エコノミックニュース 6月12日(水)18時12分配信
シェール・ガスは水圧破砕法という安価な方法で採取でき、多量の天然ガスを低価格で供給できることから米国内ではその恩恵に与ろうと沸き立っている。しかし、採取方法による環境破壊や健康被害への懸念の声が聞こえてくる。その例として本格的な生産に入っていないドイツとフランスからの意見を紹介する。
脱原発に舵を切ったドイツはシェール・ガスの開発に意欲的だが、採掘する水圧破砕法によってビールの生産に使用する水が汚染されることをドイツの醸造業者協会は訴えている。また、フランスでは2011年7月、「水圧破砕による非在来型資源(シェール・ガス/オイル)の開発・採掘を禁じる法」が政府によって採択され、実質的にフランスではシェール・ガスの開発はできない。
問題となっている水圧破砕法とは地下2000~4000メートルにある頁岩層に大量の水を高圧で注入することで亀裂を作り、天然ガスを回収する方法だ。注入する水には亀裂が塞がらないようにプロパントという微細な砂粒が混入され、砂粒の流れをスムーズにする摩擦減少剤、他に界面活性剤、腐食防止剤、スケール防止剤、バクテリア殺菌剤、酸類などが混合されており、水というより粘性のある液体となっている。この中には有害物質も含まれており、どのような成分が調合されているのかは企業秘密で、シェール・ガス開発業者によっても異なる。シェール・ガスはこの水圧破砕法が開発されたことで採掘が可能になった。
水圧破砕法への懸念として次の3点があげられる。(1)ガスを回収する際のメタンガスによる大気汚染(2)坑井パイプからの使用する薬剤やメタンガスによる地下水汚染(3)高圧水が断層に当たることによる地震発生の可能性
まず、(1)のメタンガスによる大気汚染を検討して見る。水圧破砕で使用した水は回収され、回収する際にシェール・ガスの成分であるメタンガスが大気に放散されて大気汚染が問題となった。これは生産開始の頃で、米国環境保護局(EPA)は、米大気汚染法を改正し、メタン回収技術を導入することを義務付けた。これによって大気汚染の議論は収束する方向となった。
(2)地下水汚染問題だが、水圧破砕が行われるのは地下2000メートルで、ここから地下水までは1000メートル以上の距離があり、まず地下水まで届くことはあり得ない。汚染されたと報告のあった地下水を分析したところ水圧破砕に使用された薬剤は検出されなかった。地下水と接触しないことを徹底させるため、EPAはシェール採掘層と地下水層とは1マイル(1.6キロメートル)以上離すことを指導基準としている。メタンガスによる地下水の汚染問題だが、ドキュメンタリー映画「ガスランド」(10年)で水道の蛇口から出た水に火が付いたシーンが放映された。坑井の浅い部分から漏れ出たメタンガスが地下水に浸透した結果であろう。坑井を掘削する際、パイプを継ぎ足しながらパイプの周りをセメントで密閉していくが、このときのセメント充填が十分でなかったり、パイプの継ぎ目が緩く、高圧水やメタンガスが漏れることがある。シェール・ガスの開発当初は、弱小工事業者が多く参入したため工事基準が甘かったかもしれないが、今は厳格な工事が行われており、このようなことは起こり得ない。また使用済みの回収された汚染水はスチール・タンクに一時貯蔵され、再浄化・リサイクル規制されており、周囲を汚染することはまずあり得ない。
(3)地震の誘発だが、シェール層の水圧破砕で断層に当たると地震が起きる可能性はある。これは、地質調査を精細におこない、やみくもな開発をしない限り防止できる。イギリスでの採掘で水圧破砕時に小さな地震が発生したが、のちの調査で水圧破砕とは関係ないことが分かった。
欧州では環境汚染への懸念もあってシェール・ガス/オイルの開発が遅れているが、それぞれの国にとってこの資源が自国の経済のみならず、外交戦略としても重要なカギを握ることは間違いない。厳格な管理のもとでシェール・ガス/オイルの生産を進めていくべきだろう。
シェールガス革命がもたらすもの
