[東京 24日 ロイター] - 中国人団体旅行の解禁により、日本の観光業界ではコロナ禍で落ち込んだインバウンド消費の回復が期待されている。
だが、コロナ流行前と今では状況が違う。
歴史的な円安は追い風だが、中国景気は減速。
原発処理水の海洋放出の影響も不透明だ。
団体客数は以前ほど戻らず「爆買い」も起こりにくいとの声もある。
中国人の消費行動がそもそも変化しているとみて新たな商機を探る企業も出ている。
「新鮮な食べ物、まだ食べたことのない日本料理が一番楽しみです」――。
日本への団体旅行解禁後、全日本空輸(ANA)を利用した初のツアーの一行が23日夜、羽田空港に到着。ツアー参加者の1人、今回で5回目の来日という10代の徐梓暢(シュー・ジーチャン)さんはこう話す。
撮影や文化体験のできる浅草などを巡る4泊5日の旅で、人気バスケットボール漫画「スラムダンク」で登場した鎌倉市の江ノ島電鉄の踏切も訪問場所に含まれている。
<変わる嗜好、日本らしさ求める>
はとバスはコロナ禍で運休していた中国語によるツアーを9月末から復活させる。
富士山周辺を巡るコースで、以前は乗客44人乗りの黄色い一般バスのみで運行していたが、新たに24人乗りの最上級バスを一部の日程で使うことにした。
料金(大人)は1万6000円に設定、一般バスより4000円高いが、縦3列のゆったりした独立型の座席だ。安全性も高め、全席にコンセントを完備、コーヒーなども提供する。
徐(シュー)さんのようなリピーターも増えており、同社広報は「ニーズに合わせ、ツアーの差別化を図った」という。
小売りの現場でも需要を取り込むため、さまざまな対応策を模索中だ。
三越伊勢丹ホールディングスでは、三越銀座店で昨年6月から、伊勢丹新宿店で昨年10月から免税カウンターを増強。広報によると、同社では「今後はモノ消費からサービス体験型のコト消費に移る」とみている。
「これまでは化粧品を単品で何十個も買っていたが、これからはブースに座ってゆっくり時間をかけて肌診断などを受けた上で自分に最適な商品を買う」といった日本人と同じ体験に需要があるとみてサービスや接客を強化する。
ドラッグストア大手のマツキヨココカラ&カンパニーは、コロナ禍に既に免税対応店を200以上増やし、3400店舗中1500店舗超が免税・外国語対応店になっている。
自社店舗の購買情報を分析し、中国人の関心が高い「日本製の安全安心な商品、日本でしか買えない商品」(広報)をそろえる。
<経済不安、消費行動に影響>
日本政府は、訪日外国人観光客数の目標として2025年にコロナ禍前(19年の3188万人)水準超え、消費額5兆円(同4.8兆円)の早期達成を掲げる。
観光庁の高橋一郎長官は21日の会見で、大型連休となる10月の国慶節に「中国人団体旅行客が本格化すると想定している」と話し、単月の訪日客数は「年内にはコロナ前の水準に戻ることも視野に入れている」と述べた。
だが、団体旅行の解禁効果には慎重な見方が多い。経済不安が広がっており、どこまで旅行消費にお金を回せるのか見通せない。
中国の7月の経済統計は、不動産や消費など大半の指標が市場予想を下回り、前月より悪化・低下、景気減速が鮮明となった。
6月に21.3%と過去最悪だった16─24歳の失業率は7月分が公表されず、状況がさらに悪化しているとの観測も出ている。
ソニーフィナンシャルグループの宮嶋貴之シニアエコノミストは、雇用・所得環境の悪化で「中国の消費者マインドはかつてないほど冷え込み、貯蓄意欲が高まる一方だ」と説明。
中国政府が大幅な景気浮揚を意図した景気対策を実施するとは考えにくく、中国人訪日客数が早期に19年水準に回復する可能性は小さいと予想する。
株価低迷で資産効果も小さく、「円安により消費単価は高水準となりそうだが、15年のような爆買いブームが再現する可能性は低い」とみる。
みずほリサーチ&テクノロジーズの坂中弥生・上席主任エコノミストは中国経済悪化による影響に加え、国内観光業界の人手不足で「中国人団体客を受け入れたくても受け入れられない恐れがある」とも懸念する。
<重なる処理水放出の時期>
24日の東京電力福島第1原発処理水の海洋放出の影響も読みにくい。四川省成都市で個人旅行代理店を経営するアリス・シュウ氏は、海洋放出の受け止めには「個人差がある」とした上で、「人々の旅行の熱意が下がるかどうかはわからない」として様子を見たいと述べた。
一方、オンライン旅行会社トリップドットコム・グループは海洋放出にはコメントしなかったが、同社のデータによると、8月10日の団体旅行解禁から17日までの1週間で日本への団体旅行商品の予約は前月比90%近く増加。
国慶節に出発する予約は前月比5倍以上に増加した。
昨夜来日した徐(シュー)さんも「団体旅行解禁の方針を知り、すぐ申し込んだ」という今回のツアー。添乗員によると、販売開始後1日もかからずに売り切れたという。
中国政府が海洋放出への批判を強める中、旅行者への心理的な圧力が今後どこまで高まるのか業界関係者が神経質に見守る状況が続きそうだ。
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