日々の便り

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

河のほとりで (36)

2025年02月17日 03時52分27秒 | Weblog

 悠々と流れる河の流れに身を晒し、自然の恩恵を思う存分楽しんで帰宅した理恵子達は、帰ると順番に風呂場で髪や身体を洗い流したあと、珠子は裏庭に臨んだ洋間でシュミーズ姿で理恵子に髪の手入れをしてもらっていた。 
 大助は疲れたのか、或いは彼女達の下着姿が眩しく見えたのか、庭に面する洋間のソフアーに横たわり美代子と水泳などの雑談をして戯れていた。
 理恵子は、珠子の髪をいじりながら
 「浴衣姿には、髪を束ねて少しアップにした方が涼しそうで良いと思うゎ」
と言いながらヘヤバンドで束ねて、ついでに、うなじを剃ってあげた。 
 それを見ていた美代子も、理恵子に頼んで長い髪を分けて三つ編みにして後頭部に巻いてもらい、理恵子の赤い花の簪をつけてもらったあと、大助に
 「ネェ~、涼しそうで可愛いでしょう」
と、鏡を見ながら嬉しそうに見せていた。大助は
 「少し大人ぽっくなったみたいで、背が高いから似合うよ」
と言ったあと
 「それにしても、君は本当に泳ぐのが速いんだなァ~」
 「腿の筋肉も練習で相当かたいんだろうなァ~」「触って確かめてもいいかい」
と、彼の前に投げ出された彼女の生足を見ながら笑いながら遠慮気味に話すと、彼女は平気な顔をして「イイワョ」と言ってワンピースを膝上まで捲り上げたので、大助もニヤット笑いながら興味半分にソロット触ってみたが、考えていたほどでもなく
 「なァ~んだ、思ったほど堅くもないんだなぁ~」「やっぱり、オンナノコはオンナノコらしく柔らかいんだぁ」
と言うと、彼女は「アア~ カタイナンテ イワレナイデヨカッタ」と笑って答え、逆に短パン姿の大助の腿をさわって悪戯っぽく叩いていた。

 理恵子は、彼女達の髪の手入れをしながらも、織田君が健太郎と居間の囲炉裏端で、採って来たばかりの川えびの唐揚げをつまみにビールを飲みながら、東京での生活振りを明るい声で笑いを交えて話しているのを、時々、横目でチラット見ながら聞いていて、自分も傍に行きたいと思ったが、彼が何の屈託もなく両親と楽しそうに話している様子を見るにつけ、将来、織田君と結婚して美容師として働きながら両親と四人で、この様に平凡でも明るく過ごせるようになったらいいなァ~と想像していた。

 キャサリンは、美代子に対し
 「一度、家に帰り盆踊りに行く支度をしてきましょう」
と言ったが、彼女は大助と離れるのを嫌がり、着てきたワンピースのままで行くと言って母親の言うことを聞かず、たまりかねたキャサリンが
 「そんな格好をして行ったら、また、わたしが、お爺さんに叱られてしまうゎ」
と言い聞かせても、彼女は首を振って
 「大助君と一緒にイタイ~ンダモノ」
とかたくなに聞き入れず、仕方なくキャサリンは、節子さんに彼女を頼んで車で自宅に浴衣を取りに戻った。

 健太郎と織田君が、盆踊りの会場に出かけて行ったあと、節子は理恵子と珠子が浴衣に着替えるのを手伝い、自分も最後に着替えて三人が居間に立つと、大助と美代子は
 「わぁ~、同じ柄の着物姿で、まるで、TVや映画の恋愛物語に出てくる参姉妹みたいで格好いいわぁ」
と、少しませた感想を言い合っていた。 節子は、自分の選んだ浴衣の模様が、中学生とわいえ素直に褒めてくれたことが嬉かった。
 そんなところに、キャサリンが薄水色の浴衣を着て美代子の浴衣を持ってきて、白地に細い赤の渦巻き模様の浴衣を着せたが、髪を見て
 「まぁ~ 理恵子さんにしてもらったの」「なんだか急に高校生らしくなったようで、可愛くて綺麗だヮ」
と呟きながら、しげしげと見て、理恵子に何度も頭を下げて礼を言い喜んでいた。
 美代子は、その間、大助の顔を、時々、チラット見ながら、彼は果たして自分の髪型や浴衣姿をどんな風に思っているのかと気になってしようがなかった。