輸入していた天然ガスすべての自国での調達が可能になったという「シェールガス革命」。これで余剰となったシェールガスの対日輸出が実現しそうである。自由貿易協定(FTA)を結んでいない日本への輸出は「公的利益に見合う」場合に限られてきたため、米国エネルギー省(DOE)の認可が必要であった。シェールガスの掘削が始まったころから、出資、および技術的な協力を行ってきた住友商事(8053)や三菱商事(8058)などの日本の商社の努力が実を結んだともいえるだろう。
米国から輸入されるシェールガスの価格は、現在、日本が輸入している天然ガスの3分の2の価格になると試算されている。原子力発電所の稼働停止により天然ガス火力発電が増えている日本にとって朗報である。日本での天然ガス購入価格は日本向け原油平均価格にリンクしているため、米国や欧州の購入価格に比較するとかなりの高値で取引されている。天然ガスの特徴は熱量が大きいことから発電コストが他の燃料に比較し安いことと、CO2排出量が石油や石炭に比べて少ないことだ。
今、日本に輸入されている天然ガスは貯留された砂岩から自噴する在来型天然ガスである。一方、シェールガスは硬い岩盤を持つ頁岩(シェール)に閉じ込められた非在来型天然ガスで、今世紀の初めに米国を中心に採算のとれる採取が可能になった。また、世界中のどこにでも存在し、資源量として在来型天然ガスの5倍以上とされている。
頁岩の岩盤に閉じ込められたシェールガスは、地中深く2000から3000メートルにあり、その採掘には技術的な壁があった。2000年代に入り、水平掘削、水圧破砕などの技術が米国で開発され、シェールガスの効率的な採掘が可能になった。
そのシェールガスの生産には大量の水を地中深部に注入することから地下水や河川の汚染、水圧破砕に伴う地盤沈下、またシェールガスの回収率を高めるために添加する化学物質の人体への影響などが懸念される。
シェールガスの採取による環境問題はまだ報告されていないが、過去には資源の探鉱・開発、製錬などで環境汚染を引き起こしている事実がある。希望の持てる社会を持続させるためにも同じ過ちを繰り返さないように「シェールガス革命」に留意しなければならない。
水圧破砕法から農村を救え、ルーマニアの神父の闘い
AFP=時事 6月12日(水)15時13分配信
ルーマニア東部ブルラド市で行われたシェールガス採掘に反対する集会で祈りを捧げる正教会ブルラド教区主席司祭バシリー・ライウ神父(2013年5月27日撮影)。
【AFP=時事】正教会の司祭、バシリー・ライウ(Vasile Laiu)神父(50)は、ルーマニア東部の絵のように美しい丘陵をじっと眺めながら、米国各地に点在するシェールガス井と掘削装置が、ここに建設されることがないようにと祈っている。
【図解】シェールガスの採掘工程
ライウ神父はこの数か月、米エネルギー大手シェブロン(Chevron)がこの田舎の貧しい地方でシェールガスを採掘する計画に対して、最も声高な反対派の1人になっている。黒の法衣を身にまとい「人間、自然、未来の世代を脅かす」計画に反対する何千人もの地元住民による街頭デモに参加してきた。
石油生産地域に生まれ育ったライウ神父は、自分はエネルギー産業の敵ではないと主張する。しかし多くの人々と同様、議論の的になっている掘削技術、水圧破砕法(フラッキング)に反対しているのだ。
水圧破砕法とは、砂と化学物質を混合した大量の水を高圧で岩石層に注入して破砕し、ガスを取り出す掘削技術だ。米国のペンシルベニア(Pennsylvania)やコロラド(Colorado)といった州で広く使用されている一方で、同バーモント(Vermont)州や、フランス、ブルガリアなどの国では、大気汚染や水質汚染の可能性があるとして禁止されている。
ルーマニア東部ブルラド(Barlad)市の市長が今年4月、フラッキングに対する抗議集会を禁止した際、ライウ神父は反対派の人々を自分の教会に迎え入れた。神父は「教会は政治には干渉しないが、たとえ1人でも同胞が健康や生命の危険にさらされたならば、介入するのが神父としての私の務めだ」とAFPのインタビューで語った。
■地域経済の救世主か、長期的害をもたらす一時的ブームか
ブルラド教区で最高位の正教会司祭であるライウ神父は、教区内の村々に奉仕して人生の半分以上を費やしてきた。1989年の共産主義政権崩壊後、新しい資本主義経済の中で、自分の教区の住民たちが職を得るために奮闘し、農民たちが収支をやりくりするのに苦労する様子を目の当たりにしてきた。
