ジブリアン・ブルー
帰宅の道すがら、夜の街をふらふらしながら、保安官はぶつぶつ思いつくままに呟いた。何かのヒントを探し、口にした言葉からお得意のジョークを捻り出そうとしているのだ。
少し怪訝な表情で彼に会釈してすれ違う市民は、この国に来てまだ浅い保安官をまだ受け入れてはいないようだった。彼もまた馴染んでいないことを自覚し、考え事をしていて周囲に気付かない振りをしながら歩いていた。
自らの執行猶予期限が迫る間、彼は全く手をこまねいているわけではない。自分自身が保安官という理由で狙われる可能性があるのはもちろんだが、一般市民も被害に遭っている。奇妙な事件として迷宮入りさせるわけにはいかない。市民を守る義務を放棄するわけにもいかない。
長閑なこの国で、持て余す暇を誰にも披瀝できないジョークやウィスキーをがぶ飲みすることに費やすのも限界がある。まぁ、これが本意に近いかもしれない。
すぜけうすにも事件や事故はちゃんとある。夫婦喧嘩に、酒場での傭兵たちと市民の間のいざこざ、山を越えて入ってきた人間と市民の間のトラブル、落し物、ペットが消えたので探してくれ…、信号の電池交換、菊の品種改良。時には、山で暮らす野良犬たちが町にやってきて悪さをすることもある。大抵は優秀な、というか、事情を心得た部下4人が引き受けてくれているが、責任者として現場に立会い、調書に判を押す仕事がある。本庁へ報告するべき雑務、町の会合への出席など、忙しいと言えば…忙しい。
しかし、例の通り魔事件の音沙汰がない。ここ数年、正確には7年間、示し合わせたかのように年2回事件が発生する。それなのに最後に事件が起きてから、残り4ヶ月で1年になろうというのに1回も発生していない。ただじっと犯人が現れ、犯行に及び、被害者が出た時点で早急に察知し、捜査、逮捕する以外に方法はない。
まんじりと待ち構えていても仕方無いし、いつ自分に降りかかるかもしれない危険に怯える気もなかった。こちらから仕掛ける、おびき寄せる手段があるわけでもない。なにしろ、どういう条件で事件が起きるのかも分からなかった。
そこで保安官は、これまで犯人不在のままお蔵入りになった一連の事件について残された記録を洗ってみることにした。膨大な時間は気の遠くなるような作業を手伝ってくれる。
事件が起きた日時と場所、被害者が襲われた時の状況、犯人の声や身体的な特徴、季節や気候、気象的な傾向、湯気の観測記録、8ヶ月前に行方不明または出国した人間がいたか、或いは事件の前後に入国者がいたか、傭兵との関連性、いわゆるサンマ漁船の来航と出航はどうか…。ソファにもたれながら、それらを分析してみた。
その中で路地裏、夕暮れ、雨の翌日、漁船の4点に、彼は引っ掛かりを覚えた。
まず、これまで事件の現場はすべて繁華街の脇をそれた路地裏で起きている。いきなり背後から蒸気を浴びせられる者もいれば、建物と建物の間に潜み、進行方向から突然姿を見せて被害に遭う者もいる。
そして、時間帯はいつも決まって夕暮れ。夜中ではない。人目に付かなくても、被害者が叫び声を上げれば、それに気付く市民が大勢いるはずだ。市民が寝静まった闇夜に乗じて行うわけでもなく、大胆な犯行だ。それなのに被害者以外の目撃がほとんどないというから驚きだ。
不思議なことだが、事件の前日はほぼ100パーセント雨だ。これは証言だけでなく、測候所の記録からも明白だ。しかも相当強い雨で、翌日まで道に水溜りができているような状況だ。湿度も高い。犯行後に素早く逃げるためには、あまりに足元が悪い。すぐ足が付きそうなものだが、その足取りが全く不明なのだ。
最後は、事件が漁船の停泊と重なること。これなら船員たちが関与していると見てまず間違いない。ところが、外交特権として船員への捜査権や逮捕権がこちらにないとはいえ、漁船の捜査への協力は申し分ない。巧妙に隠蔽されているといえばそれまでだが、かなり突っ込んだ捜査にもかかわらず、怪しい様子は皆無だ。
