく熱中症にならずに無事に登れれば,それで十分と自分に言い聞かせる.
堀山の尾根も,急がずユックリと歩く.富士山が良く見える場所に到着する.今日も相変わらず雲が多いが,この時期にしては珍しく富士山が見えている.富士山の南側斜面には,残雪はほとんど無いようである.富士山が,まるで大きなボタ山のように見えている.
<残雪が全く見えない富士山>
■ウンザリする登り坂
8時51分,堀山の家を通過する.
小草平のベンチで休んでいた男性が話しかけてくる.先ほど,見晴茶屋に続く急坂で,遙か上の方を歩いていた男性である.私が男性にかる時会釈して通過しようとすると,男性が私に,
「・・これから塔ノ岳山頂まで,まだ大分あるんですか・・」
と話しかけてくる.
暫くの間,この男性と雑談しながら一緒に登る.彼は,つい先日,富士山に登ったと頻りに自慢する.そして,塔ノ岳に登るのは今回が初めてだという.
私は雑談を続けるのが面倒になり,自分はユックリ定速で登りたいので,先に行ってくれと男性を促す.そして,男性の後に付いて登り続ける.しかし,ものの5分もしないうちに,男性から私に先に行くように言われてしまう.
花立山荘手前の後7分坂は,何時も嫌な所だが,特に今日はウンザリする.辺りは霧に包まれ始める.そして,ポツリポツリと雨粒が落ち始める.
途中,同じバスに乗っていたN村さんが下山してくる.この足の差には,ただ,ただ,驚くばかりである.
9時44分,やっとの思いで,花立山荘に到着する.何時もならば,とっくに塔ノ岳山頂に到着している時間である.富士山は霧の中.今日は平日なのに,珍しく花立山荘が営業している.
<暑さにうだる萱場平>
■韋駄天のTさんとチャンピョン
相変わらず無風である.喘ぎながら9時57分,やっと花立山を通過する.今日は花立山荘から花立山までのわずかな登りがヤケにきつく感じる.花立山の山頂付近は濃い霧に覆われていて,ほとんど何も見えない.ここまで来れば少しは涼しくなるかと思ったが,今日は相変わらず蒸し暑い.相変わらず無風である.
気がつくと,つい先日まで,この辺りからうるさく聞こえていた虫の鳴き声が,今日は全く聞こえてこない.うるさいほどギーギーと鳴いていた虫が,たった10日ほどの間に全く姿を消してしまった.後で尊仏山荘小屋番のWさんに伺うと,うるさく鳴いていた虫はエゾハルゼミという蝉だとのことである.
花立山で写真を撮っていると,若い男性に追い付かれる.二言三言挨拶を交わす.礼儀正しい青年で好感が持てる.
「どうぞお先に・・」
と彼に道を譲る.すると,彼は,
「いえ,いえ,・・私は歩くのが遅いので・・」
と遠慮する.
しかし.どう考えても,ロートルの私の方が,足が遅いのは自明なので,とにかくこの青年に先へ行って貰う.
そうこうしている内に,もう,上から韋駄天のTさんが下山してくる.私と同じバスに乗っていたのに・・・Tさんの軽快な足取りが羨ましい.
<韋駄天のTさんが下る>
<チャンピョンが下る>
■塔ノ岳山頂
その後も,ダラダラと歩き続けて,山頂直下の木製の階段に差し掛かる.階段の上からチャンピョンが空の背負子を肩掛けにして降りてくる.私が,
「こんにちは・・」
と挨拶をすると,
「やあ! ○○教授のFHさん・・!」
と変な挨拶が返ってくる.一体,何方から私の前歴を聞いたんだろうと訝る.
10時19分にやっと塔ノ岳山頂に到着する.気温23.0℃.無風.暑い.大倉からの所要時間は実に3時間14分.もちろん私の最低記録.実に情けないが,これが現実.でも,まあ,考えようによっては,熱中症にもならずに.重たい身体を引きずって,何とか山頂まで到着したのだから,まずは良かったなと思わなければ・・・
山頂付近の視界は悪くはないが,四方雲に覆われていて,富士山は全く見えない.私は何時ものように四方八方の写真を撮るという儀式を済ませて,尊仏山荘に向かう.
<塔ノ岳山頂>
■尊仏山荘
尊仏山荘に入る.小屋番はWさん.300円也のお茶を所望.
先客は,花立山で,先に行って貰った若い男性が一人.私は軽く会釈をしてから席に座る.そしてWさんに,
「・・ところで,ネコ,元気ですか?」
と伺う.
