何を思いついたのか、老人の顔には、にわかに生気がみなぎってきました。
「おい、作蔵、作蔵はいないか。」
No matter what he thought, his face got animated.
"Hey, Sakuzou, are there Sakuzou?"
老人は部屋の外へ出て、パンパンと手をたたきながら、しきりと、じいやを呼びたてました。
He got out of the room and called out his servant with his hands clapping.
ただならぬ主人の声に、じいやがかけつけてきますと、
「早く、『伊豆日報』を持ってきてくれ。たしかおとといの新聞だったと思うが、なんでもいいから三―四日ぶんまとめて持ってきてくれ。早くだ、早くだぞ。」
For his unusual urgent call, the old man came.
"Bring the 'Izu Nippo' now. It was the day bofore the yesterday, I think. Anyway bring the papers for a several days. Now. Now."
と、おそろしいけんまくで命じました。作蔵が、あわてふためいて、その『伊豆日報』という地方新聞のたばを持ってきますと、老人は取る手ももどかしく、一枚一枚と社会面を見ていきましたが、やっぱりおとといの十三日の消息欄に、つぎのような記事が出ていました。
He ordered with a threatening air. Sakuzou brought a bunch of the rocal paper 'Izu Nippo' in a hurry, he took them impatiently, turn the pages to find the article in the social column parts.
The leading private detective Kogorou Akechi had been on buisness trip abroad, now came back to Japan. He is resting in Shuzenji Fujiya hotel today, and staying for a several days.
老人は、そんなひとりごとをつぶやきながら、作蔵じいやの女房を呼んで着物をきかえますと、宝物部屋のがんじょうな板戸をピッタリしめ、外からかぎをかけ、ふたりの召使いに、その前で見はり番をしているように、かたくいいつけて、ソソクサとやしきを出かけました。
ああ、待ちに待った名探偵明智小五郎が、とうとう帰ってきたのです。しかも、時も時、所も所、まるで申しあわせでもしたように、ちょうど、二十面相がおそおうという、日下部氏の美術城のすぐ近くに、入湯に来ていようとは、左門老人にとっては、じつに、ねがってもないしあわせといわねばなりません。