今のところそれらの点と点がつながるような決定的事実や因果関係、共通項は見当たらない。どこかに見落としがあるかもしれないし、分析しようにも判断材料が不足しているかもしれない。しかし何かがある。
既に夕暮れを通り越し、太陽は山の彼方に隠れている。橙色や赤色は山の稜線をなぞるだけ。見上げる空は、すぜけうすで言う、濃い「ジブリアン・ブルー」に覆われ、等級の高い星が瞬き始めている。
犯人はいったいどこに潜み、次の犯行に備えているのだろうか。それとも事情があって行動を抑制しているのか、条件がそろわず実行しないだけなのか。或いは数年に及ぶ奇行に飽き、足を洗ったのかもしれない。実は蒸気放射器に改良を加え、蒸気で一気に人を消してしまう高性能機を開発し、事件そのものが人知れず起きているのだろうか。突き止める方角すらつかめない、行き場のない妄想がいつまででも垂れ流される。
「蒸気で上機嫌、か」。保安官はそう呟いて自嘲し、根拠のない妄想を頭から排除しようとした。
「相変わらず詰まんないこと言ってんのね」。甲高く通る声に彼ははっとした。
「この国は、考えごとするのは自由ですけど、道の真ん中で立ち止まって詰まんないジョーク言いながら人様の通行を邪魔する自由なんてないんですからね」。
「やぁ、プレジャ。景気良さそうだな」。心地よい快活な響きを耳に染み込ませながら、保安官はゆっくりと顔を上げた。貧相で粗末な「せぜへけ」には不相応な、暗がりの街を明るく照らすプレジャの陽気な笑顔があった。
「何よ、それ」。彼女はおどけて体を左右に揺すってみせた。彼は店内から漏れる明かりや笑い声にようやく気付いた。
「あんたの可愛い人がお待ちかねだよ」。
「可愛い人?誰だそれ」。
「覗いて見れば分かるって」。彼女は暖簾を引き上げ、わざと丁重な素振りで彼を店内に招きいれようとした。目をらんらんとさせながら、一人胸躍らせているようだった。
店内は長い方が5㍍あるL字型のカウンターに客が背中を向けてずらりと並び、入り口側に並んだ4人座りの正方形のテーブル4台にも全部ではないが、人が座っていた。皆、どこかで会っているような顔ぶればかりで、一番間近のテーブルにいる男二人組がこちらを意識しているようで落ち着かなく見えた。手前から2、3番目のテーブルには常連の年寄りたちが既に酔いつぶれて視点の定まらない目を互いに向けていた。一番奥のテーブルにはよく見知った顔ぶれがあった。女性客などいなかった。
「何よ、いるじゃない。可愛い部下さんたちがさ」
「あぁ、なんだ」。確かには奥のテーブル席に夜勤の一人を除く部下3人が雁首揃えていた。それは店内を見渡したときに分かっていた。
「ひどいわね。みんなあんたのこと心配で集まって飲んでるのに」。
「事件のことか。あんなのはどうってことないさ」。とりあえず会話の流れが途切れないようにすることを優先してしまい、彼は心にもないことを口走った。
「あら、たくましい。さすが保安官殿だわ」。彼女は意に介さず、相変わらずからかい口調で話を続けた。彼にはそれがありがたかった。
「もちろん部下は宝さ。働き者で真面目とくれば、何の文句もないし、可愛い連中だよ」。くだらない話を延々と続けるのはよくないと彼は思った。いつもはカウンターに入ってしまえば、監視役の店長がいてまともに話もできないのだ。
「俺としちゃ、可愛い人ってのがあんたのことだとばかり思ったもんでな」。
プレジャは一瞬きょとんとしたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。しかも、大きく口を開けて甲高く笑った。しばらく笑い続けた。目に涙まで浮かべて。
「今のは『今日一』で面白かった。あんたもそういうこと言うんだね。意外だったからうっかり笑っちゃったよ」。彼女ははぁ~あと笑いを切り上げ「そんなとこに突っ立ってないで、早く入んなよ」と彼の腕をぐいと店の奥に引き寄せた。
保安官にとって彼女は市民の中で唯一と言っていいほど、彼を余所者扱いしなかった。気さくで明るく、それでいてどこかに陰や憂いのあるところがあった。しかしどこか陰がある。憂いや澱みたいなものが渦巻いている。片腕だということを忘れることはあっても、身にまとった空気はぬぐいようがなかった。
