名探偵の危急
The Pressed detective
「ええ、なんだって、あの野郎をひっさらうんだって、そいつあおもしれえ。ねがってもないことだ。手つだわせてくんねえ。ぜひ手つだわせてくんねえ。で、それはいったい、いつのことなんだ。」
”What? Abducting him? That's interesting. That's just I want. Let me help you. I want to do it. When is it?"
赤井寅三は、もうむちゅうになってたずねるのです。
「今夜だよ。」
「え、え、今夜だって。そいつあすてきだ。だが、どうしてひっさらおうというんだね。」
Torazou Akai asked enthusiastically.
"It's tonight."
"What, tonight? That's wonderful. But how?"
「それがね、やっぱり二十面相の親分だ、うまい手だてを工夫したんだよ。というのはね、子分のなかに、すてきもねえ美しい女があるんだ。その女を、どっかの若い奥さんにしたてて、明智の野郎の喜びそうな、こみいった事件をこしらえて探偵をたのみに行かせんだ。
"It's Twenty Faces's plan, very adroit plan. I mean there is this beautiful woman among us. He made her as a young wife of someone and let her go to the detective to ask for help for a difficult case.
そして、すぐに家をしらべてくれといって、あいつを自動車に乗せてつれだすんだ。その女といっしょにだよ。むろん自動車の運転手も仲間のひとりなんだ。
And she asks to check the house now, bring him with her by the car. Of course the driver is one of us.
むずかしい事件の大すきなあいつのこった。それに、相手がかよわい女なんだから、ゆだんをして、この計画には、ひっかかるにきまっているよ。
He loves the difficult cases. And it's a weak woman, he must take the case.
で、おれたちの仕事はというと、ついこの先の青山墓地へ先まわりをして、明智を乗せた自動車がやってくるのを待っているんだよ。あすこを通らなければならないような道順にしてあるんだ。
Now, our job is to go to the Aoyama cemetery and wait for their car. They will have to take this route in this plan.
おれたちの待っている前へ来ると、自動車がピッタリとまる。するとおれときみとが、両がわからドアをあけて、車の中へとびこみ、明智のやつを身動きのできないようにして、麻酔剤をかがせるというだんどりなんだ。麻酔剤もちゃんとここに用意している。
The car stops in front of us. Then you and I open the door from the both side, jump in, put him down, and make him inhale the narcotic. I have narcotic all right.
それから、ピストルが二丁あるんだ。もうひとり仲間が来ることになっているもんだから。
I have two pistols too. There will be onother one coming.
しかし、かまやしないよ。そいつは明智にうらみがあるわけでもなんでもないんだから、きみに手がらをさせてやるよ。
さあ、これがピストルだ。」
But I don't care. He's not holding a grudge against Akechi. I'll let you do that.
There, this is the pistol."
乞食に化けた男は、そういって、やぶれた着物のふところから、一丁のピストルをとりだし、赤井にわたしました。
The man in disguise of a beggar said so and took a pistol out of his tored clothe to give Akai.
「こんなもの、おらあうったことがねえよ。どうすりゃいいんだい。」
"I have never used this kind of thing. I don't know what to do."
「なあに、弾丸ははいってやしない。引き金に指をあててうつようなかっこうをすりゃいいんだ。二十面相の親分はね、人殺しが大きらいなんだ。このピストルはただおどかしだよ。」
"It doesn't have any bullet. Just pretend shooting by put your finger on the trigger. Our boss, Twenty Faces, hates murder. This is just a treat."
弾丸がはいっていないと聞いて、赤井は不満らしい顔をしましたが、ともかくもポケットにおさめ、
「じゃ、すぐに青山墓地へ出かけようじゃねえか。」
と、うながすのでした。
Knowing that there is no bullet in it Akai looked unhappy but put it in his pocket anyway.
"Then, let's go to the Aoyama cemetery now."
He urged.