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江古田に5年住んでいた
小奇麗なアパートだったがまるで赤ちょうちんの世界だった
銭湯は近くに三軒あったのを記憶している。
彼女は何時も静かに訪ねて来た
可憐で美しい女だった。
洋裁学校に通っている彼女は
「生地の値段は安いものなのよ」と云った
苦学生の私は彼女に十分な事をしてやれなかった。
親友のよしおかは一年先に上京していた
鹿児島の片田舎から意気揚々と夜行で東京に行った
遠すぎる想い出。
よしおかは司法試験に敗れやさぐれた
私はもともとそんな野心もなかった
一度だけ歌舞伎町の歌声喫茶に行った
「灯」というその店は今もあるという。
ロシア民謡を歌っていたら涙が出てきて
トイレに駆け込んだ、恥ずかしかったのだ
いい時代だったのか。
池袋西口に純喫茶があってよくそこで話し込んだ
当時は到るところに喫茶店があった
よしおかは卒業するとすぐ所帯を持った。
まだ若い奥さんは別れ際に
「少年マガジンを買っておくね」と云った
まだそんなものを読んでいるのかと思った。
彼女とは結局結婚できなかった
親の強い反対があった
一時は結婚を許してくれたが何故かできなかった。
苦くつらい思い出
今も心に残って離れない。
-おしまいー