・その知人は私の素朴な疑問には答えないで、
結局「原子力利用」はこれからの人類の課題だ、
というふうなことを述べ、
原発は安全かどうかより、
どうしても原発に頼らなければ将来の、
エネルギー危機はのりきれない、
その点に関する啓蒙のほうがずっと大事だ、
といって向こうへ行ってしまった。
しかし「安全かどうか」というのが、
人間にとっていちばん大切なことではないのか。
スリーマイル島の事故の一年後、
新聞はこの島の原発周辺で、
甲状腺異常を持つ子供の出生率が、
四倍以上に増えたことを報じている。
近辺の農場の牛をはじめ動物にも異常がみられる。
こんなふうにして、
じわじわと人類は蝕まれてゆくのではあるまいか。
原発推進派の産業研究所の稲葉秀三理事長は、
「原発推進の国民的合意を得るためには、
有識者などを中心にした中立的なグループで、
広報活動をやる必要があります。
政府や電力関係のPRでは、
どうしても色メガネで見られてしまうので、
説得力がありません。
それに電力を必要としている地域の住民に、
どうしたらよいのか、
問いかけてみる必要があります。
原発を進めるのは、
決して上滑りで派手なPRではなく、
地道な日常活動なのだ、
ということに気づくべきです」
(「週間読売」1981年・3・29)
といっていられるが、
たぶんこれは原発設置地方に、
政府や自民党が「企業誘致」や「赤字線の存続」
といったおいしい飴をばらまいて、
反対運動を圧殺してしまう、
そのあざとさに反対していられるのだろう。
事実敦賀でも原発ができたばかりに、
道路がよくなったり、
漁民も漁業補償をもらって豪邸を建てたりしている。
私は仕事で敦賀の民宿に泊ったことがあったが、
地元では、
「原発さまさま、というところやな」
と町のタクシー運転手さんがいっていた。
しかしそのかわりに、
まちがいなく、美しい青い敦賀の海は汚染されつつある。
昭和五十六年四月十八日に発表された、
原電敦賀の放射線汚染では、
周辺の浦底湾の海草「ホンダワラ」から、
高濃度のコバルト60、マンガン54が検出されたという。
(毎日新聞1981・4・18)
このホンダワラを毎日四十グラムずつ、
一年間食べつづけたとすると、
コバルト60で0,02ミリレム、
マンガン54で0,001ミリレム、
原子炉の安全審査の目標によると、
原発周辺の住民が浴びる線量は、
「年間5ミリレム以下に管理する」
ことになっているそうである。
(同)
そこから計算して通産省は、
汚染ホンダワラを一年間食べても、
被爆線量はこの二百文の一以下だというらしい。
しかしホンダワラばかり食べているわけではない。
魚や貝も人は食べる。
更に、一部のホンダワラだけ検査したのでは不安が残る。
浦底湾のあちこちでは、
もっと高濃度な汚染が進んでいるのではあるまいか。
原発の機械そのものもよく故障するが、
もはや事故かくしが悪いのどうの、
といってる場合ではないのだ。
もし大事故が起こったとしたら、
どうなるのであろうか。
日本は地震の多い国なのに、
地震が原子炉を襲ったらそのときは・・・
また運転ミスによるものか、
不可抗力はさておき、
原子炉が何かの手ちがいで、
人の手に負えないほど暴れだしたらどうなるのか。
爆発したらヒロシマ原爆の千発分だといわれるが、
住民の被災程度、救出手段の青写真はあるのだろうか。
汚染されていない地方への、
避難脱出の方法は考えられているのだろうか。
食糧も水も汚染されてしまう。
そのとき、生きる方法は考えてくれているのだろうか。
また原子炉はコンピューターが計算しているから、
事故は防げるという人もいるが、
コンピューターもあてにならないのは、
スリーマイル島を見てもわかる。
(次回へ)