〇中国共産党の出先機関が世界中に
中国共産党の「悪辣さ」がまた1つ、明らかになった。
国際法や他国の主権を無視して、米国や欧州、アフリカ、南米、日本などに「海外警察サービスセンター」と呼ばれる独自の警察拠点を築いていたのだ。
犯罪者だけでなく、反体制派の摘発が狙いであるのは確実だ。
この問題は、スペインの非政府組織(NGO)「セーフガード・デフェンダーズ」が9月12日、中国の海外警察サービスセンターの活動を詳細に調査した報告書を公表して、明るみに出た。
オランダのメディアが10月25日、最初に報じ、その後、英BBCなども追随して、世界に波紋を広げた。
オランダ外務省の報道官は「中国警察の非公式出先機関が存在するのは違法」と語り、当局が調査に乗り出した。
中国側は「海外在住の中国人のための行政サービス・ステーション」と否定している。
「110 overseas(海外の110番)〜常軌を逸した中国の国境を超えた取り締まり」と題された報告書によれば、中国福州市と青田市の2つの公安当局が、5大陸21カ国で計54の警察拠点を築いていた。
アイルランドのダブリン、オランダのロッテルダムとアムステルダム、英国のロンドンとグラスゴー、スペインはバレンシアとマドリードに3カ所、米国、カナダ、ナイジェリアといった具合である。
なかには、日本の拠点もある。
報告書には「東京都千代田区神田和泉町〇〇」と所番地まで記され、電話番号も付記されていた。
ちなみに、この番地を検索すると、中国福州市の関連団体と思われる一般社団法人がヒットした。
ただし、この団体と警察拠点の関係は不明だ。
〇何を目的とした組織なのか?
いったい、この警察拠点はどんな活動をしているのか。
報告書によれば、最初は公安当局が海外で不法な活動をしたり、逃亡した詐欺犯などを摘発する活動が発端だった。
やがて直接、海外に拠点を設けて、容疑者に接触し、中国に帰国するよう「説得」する活動に発展した。
説得といっても、実態は脅迫に近い。
たとえば「中国に帰らなければ、両親や親族が大変な目に遭うぞ」と脅す。
応じなければ、実家に「ここは詐欺の巣窟だ」などと記した看板を立てられ、警察の捜査対象であることを付近の住人に知らせる、あるいは子供を学校に行かせない、といった手段が使われた。
親族は警察に協力する義務を負っており、協力しなければ、彼ら自身が処罰の対象になる。
親族が住む家の電力や水道が遮断される場合もある。犯罪に関連する不動産や資産は当然のように、没収された。
その結果、中国当局によれば、2021年4月から22年7月までの間に23万人の中国人が「自発的に帰国」し、司法処分を受けたという。
中国は「中国人が居住してはならない9カ国」を指定している。
トルコ、アラブ首長国連邦(UAE)、ミャンマー、タイ、マレーシア、ラオス、カンボジア、フィリピン、インドネシアだ。
実際には、これらの国にも中国人はいるが、彼らは「特別な理由」で例外扱いされているようだ。
〇もはやただの「警察拠点」ではない
問題の海外警察サービスセンターは、カンボジアを除く8カ国以外の取り締まりに従事している。
センターは福州市や青田市の警察だけでなく、中国共産党中央統一戦線工作部(United Front Work)とも連携している。
中央統一戦線工作部は、中国共産党と党外のざまざまな組織の連携を司る党中央委員会の直属組織だ。
たとえば、新型コロナの発生直後、華僑などを通じて、世界中のマスクや防護服を買い占める作戦の司令塔を担っていたのも、この組織である。
この1点を見ても、警察拠点が単なる犯罪者の摘発や行政サービスを担う組織ではない、と分かる。
汚職官僚や反体制活動家の摘発にも関与しているのだ。
統一戦線工作部はそれぞれの国の協力者を通じて、情報収集したり、捜査摘発活動の便宜を図ってもらう一方、協力者には党幹部との会合設営や表彰などの形で報奨を与えていた。
政治犯や詐欺、横領などをして海外に逃亡した容疑者の摘発活動は「フォックス・ハント(狐狩り)作戦」と呼ばれている。人民公安ニュースという中国メディアは2019年3月23日、次のような記事を掲載した。
「
〈海外サービスセンターの創設によって、青田市警察は海外に逃げた逃亡犯の確保にめざましい突破口を開いた。2018年以来、警察は海外在住の中国人に関係した6件の犯罪を摘発し、解決した。指名手配された逃亡者は逮捕され、2人の容疑者は海外センターの協力を受けて説得され、投降した〉
」
これで明らかなように、海外センターは警察活動の一翼を担っている。
彼らがターゲットにする狐のなかには、単なる犯罪者や汚職官僚だけでなく、政治犯もいたはずだ。
〇主権侵害の可能性が高い
最大の問題は、こうした活動が当該国の同意や合意なしに、一方的な中国の裁量によって実行されている点である。
主権侵害や当該国の法律に違反している恐れが、かなり高い。
その一端は、中国が2022年9月2日、全国人民代表大会常務委員会で可決した「反テレコム・オンライン詐欺法」にうかがえる。
同法の第3条は、次のように定めている。
「
〈この法律は、中国領土におけるテレコム・オンライン詐欺に適用されるとともに、海外で実行された中国市民によるテレコム・オンライン詐欺にも適用される。
また、中国領土の人々に対するテレコム・オンライン詐欺に関わった海外の組織、個人も責任を負う〉
」
つまり、中国は、自国の法律を海外の組織や個人に対して適用するのである。たとえば、日本人が日本にいながら、いつなんどき、中国の法律を適用されて、罪に問われるか分からない、という話になる。
法の域外適用が国際的に許されないのは、当然だ。
こうした中国のデタラメさには、実は前例がある。
2020年に香港に導入した国家安全法だ。同法38条は
「香港特別行政区の永住民の身分を備えない人が香港特別行政区外で香港特別行政区に対し、本法に規定する犯罪を実施した場合は、本法を適用する」と定めていた。
自分が勝手に作った法律を、外国にいる外国人にも適用する。
正当な弁護を受ける権利も保証されない。
あたかも、中国は「世界はオレの言うことを聞け」と言わんばかりなのだ。
これでは、友好協力もへったくれもない。こんなことを許してはならない。
岸田文雄政権は、日本の警察拠点と指摘された施設について、そこで何が行われているのか、徹底的に調べるべきだ。
それとも、親中派で固めた政権に、それを要求するのは無理な話なのだろうか。この問題への対応は、岸田政権の地金を試すリトマス試験紙になる。
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