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それは、既に造形でしかなかった。3時33分、聞き慣れた声を僕は夢の中で聞き、付けっぱなしの腕時計で時間を確認し、素早く身体を起こし、ただならぬ空気の震えを感じつつ、声の元へ急いだ。
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そこにあったそれは、既にもう造形でしかなくなっていた。分かりやすい角度で折れ曲がり、そうとしかならないように、ただそこにあった。寝惚けた頭をフル回転で起こしつつ、僕はインドで見た、それ以前にも何度か目にしているそれ(ら)を、一瞬思い出した。色、カタチ、陰影・・・、それ以外はそこに存在することができないような、大事なモノが、大事なモノだけが決定的にそこに欠けている空間、を、改めて目にした。以前遠くでみたそれらの記憶は直ぐ去り、そのこととこのことは全く違うんだと判断した後、小さな時間が流れた。寝惚けたアタマは目覚めてなかったが、その空間を仕切っているような透明な何かは、僕に対して遠くから叫んでいた。
一番大事なものは、素早く正確に折り畳まれ、既にどこかへ投函されてしまった!ということを、僕はこのぶよぶよした時間の中で理解した。 透明な何かはもう叫んでいない。
僕を起こした声の元はもう既に結論に達していて、僕は持っている知識を検索したけど、直ぐにその結論を揺るがすものは無いのだと覚った。ただ、立ち尽し、失った時間を少しでも遡るべく電話に向かった。僕を起こした声の元が冷静な判断とは別に電話に向かえないことは明らかだったから、電話までの何メートルかを僕が請け負うことにした。・・・だけの話。
それから、知らない人たちが沢山来ては去って行った。何らかの結論は下され、手続きが示された。「どうやら・・・」、と、思った時には、もう朝になっていた。やるべきことが(知らない人たちから)提示され、僕と、僕を起こした声の元と、彫像みたいな造形が、残された。
それから、なんだか分からないカッコ悪い電話のやりとりが何度か交わされ、それからなんとなく深くしゃがみ込み、ピンとこない浮ついたコトバが交わされて、タバコが生み続ける煙たい時間を持て余していると、ワケノワカラナイ人が鳴らしたチャイムが鳴った。直ぐに、ワケノワカラナイ人との間に金属音のような会話がポンポンとリズムを刻み始めた。まあ、煙たい時間よりは、マシだったかもしれない。でも、一番大事なモノは素早く折り畳まれ、既にどこかへ投函されている。「透明なアクリル板を全力でかじったら、こんな感じなのだろう・・・」、と思いながら聞いていた。
だけれども、このことで、僕らは幾分混乱を脱し、建物とかがカタチを成し、しゃがみ込みから脱することができた後、これからことを考え、話し合い、僕は起きる前へ戻ることにした。夢から夢へと、変な夢から、変な夢へ、と。
数時間で僕は睡眠を諦め、起こってしまったとに(なんとなく)耐え兼ね、数人の近しいトモダチ(と、トモダチではない人)に連絡をした。その中の何人かは、これからおこなわれる実務の何割かを請け負ってくれる優秀な人であることを計算しつつ、既に造形になり下がったモノの造形になり下がる以前を知っているこの人たちに、僕の状態を提示した。睡眠を諦めた後だし、それ以外に、することはなかった。その後、多めにタバコを買いに行った。
不安定なぶよぶよした時間が流れ、冗談のような作業を経て、ひとまず・・・としか言えないような空間ができあがった。冗談が、そこかしこに散らばってはいたが、次に向かえる感じがした。僕らの場所は、いつの間にか決まっていて、殆どその場所から動くことがなくなっていた。昨日までのルールは全て壊れてしまったかのようだった。
夜になり見知った何人かが、訪問してきた。ビールや栄養ドリンクなどの飲み物を持参してくれた。そこらで買ってきた惣菜を肴に、酔わないビールを次々と飲んだ。集まった皆の声は、少しいつもより大きかった。
二人連れの知人を見送る為に、玄関を出た。突然、何かが吹き抜けて、僕の顔は潰れた紙袋のようになった。魔法にかかったみたいに、抗いようのない、反応だった。口から出まかせの感謝を伝えて、僕は二人を見送った。
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