部下たちは彼の存在にようやく気付き、全員立ち上がって彼に手でおいでおいでをしながら声を掛けた。
彼が奥のテーブル席に歩き出そうとしたとき、一番手前のテーブルの二人組みが立ち上がった。彼に背を向けていた男が振り返ると、それはよく知った男だった。
「やぁ、ユジャじゃないか」。狭い街とはいえ、彼は久しぶりに会ったユジャに、友人と再会したとでも言うように両手を広げた。
「ど、どうも」。
「久しぶりだな。仕事の方は頑張って続けているのか」。
「お陰様で」。
「なんだ、随分よそよそしいな。職務質問じゃないんだぞ」。
「ユジャ」。テーブルの反対側と壁の間をすり抜けるように、もう一人の男がユジャに声を掛けた。無表情で、体温の低そうな男だった。
「じゃあ、俺たち帰るんで」。ユジャは男に付き従うように、うなだれて出口に向かった。
「ユジャ、紹介してくれよ」。彼は職業的な勘で、二人を引きとめた。ユジャの目を見て、そのまま視線を男のほうにスライドさせた。
「職場の同僚です」。男の方から自分でそう言うと、軽く会釈した。彼は話の続きを待ったが、二人は間髪入れずにそそくさとレジへ向かった。奥で部下が彼に早く来いと催促しているのが聞こえた。
「ユジャと仲良くしてくれよな」。彼に他意はなかった。本心からそう思った。
ただ、男がこの国の人間ではなく、どこからか入国してきたと直感で分かった。そして8ヶ月もこの国にいて、見覚えがないことに違和感があった。それはあくまでも、この国で初対面ということで、どこかで会った気がしてならなかった。口の中にざらつきを感じながら、この国の長閑な時間が間もなく破られるような空気が精製されていくのを感じた。
帰宅の道すがら、夜の街をふらふらしながら、保安官はぶつぶつ思いつくままに呟いた。何かのヒントを探し、口にした言葉からお得意のジョークを捻り出そうとしているのだ。
少し怪訝な表情で彼に会釈してすれ違う市民は、この国に来てまだ浅い保安官をまだ受け入れてはいないようだった。彼もまた馴染んでいないことを自覚し、考え事をしていて周囲に気付かない振りをしながら歩いていた。
自らの執行猶予期限が迫る間、彼は全く手をこまねいているわけではない。自分自身が保安官という理由で狙われる可能性があるのはもちろんだが、一般市民も被害に遭っている。奇妙な事件として迷宮入りさせるわけにはいかない。市民を守る義務を放棄するわけにもいかない。
長閑なこの国で、持て余す暇を誰にも披瀝できないジョークやウィスキーをがぶ飲みすることに費やすのも限界がある。まぁ、これが本意に近いかもしれない。
すぜけうすにも事件や事故はちゃんとある。夫婦喧嘩に、酒場での傭兵たちと市民の間のいざこざ、山を越えて入ってきた人間と市民の間のトラブル、落し物、ペットが消えたので探してくれ…、信号の電池交換、菊の品種改良。時には、山で暮らす野良犬たちが町にやってきて悪さをすることもある。大抵は優秀な、というか、事情を心得た部下4人が引き受けてくれているが、責任者として現場に立会い、調書に判を押す仕事がある。本庁へ報告するべき雑務、町の会合への出席など、忙しいと言えば…忙しい。
しかし、例の通り魔事件の音沙汰がない。ここ数年、正確には7年間、示し合わせたかのように年2回事件が発生する。それなのに最後に事件が起きてから、残り4ヶ月で1年になろうというのに1回も発生していない。ただじっと犯人が現れ、犯行に及び、被害者が出た時点で早急に察知し、捜査、逮捕する以外に方法はない。
まんじりと待ち構えていても仕方無いし、いつ自分に降りかかるかもしれない危険に怯える気もなかった。こちらから仕掛ける、おびき寄せる手段があるわけでもない。なにしろ、どういう条件で事件が起きるのかも分からなかった。
そこで保安官は、これまで犯人不在のままお蔵入りになった一連の事件について残された記録を洗ってみることにした。膨大な時間は気の遠くなるような作業を手伝ってくれる。
