主文、「被告人は死刑。他三名を無期とす。」
ざわめきすら起こらず当然の判決のごとく、飄々とした法廷であった。
「今回の事件は、以下の通りで間違いあらず。被告人の親は被害者と
握り飯と柿の交換を行った。が、被害者が熟柿を与えず青柿ばかりを与えたうえ
その青柿を被告人の親に傷害を加えるように投げ続けたという。
その結果、被告人の親は、死に至った。被告人は、仇とばかり被害者を計画的に殺害、
死に至らしめた事実。しかし、今回被害者と被告人の親は
物々交換にあたり一通の証書も取り交わしておらず。それは不問にしても
握り飯と熟柿の交換と特に断っておらず。また、被害者が青柿を投げつけたことも
悪意があったかは立証困難。被告人に対し輿論も同情の意もあらず。
まさに今回の場合、被告人の親の無知と軽率から利益を占められたのを
忌々しく思った被告人の私憤の結果に外ならず。優勝劣敗の世の中に
こう云う私憤を洩らすとすれば、愚者にあらずんば狂者であると非難が多いほど。
今回の殺害は、被告人の被告人の親の殺害に対す被害者への
復讐の意志にでたものである。復讐は、やはり善と称し難しは当然。
仇打ちとは、武士道の精神なら一致するかもしれぬが、
現時代にて言語道断の有り得ぬ話、よって被告人【蟹】を死刑とす。
また、共犯たる【臼・蜂・卵】を無期とす。これにて閉廷。」
どうもザマです。これは、皆さんご承知お伽噺の【猿蟹合戦】の略されたのちの説である。
いかなることがあっても傷つけてはならずと申したかったのか、否か。
【龍之介殿】本編最後の弐文に秘めたるものは、永久に問うばかりである。
私は漫画好きなのは前に記したが、書物も読すのである。
とりわけ、日本文学を好むのである。今回、漫画本の間に申し訳なさそうに
構えていた書物を手に取り読返したのである。【芥川龍之介】著、猿蟹合戦。
崇拝なる【芥川龍之介】著、猿蟹合戦を皆さんも一度読してください。
被告人の【蟹】の処刑後も記しております。そして最後の弐文の意は?私も知らずなり。
その弐文の意を教えていただきたく思う秋の夕暮れなり。