「はぜ掛けって大変な作業なんですよね」
「慣れてしまえば楽なもんだ。慣れだよ」
いとも簡単に受け答えされるので、農家さんとのやり取りに少し拍子抜けした。
自分が食している「はぜ掛け米」が美味しいんだと、自分が納得したい
だけで農家さんに色々聞いている。
「はぜ掛け乾燥と機械乾燥ではやはり違うんですか」
「機械乾燥だって、美味しいお米は作れるよ。乾燥温度を今では細かく
調整するみたいだし、それはそれで大変だね。俺にはできない」
「はぜ掛け米で脱穀する時期は稲を手に取れば分かるもんですか」
「分かるね」
「その年の天候にも因ると思うんですが」
「その年の天候というより、その日の天気だね。一週間の天気は確認している
けれど、朝起きた時に、肌で分かるよ。
あっ、今日だな、ってね」
「雨が降ればはぜ掛けから降ろすのは遅れるが、そんなのは当たり前で
今日だ!っていうのが分かる。その日の湿度とか、晴れとか、風とか。
分かっちゃうんだな、これが」
期待している回答なんか眼中にありません。
人の米作りなどどうでもよし。
美味い、不味いは食べた人が決めればよし。
「しょうがないよ。これが家のやり方だから」