だが2011年にシェブロンがシェールガスの試掘を行うために60万ヘクタールの採掘権を取得して以来、地域は自分たちの未来に関する新たな闘いに巻き込まれた。
推進派の人々は、シェールガスの採掘によって雇用が創出され、エネルギー価格が大幅に下がり、ルーマニアで最も高い10%の失業率に悩まされているブルラドの経済を大きく押し上げると主張する。
一方で、環境と公衆衛生に長期的な害を及ぼしかねない「一時的なブーム」として、シェールガスへの熱狂に背を向ける人々もいる。
米デューク大学(Duke University)による2012年の研究では、フラッキングが地下水の経路を通じて飲料水の井戸を汚染する危険性があることが明らかになっている。
ライウ神父は、水をめぐる問題を最も懸念している。ブルラド周辺は干害に悩まされているにもかかわらず、業界のデータによると、フラッキングにはガス井1か所当たり最高2万立方メートルもの膨大な量の水が必要になるという。腐食性の塩類や発がん物質、自然放射性元素などが入り混じった廃水の処理問題も、村民たちが果物や野菜を栽培し、家畜を飼育している地域にとってさらに懸念材料となっている。
シェブロンのサリー・ジョーンズ(Sally Jones)広報担当はAFPの取材に対し「安全性と環境保全については最高の基準に従って活動している」と強調し、同社が「操業している地元地域に積極的に貢献しつつ、ルーマニアの信頼できるパートナーとなるよう尽力している」と述べている。
だがライウ神父は、村民たちがないがしろにされていると言う。「教区民たちは、事前通知もなしに、試掘設備が畑の中にパイプを沈めているのに気が付いた。その後、(建物の)壁にひびが入っているのを見つけたのだ」
■東欧一の埋蔵量がもたらす富よりも大事なのは命
ライウ神父の確固たる姿勢に、多くの人々が感銘を受けている。
ブルラド市の市長や地方議員も属するビクトル・ポンタ(Victor Ponta)首相の中道左派連立政権は当初、シェールガスの採掘権を付与する前政府の決定を激しく非難していた。ポンタ首相は2012年5月に政権に就くと、掘削の一時停止をも命じた。だが、この一時停止命令が12月に失効して以来、ポンタ首相とライバルのトライアン・バセスク(Traian Basescu)大統領は揃って、欧州におけるシェールエネルギーの主要な推進派になっている。
米国の研究では、ルーマニア、ブルガリア、ハンガリーの3か国を合わせたシェールガスの埋蔵量は東欧最大の約5380億立方メートルに上ると推計している。
だが、地元住民の声を伝えていくという、ライウ神父の決心は変わらない。
「数年前、私は4歳の娘を腫瘍で亡くした。医者に原因を尋ねると、彼はこう答えた。『神のみぞ知るですよ、神父様。でも、ここはチェルノブイリ(Chernobyl)にとても近い。それが原因かもしれません』──環境問題が懸念されるとき、私は無関心ではいられない。彼らがわれわれに差し出すどんな金銭よりも、貴重なのは生命です」
シェールガス、世界の天然ガス47%増やす 米エネルギー省
【6月11日 AFP】米エネルギー省エネルギー情報局(Energy Information Administration、EIA)は9日、頁岩(けつがん、シェール)層から採取できる資源によって、世界の原油埋蔵量は11%、天然ガス資源は47%増えるとした報告書を発表した。
EIAは初めてシェールオイル埋蔵量を評価するとともに、シェールガスの埋蔵量を再評価し、シェール層の埋蔵資源によって世界の原油量は3450億バレル増え、合計3兆3570億バレルになると見積もった。また、シェールガスの埋蔵量は世界の天然ガス埋蔵量の32%に相当する7299兆立方フィートと推計された。
国別のシェールガス埋蔵量は、中国がトップで推定1115兆立方フィート。中国とアルゼンチン、アルジェリア、米国、カナダ、メキシコのトップ6か国で、採掘可能な世界のシェールガス埋蔵量の60%を占める。
採掘可能なシェールオイルの埋蔵量トップ5は、ロシア、米国、中国、アルゼンチン、リビアで、世界の63%を占めている。(c)AFP/John Biers