こんなにさわいでも、にげだそうともせぬところをみると、賊は息絶えているのでしょうか。
In this havoc it didn't move. He might be dead.
それとも、気をうしなっているのでしょうか。まさか、木の上で、居眠りをしているのではありますまい。
Or he might have lost consciousness. He couldn't be sleeping on the tree.
「だれか、あいつを引きおろしてくれたまえ。」
係長の命令に、さっそくはしごが運ばれて、それにのぼるもの、下から受けとめるもの、三―四人の力で、賊は地上におろされました。
"Let him get down here."
By order from the cheif a ladder was brought. One climbed up, another recieved it. He was brought down by several people.
「おや、しばられているじゃないか。」
いかにも、細い絹ひものようなもので、ぐるぐる巻きにしばられています。そのうえさるぐつわです。
"See, he's bound."
Sure, he was tied up by thin rope and gaged.
大きなハンカチを口の中へおしこんで、別のハンカチでかたく、くくってあります。それから、みょうなことに、洋服が雨にでもあったように、グッショリぬれているのです。
A big handkerchief was shoved into his mouth and another tied on it hard. And it was strange enough his clothe were soked wet as if he had stayed in rain.
さるぐつわをとってやると、男はやっと元気づいたように、
「ちくしょうめ、ちくしょうめ。」
と、うなりました。
When the gag was loosened, he seemed to recover and groaned.
"Damn it!"
「アッ、きみは松野君じゃないか。」
秘書がびっくりしてさけびました。
"Oh, you are Matsuno."
The scretary yelled in surprise.
それは二十面相ではなかったのです。二十面相の服を着ていましたけれど、顔はまったくちがうのです。おかかえ運転手の松野にちがいありません。
It wasn't Twenty Faces at all. He was in Twenty Faces' clothe but his face was not it. This was the chauffer Matsuno, indeed.
でも、運転手といえば、さいぜん、早苗さんと壮二君を学校へ送るために、出かけたばかりではありませんか。その松野が、どうしてここにいるのでしょう。
「きみは、いったいどうしたんだ。」
But speaking of the chauffer, he had gone out with Sanae and Souji to their school. Why then he is here.
"What happened to you?"
係長がたずねますと、松野は、
「ちくしょうめ、やられたんです。あいつにやられたんです。」
と、くやしそうにさけぶのでした。
As the chief asked,
"Damned it! I'm done. He beat me."
He shouted regretfully.
この章はこれで終わりです。