『赤江大橋』は歩行者と自転車にとっては危険で、設計ミスと言わざるを得ない。花壇の位置を替える簡単な工事だけで解決はする筈だ。それを市役所の担当官に言ったのだが、僕の説明が下手で残念ながら届かなかった様だ。検証してみようとも思わなかった様だし、全くやる気がない。
今年の日本滞在は当初の計画からは随分とかけ離れたものになってしまった。
宮崎から大阪に行く寸前の3日前、宮崎の自宅のすぐ側、大淀川に架かる『赤江大橋』の歩道でMUZが転倒してしまった。
大阪に行くには杖が必要だと思い、量販店にでも行って杖を買うつもりであった。当初は杖をついてでも大阪に行くことは可能だと思っていた。
MUZは「老人用の杖は恥ずかしいのでウオーキング用のストックなら良い」と希望した。急いでスポーツ用品店までストックを買いに走った。
それは気に入った様だったが、大阪に行く前日には顔も腫れあがり、歩くこともおぼつかず、飛行機には乗られない状態になってしまった。
大阪での『大阪芸術大学美術科4期生同窓展』に昨年同様、2人で参加する予定であった。その期間中に和歌山の白浜に行くつもりでホテルとアドベンチャーワールドの入場券、大阪天王寺からの往復バスを予約していたのだが、急遽キャンセルをしなければならなかった。
僕の大阪往復は全日空の国内線マイレージ予約をしていたのだが、MUZのマイレージは足りずにLCCのピーチ航空を予約していた。格安航空券だがピーチ航空は払い戻しが出来ないので、宮崎=大阪の往復航空券を捨てることになった。
白浜の予約も寸前となり時期的にはかなりの率のキャンセル料が取られる。
そしてホテルにキャンセルの申し込み電話を入れた。最初は「キャンセル料がかかりますよ」との事であったが、「仕方ありませんね」と言ったところ「キャンセルの理由は何ですか?」と尋ねられたので「妻が転倒しまして…」と言った。
「それは大変でしたね。それではキャンセル料は結構です。」といってキャンセル料は取られないで済んだ。親切なホテルだ。
僕は一人で大阪に行き、マサゴ画廊の『NAC展』とギャラリーキットハウスの『大阪芸術大学美術科4期生同窓展』の2人分の搬入だけを済ませ、搬出は兄に頼み、宮崎にとんぼ返りした。
全日空のマイレージ予約は変更が利くので戻りの日程を早めた。
僕が大阪に居る間は延岡に住むMUZの妹が医者の手配など面倒を見てくれていて、僕としては安心であった。
宮崎に戻り杖をついて毎日大淀川の河川敷を散歩しリハビリに励んだ。
今までもポルトガルではこんなことは1度もなかった。露店市でも2~3時間も歩く。野の花観察に藪や荒地でも何時間も歩く。
宮崎での転倒は『赤江大橋』を渡り、川向こうのスーパーまで歩いて買い物に出かけた。いつもなら自転車で行くところだが、少し雨模様であったので、自転車が滑ると危険であるし、傘をさして散歩がてら歩いて出かけた。
橋の長さは500メートル程、スーパーの『前田ストアー』までは合計1キロほどもあるだろうか?
買い物を済ませた帰り道であった。旅行用で使わなくなったカートにエコバッグを括り付けてその1番下に重たい焼酎を入れた。そもそもその晩に呑む焼酎が切れてしまったので買い物に出かけたのだ。カートだからと大阪へ行くまでの2日分の食料を買い込んだ。買い物の一番上にモズクを置いた。モズクはパンパンに膨れたビニール袋に入っていて、さながら子供の手毬の様であった。飛び跳ねて落ちるといけないのでMUZが後ろを歩いて飛び出せば拾うということにした。
勿論僕がカートを引くわけである。橋は緩やかなアーチ型になっている。クルマや歩いていてもそれ程勾配は感じないのだが、自転車だとかなりの坂を感じる。僕は歩きながら隣の『小戸の橋』を見ていた。
『小戸の橋』はもう随分前から架け替え工事をしていて橋げたがすべて完成し、繋がるまではもう少しといったところまで工事は進んでいる。完成は来年の9月頃の筈である。『小戸の橋』の橋げたを見ながら、『赤江大橋』の頂上に達したかな、などと思いながらカートを引いていた。
MUZは橋の登りでは前かがみで僕からは5メートルほどの後ろを歩いていた。それが頂上に達してそれを過ぎても前かがみのまま、そして僕に追突するほどに近づいている。足音がバタバタと僕の耳に達する。
僕は「ここらでちょっと休憩をしよう」と言ったが、MUZは「止まれへ~ん」と言いながら、つつつとその先で前のめりに飛び込むように顔面から転倒してしまった。後ろから見ているとまるで北島康介がプールに飛び込むが如くにであった。傘の骨は折れたが、MUZは顔や手にかすり傷を負っただけで幸い骨には異常はなかった。
『赤江大橋』は欄干側に花壇が設けられていて欄干を手すりとして利用することが出来ない。
自転車で走っていても車道との間に花壇も手すりもなく、段差があるだけで、クルマが歩道に乗り上げることはないが、自転車が車道に転がり落ちそうな錯覚を起こし怖い。
別の日、クルマで通過中にも『赤江大橋』の上り坂で自転車の婦人が転倒しているのを目撃した。スーパーでの買い物帰りらしく自転車のバスケットからは食料品が歩道に散乱していた。婦人には気の毒な話だが、食料品が歩道のみに留まらず、車道にまでも散乱していたら、通り掛かったクルマは咄嗟にハンドルを切るかも知れない。そうすると対向車に追突し事故は自転車のみでは収まらなくなってしまう。
橋の下の河川敷は広い運動公園になっていて、放課後には少年たちがサッカーやソフトボールの練習に自転車で通ってくる。練習で疲れ切った後、河川敷から橋までの坂道を登って帰宅の途につく。或いは坂道から橋へ曲がり切れなくて、車道まで滑り落ちてしまわないか心配になる。車道を走って来たクルマは橋の終わりのところにある信号を、青信号の間に渡ってしまおうと結構なスピードを上げる。そこに自転車で曲がり切れなかった少年が飛び出して来たらどうなるだろうか?と心配してしまう。
花壇が欄干側ではなく車道側についていれば問題はないのにと思う。『赤江大橋』は路肩も広くクルマにとっては広々として気持ちの良い橋だが、歩行者と自転車にとっては危険な橋、設計ミスと言わざるを得ないのではないのだろうか。いや、普通の状態では何でもないことなのだろうけれど、老人、弱者にとっては危険に感じる橋なのである。
もし、花壇が市役所近くの『橘橋』などと同様に欄干側ではなく、車道側に設置されていたら、歩行者は欄干を手すりとして使うことが出来る。自転車は花壇で止まることが出来る。欄干を手すりとして使えていたら、今回の転倒は防げたろうと思う。VIT