事件が起きた日時と場所、被害者が襲われた時の状況、犯人の声や身体的な特徴、季節や気候、気象的な傾向、湯気の観測記録、8ヶ月前に行方不明または出国した人間がいたか、或いは事件の前後に入国者がいたか、傭兵との関連性、いわゆるサンマ漁船の来航と出航はどうか…。ソファにもたれながら、それらを分析してみた。
その中で路地裏、夕暮れ、雨の翌日、漁船の4点に、彼は引っ掛かりを覚えた。
まず、これまで事件の現場はすべて繁華街の脇をそれた路地裏で起きている。いきなり背後から蒸気を浴びせられる者もいれば、建物と建物の間に潜み、進行方向から突然姿を見せて被害に遭う者もいる。
そして、時間帯はいつも決まって夕暮れ。夜中ではない。人目に付かなくても、被害者が叫び声を上げれば、それに気付く市民が大勢いるはずだ。市民が寝静まった闇夜に乗じて行うわけでもなく、大胆な犯行だ。それなのに被害者以外の目撃がほとんどないというから驚きだ。
不思議なことだが、事件の前日はほぼ100パーセント雨だ。これは証言だけでなく、測候所の記録からも明白だ。しかも相当強い雨で、翌日まで道に水溜りができているような状況だ。湿度も高い。犯行後に素早く逃げるためには、あまりに足元が悪い。すぐ足が付きそうなものだが、その足取りが全く不明なのだ。
最後は、事件が漁船の停泊と重なること。これなら船員たちが関与していると見てまず間違いない。ところが、外交特権として船員への捜査権や逮捕権がこちらにないとはいえ、漁船の捜査への協力は申し分ない。巧妙に隠蔽されているといえばそれまでだが、かなり突っ込んだ捜査にもかかわらず、怪しい様子は皆無だ。
今のところそれらの点と点がつながるような決定的事実や因果関係、共通項は見当たらない。どこかに見落としがあるかもしれないし、分析しようにも判断材料が不足しているかもしれない。しかし何かがある。
既に夕暮れを通り越し、太陽は山の彼方に隠れている。橙色や赤色は山の稜線をなぞるだけ。見上げる空は、すぜけうすで言う、濃い「ジブリアン・ブルー」に覆われ、等級の高い星が瞬き始めている。
犯人はいったいどこに潜み、次の犯行に備えているのだろうか。それとも事情があって行動を抑制しているのか、条件がそろわず実行しないだけなのか。或いは数年に及ぶ奇行に飽き、足を洗ったのかもしれない。実は蒸気放射器に改良を加え、蒸気で一気に人を消してしまう高性能機を開発し、事件そのものが人知れず起きているのだろうか。突き止める方角すらつかめない、行き場のない妄想がいつまででも垂れ流される。
「蒸気で上機嫌、か」。保安官はそう呟いて自嘲し、根拠のない妄想を頭から排除しようとした。
「相変わらず詰まんないこと言ってんのね」。甲高く通る声に彼ははっとした。
「この国は、考えごとするのは自由ですけど、道の真ん中で立ち止まって詰まんないジョーク言いながら人様の通行を邪魔する自由なんてないんですからね」。
「やぁ、プレジャ。景気良さそうだな」。心地よい快活な響きを耳に染み込ませながら、保安官はゆっくりと顔を上げた。貧相で粗末な「せぜへけ」には不相応な、暗がりの街を明るく照らすプレジャの陽気な笑顔があった。
「何よ、それ」。彼女はおどけて体を左右に揺すってみせた。彼は店内から漏れる明かりや笑い声にようやく気付いた。
「あんたの可愛い人がお待ちかねだよ」。
「可愛い人?誰だそれ」。
「覗いて見れば分かるって」。彼女は暖簾を引き上げ、わざと丁重な素振りで彼を店内に招きいれようとした。目をらんらんとさせながら、一人胸躍らせているようだった。
店内は長い方が5㍍あるL字型のカウンターに客が背中を向けてずらりと並び、入り口側に並んだ4人座りの正方形のテーブル4台にも全部ではないが、人が座っていた。皆、どこかで会っているような顔ぶればかりで、一番間近のテーブルにいる男二人組がこちらを意識しているようで落ち着かなく見えた。手前から2、3番目のテーブルには常連の年寄りたちが既に酔いつぶれて視点の定まらない目を互いに向けていた。一番奥のテーブルにはよく見知った顔ぶれがあった。女性客などいなかった。
