この店は一階が注文の受付のみになっていて、二階に上がって席を探す事になる。
僕が逃げない様に、気を張っているのだろうか……。
彼女が階段を上る際に、僕は先を譲ろうとした。
すると、無言のまま……。
顎で、先に行けと返された。
上り階段の途中で立ち止まり、後ろの彼女に尋ねた。
「煙草吸います?」
黙って、彼女は首を振った。
外国人のジェスチャーとして、首を振る行為が否定を表すのか知らない。
ただ何となく察した僕は、トイレから一番遠い禁煙席を選んだ。
この期に及んでも、僕はまだ人目を避ける事を優先していた。
しかし、1つ1つの小賢しい選択が……。
このまま突入する流れを、変えられる様な効力は持ち得ない事。
それだけは、理解出来ていた。
席は窓際で、目下には駅前の通りが見える。
僕は手前の席を引いて、彼女に座って貰おうとした。
すると彼女は,余計な事はしなくて良いといった目でこう言った。
「自分でやる」
(あぁ……)
(僕の気遣いは、御節介にしかならなかった様だ)
とりつく島が無い状態で、僕は対面する事になった。
彼女はテリヤキには目もくれず、ずっと僕の事睨んでいる様であった。
「テリヤキぢゃ、マズか…ったかなぁ?」
普段なら笑って誤魔化す所だが、思わず声がトーンダウンせざるを得なかった。
彼女は、なお無言である。
僕の心臓が脳から指令を受けて、忙しく鼓動を調律している事はハッキリと理解出来た。
何か、言葉を紡がねばなるまい……。
そう思えば思う程、頭から言葉はこぼれていった。
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