国土交通省は2023/5/30付で貨客混載制度の実施区域の見直しについてのリリース文を発表しました。
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha04_hh_000275.html
現在、乗合バス事業者の場合は全国で貨客混載(バス車内の一部を区切って生活関連物資や地元の名産品などの貨物を運ぶ)が認められており、各地で実例があります。しかし、貸切バス事業者・タクシー事業者・トラック事業者は過疎地域以外では貨客混載は認められていません。この状況について2021年4月に複数の地方公共団体から制度の見直しに関する提案がなされ、2023/6/30以降は過疎地でなくとも、地域の関係者による協議が調ったことを条件として貨客混載輸送が認められるようになります。
リリース文には「貨客混載の実施に係るニーズ事例集について」という資料が別紙として添付されていますが、
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001611589.pdf
注目は、最後に掲載されている「奈良市月ヶ瀬・柳生地区における公共交通網の維持と物流網の確保のための貨物運送事業者による貨客混載運送」です。
検討内容は以下の2点です。
(1) 奈良市柳生地区に市街地からの交通の乗換拠点と物流の積換拠点を確保し、月ヶ瀬地区~柳生地区までの貨客混載による運送の実施を検討
(2) 月ヶ瀬地区内の拠点からは地域内交通と地域内配送を兼ねた貨客混載による運送の実施を検討
奈良市東部の山間にある月ヶ瀬・柳生地区はそれぞれ梅林と剣豪で知られていますが、人口の減少傾向は止まらず、地元にはわずかな商店しかなく、路線バスも大赤字で行政の支援で運行が継続されている状況です。そもそも月ヶ瀬地区が「添上郡月ヶ瀬村」という独立した自治体だったころは奈良市中心部と月ヶ瀬地区を結ぶ路線バスは観梅シーズン限定運行<東隣の三重県伊賀上野とを結ぶバスは毎日運行>で、2005年4月の合併後に行政サービスの一環として奈良市の要望から運行を開始した路線です。
このこともあり、過疎地で普及しつつある「路線バスやタクシーで貨物を運ぶ」やり方ではなく、逆の「貨物運送用の車両に旅客も乗せられるようにして対応する」ことが適していると地元は判断したようです。旅客運賃は1人あたり100~300円程度を想定しています。
しかし、気になるのは「本来旅客を乗せることを前提としていないトラックなど貨物車両において、どのように旅客の安全性を担保するか」についてですね。
リリース文の別紙1-1のイラストを見ると、「トラック」といってもワゴン車や福祉車両類似の車両を想定しているようですが、現時点で過疎地域で実際にトラック事業者(貨物自動車運送事業の許可を得た事業者)がさらに旅客自動車運送事業の許可を得て旅客を運んでいる実例は果たして存在するのでしょうか? こちらは2017年9月から認められており既に5年半以上経過しているわけですが、ネットでいくら検索しても実例は見つかりません。安全性もさることながら、一般のトラック事業者には旅客輸送のノウハウはありませんし、2種免許を保有するドライバーを確保せねばならず、ハードルは相当高そうです。
ただ、奈良市月ヶ瀬・柳生地区の場合、現在路線バスを運行している奈良交通の子会社に奈良郵便輸送という郵便物を中心とした貨物運送事業者があり(1988年に奈良交通本体で行っていた郵便物輸送事業を分社化)、奈良交通が同社に旅客運送のノウハウを提供したうえで貨客混載輸送を行うという可能性は十分あります。