「何よ、いるじゃない。可愛い部下さんたちがさ」
「あぁ、なんだ」。確かには奥のテーブル席に夜勤の一人を除く部下3人が雁首揃えていた。それは店内を見渡したときに分かっていた。
「ひどいわね。みんなあんたのこと心配で集まって飲んでるのに」。
「事件のことか。あんなのはどうってことないさ」。とりあえず会話の流れが途切れないようにすることを優先してしまい、彼は心にもないことを口走った。
「あら、たくましい。さすが保安官殿だわ」。彼女は意に介さず、相変わらずからかい口調で話を続けた。彼にはそれがありがたかった。
「もちろん部下は宝さ。働き者で真面目とくれば、何の文句もないし、可愛い連中だよ」。くだらない話を延々と続けるのはよくないと彼は思った。いつもはカウンターに入ってしまえば、監視役の店長がいてまともに話もできないのだ。
「俺としちゃ、可愛い人ってのがあんたのことだとばかり思ったもんでな」。
プレジャは一瞬きょとんとしたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。しかも、大きく口を開けて甲高く笑った。しばらく笑い続けた。目に涙まで浮かべて。
「今のは『今日一』で面白かった。あんたもそういうこと言うんだね。意外だったからうっかり笑っちゃったよ」。彼女ははぁ~あと笑いを切り上げ「そんなとこに突っ立ってないで、早く入んなよ」と彼の腕をぐいと店の奥に引き寄せた。
保安官にとって彼女は市民の中で唯一と言っていいほど、彼を余所者扱いしなかった。気さくで明るく、それでいてどこかに陰や憂いのあるところがあった。しかしどこか陰がある。憂いや澱みたいなものが渦巻いている。片腕だということを忘れることはあっても、身にまとった空気はぬぐいようがなかった。
部下たちは彼の存在にようやく気付き、全員立ち上がって彼に手でおいでおいでをしながら声を掛けた。
彼が奥のテーブル席に歩き出そうとしたとき、一番手前のテーブルの二人組みが立ち上がった。彼に背を向けていた男が振り返ると、それはよく知った男だった。
「やぁ、ユジャじゃないか」。狭い街とはいえ、彼は久しぶりに会ったユジャに、友人と再会したとでも言うように両手を広げた。
「ど、どうも」。
「久しぶりだな。仕事の方は頑張って続けているのか」。
「お陰様で」。
「なんだ、随分よそよそしいな。職務質問じゃないんだぞ」。
「ユジャ」。テーブルの反対側と壁の間をすり抜けるように、もう一人の男がユジャに声を掛けた。無表情で、体温の低そうな男だった。
「じゃあ、俺たち帰るんで」。ユジャは男に付き従うように、うなだれて出口に向かった。
「ユジャ、紹介してくれよ」。彼は職業的な勘で、二人を引きとめた。ユジャの目を見て、そのまま視線を男のほうにスライドさせた。
「職場の同僚です」。男の方から自分でそう言うと、軽く会釈した。彼は話の続きを待ったが、二人は間髪入れずにそそくさとレジへ向かった。奥で部下が彼に早く来いと催促しているのが聞こえた。
「ユジャと仲良くしてくれよな」。彼に他意はなかった。本心からそう思った。
ただ、男がこの国の人間ではなく、どこからか入国してきたと直感で分かった。そして8ヶ月もこの国にいて、見覚えがないことに違和感があった。それはあくまでも、この国で初対面ということで、どこかで会った気がしてならなかった。口の中にざらつきを感じながら、この国の長閑な時間が間もなく破られるような空気が精製されていくのを感じた。
昨日は、この場を借りて楽しかったのですが、皆様の話し合った構想を寝る前に考えると、楽しくなりましたっけ。
そうそう、編集長!酔っていたせいでしょうかね。金額が少なく支払っていたと総料理長が言ってましたのでまた次回取りに来て下さい。との事でした。では、また
ってか、俺だよね?
俺は金を貰えるのか?
まだ、酔っているから…分かんない…おせーて。