・「素朴な質問があるのですけど」
私はいった。
「水力発電や火力発電はべつにゴミを出さないからいいけど、
原発はとてもとても危険なゴミを出しますね、
新聞によると、
この高放射能の怖いゴミを、
ドラム缶にセメント詰めして貯めておくそうですね。
敦賀原発の事故も、
汚染源は廃棄物施設で、
その建物にヒビが入って、
そこから一般排水路へ洩れた、
と書いてありました。
このドラム缶がたくさん貯まると、
置場がなくなってしまうでしょう?」
「海へ沈めるんだ」
「海へ沈めれば安全ですか?」
「コンクリートでかためてあれば、
放射性物質は出ない」
「コンクリートは海中ではもろくなって、
壊れるのではないですか?
すると放射能の猛毒が海を汚染してゆき、
魚が汚れる。
汚れた魚を人間が食べる、
という怖ろしい循環になるのではないでしょうか?」
「あったとしても、
ごく微量な毒だから安全だろう」
「安全な量なら、
なぜコンクリートで固めたりするのでしょう?
すぐ海へ流しても大丈夫なはずなのに・・・
それに、そのゴミを、
なぜ遠くの南太平洋まで持っていって、
捨てるのですか?
南太平洋の島々の人たちがカンカンに怒るのは、
当然ではないですか?
『あんたたちが、
これは安全なゴミだから大丈夫だ、というなら、
おたくの東京湾に捨てればいいじゃないか』
といわれたら、
日本はグーの音も出ないではありませんか?
東京湾なり瀬戸内海に沈めたらいいのに、
なんで、わざわざヨソの国の海へ持って行くのでしょう?」
「うむ、それはいけない、
やはり日本のエゴイズムといってよい、
日本が出したゴミをヨソへ押しつけるのはよくない。
日本国内で人の住まぬ離島とか、
森林とかに埋めるようにすればよい」
「しかし離島といっても、
海に縄を張って毒を含む海水を防ぐわけにはいかないし、
いずれ内地へ流れてくるでしょう、
森林に埋めたとしても、
土中へ浸み込んで地下水が汚染される心配は、
拭えないでしょう?」
「放射能は弱まっていくから大丈夫だ」
「でもこんなに次々原発が作られたら、弱まる以上に、
あとからあとから毒が増えてゆくばかりでしょう?」
「安全基準というものがある。
事故のあと通産省は『ただちに人体に影響はない』
といっていた。
あの敦賀原発事故の場合でもね」
「ただちになくても、
おのずと体内にたまってゆくのではないですか?
第一、原子力発電所で働いてる人の中で、
被爆者が出ているという冷厳な事実を、
政府や電力会社の人はどう考えているのでしょう?」
「しかし何にしても、
エネルギー危機には勝てない」
「だけど日本は水の多い国だから、
もっともっと水力発電を考えた方がいいのではないですか?
原発のゴミ捨てさわぎで、
ふと主婦感覚で考えたんだけど、
かえって原発って高くつくんではないですか?
原子炉だって高いでしょう?
それを作るのに動かすのは何ですか?
石油や電気が要るんでしょう?
ゴミが出たら金を出して捨てにいかないといけない。
それに原子炉というのは永久的に使えなくて、
二十年しか保たないというじゃありませんか。
この間の敦賀の汚染源の廃棄物施設は、
昭和四十五年三月にできたもの、
と新聞にありましたが、
十年たつかたたないかでヒビが入って、
放射性廃棄物が洩れてる、
洩れただけでも怖ろしい毒が排出されるのに、
もう使わなくなった原子炉を、
どうやって壊すんでしょう?
物の本にはすっぽりコンクリートをかぶせて、
死のピラミッドを作るとありますが、
野球場の何十倍という大きな広いところを、
すっぽりコンクリートで覆うなんてこと、
出来るんでしょうか?
それに補償や迷惑料のお金も要るし、
収支決算したらとても高くついて、
かえって損、みたいな気がしますが・・・」
(次回へ)