 盛夏とはいえ、飯豊山麓の村では午後7時頃になると日は山の端に沈んで夕闇が迫り、祭囃子の笛や太鼓の音も一層賑やかになって涼風に乗り流れて聞こえ、皆はそれぞれの思いを秘めて揃って出かけた。
 大助は、美代子が誘うように差し出した手を繋ぎ、老医師から貰った袋を片手にぶら下げて、艶かしくも清々とした浴衣姿の三人のあとに続いて行った。
 会場に着くと、すでに大勢の老若男女が鉢巻や菅笠をかぶり、洋服姿の普段着組と浴衣組が入り混じって輪になって踊っていた。 
 櫓の上から、節子達は遅いなぁとヤキモキしながら見ていた実行委員長の老医師が、漸く人混みの中にいるのを目ざとく彼女等を見つけると、櫓から大急ぎで降りて来て「なにをしていたのか・・」と言いながら、早速、大助を人影のない神社の片隅に連れて行き、有無を言わせず浴衣を脱がせてパンツ一枚の裸にすると用意した衣装で踊りの身支度を始めにかかった。
 老医師は、大助を孫の様に思いこんでおり、少し離れてこの様子を見ていた理恵子と珠子は老医師に従順に支度を任せている彼について、珠子が
 「小さい時に父親と別れ、きっと、お爺さんに父性愛を感じているんだゎ」
と理恵子に話かけていた。

 老医師は大助の腹部に白い晒しをぐるぐると巻きつつ
 「背丈は高いが腹が以外に細いなぁ~」
とブツブツ独り言を呟きながら、白の股引に続き白の足袋をはかせて藁草鞋を履かせ、黒襟に青色の半天を着せたあと、最後に頭を白地に青い豆絞りの手拭で前結びで人並みに仕上げると、満足そうに
 「ヨシッ! 立派なもんだ。今晩一番の出来だぞ」
と、自分好みの姿の大助に腕組みをして頷きながら見とれ、思いつきか、キャサリンを大声で呼んで満面の笑みを浮かべて二人揃って写真を撮らせようとした。
 これを見ていた美代子は、素直にお爺さんに従う大助君も大助君だが、普段はなにかと口五月蝿いお爺さんも彼には優しい好々爺に思え少しばかり妬ましく思った。
 勝気な美代子は「私も撮ってもらうわ」と二人の中に割って入ると、お爺さんは「三人写真は縁起が悪いわ」「お前達二人で撮ってもらえ」と言って離れた。 
 キャサリンが撮ろうとすると、お爺さんは緊張気味の美代子に向かって
 「お前達の青春を記録する記念写真だ。少し笑って大助の手を握って肩にもたれかかるように寄り添い、チョッピリ艶ぽくすれや」
と映画監督気取りで演技指導よろしく注文をつけると、美代子も理恵子達の手前流石に照れて「ソンナノ ムリヤ」と反論したが、キャサリンが傍に行き浴衣の襟を直してやると、理恵子も彼女につけてやった髪飾りのリボンを写りのよい反対側に付け替え、化粧用の小さいバックから薄桃色の口紅を取り出して彼女の唇に塗り更に頬に白粉を軽くポンポンと塗ってやった。
 彼女は恥かしそうにしていたが、それでも内心は嬉しく、キャサリンがシャッターを切る瞬間無意識にか握りあった手を団扇で隠してしまった。大助は踊りの輪が気になっていて、美代子の化粧にも関心をしめさず、平然とした顔つきでお爺さんに言はれるままにおとなしくしていた。
 二人はお爺さんの望む通りに写真に納まった。

 そのあと、お爺さんは機嫌よく大助の背中を押す様にして踊りの輪に送り込んだ。大助が待ちかねていた様に勢いよく駆け足で行くと、美代子も大助に遅れまいと懸命にあとを追いかけた。
 このような思いつきの様に見える老医師の仕草は、目に入れても痛くない可愛い美代子と、自分の孫のように思える素直な大助の二人が、田舎の素朴な祭事の中で青春の思い出を沢山残して、この先も仲良く交際を続けて欲しいと願い、二人の先行きを見越した心遣いであった。
 
 珠子は、初めて会ったお爺さんと大助の違和感のない様子にビックリしていたが、理恵子は「まるで、お人形様のようで可愛いわ」と感嘆していた。
 節子とキャサリンは、老医師の性格を知り尽くしているだけに、さして驚きもせず、二人の呼吸があった自然な仕草を見ていて、どちらも心の中でお互いに求めているものが、偶然、肌色を超えて、その場を得たのかしらと、他人同士でも心の解け合った、二人の絆の深い微笑ましい光景を、彼女等なりに解釈して語りあっていた。  
 キャサリンにとっては、わが子の成長が嬉しい以上に、夫が大学の外科医当時から絶大の信頼を寄せている、節子さんの清楚で美しい容姿と洗練された落ち着きのある人柄が好きで、地方に来て以来、夫以外で唯一心の許せる話相手であり、時には愚痴も聞いて貰えることが何よりも嬉かった。
 

 



 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 河のほとりで (35) | トップ | 河のほとりで (37) »

Weblog」カテゴリの最新記事