「ええ,元気ですよ・・・さっきまでこの辺りに居たんですが,今,2階に居ますよ・・」
と言いながら,Wさんはわざわざ2階へ行って,ネコを連れてくる.
寝ていた所を起こされたミー君は,キョトンとしているが,そこがまた可愛い.
「ミー君も,もう12歳だね・・・」
人間に換算すれば80歳ぐらいか.まあ,元気で居て欲しいものである.なお,ミー君が掲載される雑誌は,来月5日に発売されるとのことである.
イヌは人間に馴れ,ネコは家に馴れると良く言われるが,ミー君もあれほど可愛がって貰ったOさんが小屋番を辞めてからも,特段ノイローゼになることもなく,淡々と暮らしているようである.Wさんの話では,この頃,ミー君にもサービス精神が芽生えたらしくて,客席に姿を現すことが多くなったという.
「お前,元気で居なさいよ・・・」
と言いながらミー君の頭を撫でる.その間,ミー君は温和しくしている.
Wさんが私に,
「モンブランに行ってこられたんですってね・・」
と聞く.
「いえ,いえ,モンブランといっても・・ツール・ド・モンブランですよ.モンブラン山の周辺を一回りするトレッキングです・・大したことはないですよ・・・」
たかが私のことが,尊仏山荘の話題になっているとは,有り難いことである.
数年前にモンブラン山に登ったときに,山麓を見下ろすと気持ちよさそうなトレッキングルートが見えたので,いつかあの道を歩いてみたいなと思っていた.それが漸く,今になって実現したことをお話しする.
このやりとりを聞いていたさきほどの青年が,
「えっ!・・モンブラン山へ登られたんですか?」
と尊敬の眼で私を見つめる.私は照れる.
「いや・・登ったと言っても,ガイドにロープで確保して貰いながら,やっとこさっとこ登っただけですよ・・」
と訳の分からない言い訳をする.
<温和しいミー君>
■蒸し暑い最中の下山
10時45分,下山開始.
今日は天気が悪いためか.登ってくる登山客が随分と少ないようである.何となく疲労感があるので,あまり急いで歩く気がしない.まあ,下山に何時間掛かっても良いや・・時計は見ないことにしよう.私はとにかく無理をしないように 注意しながら下り続ける.
暫く下っている内に,つい先日見たNHKの「ためしてガッテン」を思い出す.運動をした後30分から1時間ぐらいの間に牛乳を飲むのが宜しいという番組である.今朝,コンビニで,この番組を思い出して牛乳を1パック購入していたが,尊仏山荘で飲むのを忘れていた.そこで,花立山荘のベンチで,5分ほど休憩を取って,この牛乳を飲み干す.
いくら暑いとは言っても.花立山荘辺りまでは,幾分,涼しかった.花立山荘から下り始めると,やっぱり蒸し暑さが増してくる.ちょっと急ぐとすぐに汗が出るので,下りも随分とユックリ歩く.途中で見掛けたホタルブクロの写真を撮るが,富士山は相変わらず見えない.
大倉発13時52分のバスに合わせて,ユックリノンビリと下山する.
バスの中,電車の中で,眠くて,眠くてどうにもならない.時差解消には,もう少し時間が掛かりそうである.
今回の塔ノ岳詣では,正直な所,結構,シンドかった.でも,まあ,無事に往復できたのだから,良かった,良かった・・ということにしておこう.
<花立山荘付近にて>
[ラップタイム]
7:05 大倉歩き出し
7:29 観音茶屋
7:45 見晴茶屋
8:27 駒止茶屋(23.2℃)
8:51 堀山の家(23.0℃)
9:44 花立山荘
10:03 金冷シ
10:19 塔ノ岳山頂着(23.0℃)
======================================
10:45 塔ノ岳山頂発
11:02 金冷シ
11:15 花立山荘(11:20まで昼食)
12:36 堀山の家
12:24 駒止茶屋
12:52 見晴茶屋
13:09 観音茶屋
13:35 大倉 着(28,0℃)
[山行記録]
■水平距離 7.0km(片道)
■累積登攀下降高度 1269m
■登攀所要時間(雑談時間を含む)
大倉 発 7:05
塔ノ岳 着 10:19
(所要時間) 3時間14分(3.23h)
水平歩行速度 7.0km/3.23h=2.17km/h
登攀速度 1269m/3.23h=392.9m/h
■下降所要時間(休憩時間を含む)
塔ノ岳 発 10:45
大倉 着 13:35
(所要時間) 2時間50分(2.83h)
水平歩行速度 7.0km/2.83h=2.47km/h
下降速度 1269m/2.83h=448.4m/h
(おわり)
「丹沢の山旅」の前回の記事
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