お米の産地別、少量売りが流行りなので様子を見に有名百貨店を訪れた。
お客様は高級感があり、「もう少し着飾って来れば」と気後れしたが、普段見たことのない商品や、桁違いの値札に興味の方が先行し、気後れなんぞ
掻き消された。
食品、食材売り場はお決まりの地下階で、運良く「ご飯試食会」を兼ねた小口パッケージ、各種陳列販売をやっていた。
「美味しいお米です。食べてみてください、ご試食下さい」
新入社員か2年目くらいの初々しい女性が二人。
制服にエプロン、不釣り合いな三角巾して一生懸命声を上げている。
手元には、炊き上がったご飯が小分けのラップに包まれて、通りすがりのお客様にさしだされるが、誰一人、受け取って試食する人はいなかった。
それでも何とか成果を出そうと、
若手女性は作り笑顔で頑張るが、顔に不安の色も出始めていた。
「美味しいご飯です。ご試食どうぞ」
「美味しいご飯の試食というが、ご飯だけ食べて“美味しい、美味しい”と言っている人、見たことない」
「お新香や海苔、少しのおかずと一緒に食べて“あー、ご飯美味しい”となるもんだ」
「利き酒会じゃないだよ。パクパク食べたらお腹一杯になるだろう」
ラップに入ったご飯は、水蒸気としわくちゃなラップと相まって、艶も香りも感じない食料となっていた。
数時間後、こちらが祈るような気持ちでその試食販売コーナーを覗いてみる
と元気にご飯を差し出していた若手女性は、あまりの不人気さにうなだれて、立ちすくんでいるだけだった。
「君たちが悪いわけではない。こんなもん、試食という字面だけの創意も工夫もない企画だろ」
「次は会議で、勇気を持って意見せよ。可笑しいことは可笑しいと君たちの感性をしっかり伝えよ。」
白髪のおっさん、心の中でエールを贈った。