By - NEWS ONLINE 編集部 公開:2023-08-04 更新:2023-08-04
防衛研究所・防衛政策研究室長の高橋杉雄
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高橋 杉雄(たかはし すぎお、1972年8月15日 -50歳 )は、日本の国際安全保障研究者[1][2]。
防衛省防衛研究所政策研究部防衛政策研究室長。
専門は国際安全保障、現代軍事戦略論、核抑止論、日米関係論。
1995年、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。
1997年、早稲田大学院政治経済研究科政治学課程修了(政治学修士)。同年、防衛研究所入所。
2006年、ジョージ・ワシントン大学コロンビアンスクール修士課程修了(政治学修士)[3]。
防衛省防衛政策局防衛政策課戦略企画室兼務、防衛研究所助手、政策シミュレーション室長などを経て、2020年より政策研究部防衛政策研究室長[4]。
2022年のロシアのウクライナ侵攻以降、報道番組への出演や新聞雑誌、YouTube等を通じてウクライナ侵攻の戦況や情勢、また日本の安全保障政策等の解説を行っている。
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が8月4日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。拡大する中国の台湾への軍事的圧力について解説した。
〇台湾周辺での演習から1年、中国の軍事的圧力が拡大か
中国人民解放軍がペロシ米下院議長(当時)の台湾訪問に反発し、台湾周辺で大規模軍事演習を行ってから8月4日で1年となった。
中国は2022年8月の演習以降、台湾海峡の暗黙の「休戦ライン」である中間線越えを常態化させるなど、台湾への軍事的圧力を拡大させているという指摘もある。
〇アメリカと台湾の新たな動きを阻止するための手段としての演習
飯田)日本の排他的経済水域(EEZ)
内にも着弾したため、まったく他人事ではありません。軍事的な演習などの動きはどう見たらいいのですか?
高橋)中国側
はアメリカや台湾による何らかの行動を、ある種の口実として軍事的行動のレベルを上げているのです。
①アメリカや台湾による新たな動きを演習などで抑止する。「やめた方がいい」と思わせることが、第1の狙いとして考えられます。
飯田)アメリカや台湾の新たな動きを抑止する。
飯田)アメリカや台湾の新たな動きを抑止する。
高橋)①ー1ペロシ氏が訪問したときや、マッカーシー下院議長と蔡英文総統が会談したときも演習が行われました。アメリカや台湾に圧力を掛ける手段として、演習を使っているのが1つです。
〇普段から高いレベルで軍事活動することで、実際の侵攻準備と通常活動の区別をわからなくさせる
高橋)➁もう1つは、台湾海峡の中間線を越える航空機の活動、また、台湾の外を一周するような艦艇の活動が増えています。いわゆる即応性、中国軍の活動レベルが段々と上がってきている。
飯田)即応性。
高橋)長期的に起こる問題として、普段から高いレベルで活動していると、実際の侵攻準備と普段の活動の区別がつかなくなる可能性があります。
飯田)普段から高いレベルで活動していると。
高橋)中国としては、そこまで見越した上で軍事的活動のレベルを上げている可能性もあります。
慎重に見守る必要があると思います。
〇ウクライナ侵攻の半年前から普段はしない軍事演習を行い始めたロシア ~軍事演習が2~3年続けば「これが普通」となり、警戒が薄くなる
飯田)常にスクランブルしていると、「今回もどうせ演習だろう」と思っていたら、「本当に来たぞ」となるかも知れない。認識のタイムラグが起こってしまうと、時間的な誤差が問題になる可能性もありますか?
高橋)実際に大規模な軍事作戦を行うときは、準備が必要です。普段何もしていないところでいきなり準備を始めたら、戦争の準備だとわかってしまいます。
飯田)そうですね。
高橋)例えばロシアによるウクライナ侵攻において、その半年くらい前から軍事演習が行われていました。
それまではなかったことなので、「おかしいぞ」となったわけです。ところが、2年~3年と行動が続いたら「中国ではこれが普通だ」となって、警戒が薄れていく可能性があり、危険な状況だと思います。
飯田)①=先ほど中国側の意図として、台湾やアメリカによる域内での新しい動きを阻止するという話がありました。
基本的には一定のエリアを区切って、そこには立ち入らせないような形を取るのですか?
高橋)できるかどうかは別として、それができるようにしたいのでしょう。
そうすることで台湾国内での独立への動き、あるいは現状維持への動きさえ抑え込むことができれば、実際に戦争を行う必要はなくなるかも知れない。
心理面にターゲットを絞った圧力なのかも知れません。
〇「台湾はあくまでも中華人民共和国の一部である」という意識付けをさせたい中国 ~「現状維持」も許さない
飯田)心理面での線引きの部分で、かつてアメリカなどがよく言っていたのは、独立ではなく「現状維持」を1つの線引きとしています。ある意味で中国は、現状維持も許さない方向に変わってきているのでしょうか?
高橋)そうだと思います。中国側の意図は明確に読み取れない部分もありますが、台湾の人々の間では台湾アイデンティティができていて、現状維持自体が既に事実上の独立に向かっているわけです。
それに対して、「お前たちはあくまでも中華人民共和国の一部なのだ」というように意識付けをさせたいとすると、それも現状とは違うことになります。
〇アメリカのプライオリティは「いまの現状維持」が保たれること
飯田)アメリカとしてのプライオリティは、「いまの現状が維持されること」なのでしょうか?
高橋)中華人民共和国からの現状変更は受け入れられないし、台湾側からの一方的な現状変更も好まないという考え方だと思います。
飯田)蔡英文総統も、その辺りの言葉の使い方などは非常に意識している印象です。
〇アメリカが台湾への介入を明確にすることで懸念されること ~台湾が防衛努力を怠ったり、必要以上に独立に向かう
飯田)2024年1月に行われる台湾総統選まで半年を切りました。民進党の頼清徳氏は、これまでは独立派だと発言していましたが、路線として現状維持は変わらないと見た方がいいですか?
高橋)私はそう思います。現状、アメリカは戦略的曖昧性、台湾に介入するかしないかは曖昧にするという方針でしたが、いまはそれを「明確にするべきだ」という議論があります。
飯田)曖昧戦略から。
高橋)懸念されるのは、アメリカが介入を明確化すると、台湾がフリーライドしてしまうのではないかということです。
要するに防衛努力を怠ったり、必要以上に独立に向かうのではないかという懸念がある。
台湾側は、その懸念材料を確実に減らしていく必要があると言えます
〇台湾を国として認めていない日米 ~宿命的に準備不足である状況は否めない
飯田)日本の立場として、日本ももちろん現状維持を支持するところはあると思います。
他方、有事になった場合は難民への対応など、備えるべきことは多岐に渡りますよね?
高橋)戦争は人が住んでいる場所で行われるのであって、土俵のなかで軍隊だけが戦うものではありません。
避難民が出てくることは、いまのウクライナ戦争でも明らかになっていますし、少しでも戦争を知っている人間であれば、考えることです。
当然そこには在留邦人の退避なども含まれます。
飯田)台湾自身は、国民も巻き込んでいろいろな訓練を行っていますが、日本国として、どう動くかも考えておかなければいけませんか?
高橋)日本だけではなく、アメリカもそうなのですが、台湾を国として認めていません。
例えば米韓同盟があり、米韓連合司令部があるというような形だと、台湾との間で防衛準備はできないのです。
飯田)そうですね。
高橋)やってしまうと、それ自体が戦争の理由になる可能性もあります。
そのような意味でも、事前準備には限界がある。
宿命的に準備不足にならざるを得ないということも大きな問題です。
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