『胃ろう、抗がん剤、延命治療いつやめますか?「平穏死」10の条件』が13万部突破のロングセラーとなっている長尾和宏医師。長尾氏の話題の新刊『あなたの治療、延命ですか?縮命ですか?抗がん剤10の「やめどき」』が発売された。
抗がん剤治療は、自分から「やめます」と申し出ないと、死の直前まで病院は続ける場合があると警鐘を鳴らす長尾氏。がん治療こそ自己決定が大切だという。この発売を記念し、先日都内の書店にて興味深いトークイベントが開催された。お相手は、スキルス性胃がんのステージIVで余命宣告も受けている40代の女性・渡邊こずえさん。彼女は長尾医師の本から影響を受けたこともあり、現在抗がん剤治療をストップしている。そして、え?この人が余命宣告を受けてるの!? と疑ってしまうほどお元気だ。このトークの模様を3回にわたりお届けする。がんになる前に、読んでおきたい情報が満載だ。
■体重が落ちて…最初はラッキー!と思っていた
長尾「抗がん剤治療を受けていた患者さんとして生の声をお聞かせいただきたいと思います。最初はどういう症状があったのでしょうか」
渡邊「私、もともと体格が良くて、体重が68Kgあったんです。それが、2011年2月から体重が落ち始めました。3カ月で10キロも落ちて、当初は仕事のストレスかな、ラッキー!と思っていたのですが、『あれ?胃が痛いぞ』と思い始めて。でも、食欲は旺盛だし、吐いたりすることもありませんでした」
長尾「そこでお医者さんには診てもらわなかったの?」
渡邊「最初は胃潰瘍だと思っていたんです。今まで何度も胃潰瘍になっていたから。でも、体重が55Kgを切ったあたりから、背中が痛くなってきて…。ある日、激痛が走って、とうとう胃カメラをやることに。そして、胃カメラの検査中に、先生の顔色が急に変わったんです。私も一緒に画像を見ていて、真っ黒な部分が見えたので、ああ、これは…と。『先生、私、がんですね?』と聞いたんだけど、『えーと、えーと、胃が縮んで硬くなっているね』とその場ではお茶を濁されました」
長尾「スキルスというのは、胃の粘膜の下をがんが這うタイプなんです。普通は塊を形成するんですが、粘膜の下を這って突き抜けて外へ出たりして、胃がんの中でも一番タチが悪い特殊ながん。芸能人でいうと、堀江しのぶさんとか逸見政孝さんがそうでしたね」
渡邊「それで検査結果が出て『一刻も早く手術しないといけない。全摘は免れません』と言われました。『スキルスですよね?』と訊いたら、『多分そうでしょう』と」
長尾「スキルス胃がんの場合は、開腹しても手術が不可能、あるいは転移が見つかって手術する意味がないからと、すぐに閉じる場合もある。治験開腹と言って、それに終わることがほとんどです。だけど、渡邊さんの場合は、どうせお腹を開けるなら、何がなんでも取ってくれと希望されたとか。病院選びは大事です。そうした希望を叶えてくれるかどうか」
渡邊「はい。そこで大きな病院に紹介状を書いてもらい。もう一度胃カメラをやって、ステージとしてはIIBか、IIIAくらいじゃないかと言われました」
長尾「ステージとは病気の進行度です。手術してみないと最終的にはわからないからね。エコーやCTもやって、肝臓に転移はなかった?」
渡邊「はい、なかったです。CT画像上では腹膜播種もなかったんです。患部が胃の上部だったので全摘するしかないけど、胃さえ取ってしまえばもう大丈夫みたいな言い方をされました。それで今度は外科へ行って、外科の先生ももう手術しかないと。でも混んでいて手術までが1カ月待ちと言われたんですが…キャンセルが出て2週間後の6月初めに手術となりました」
長尾「手術後にステージは変更しましたか?」
渡邊「ステージIVになりました。がんは、胃の壁を突っ切って、外に出ていた。浸潤してましたね」
長尾「腹膜(ふくまく)播種(はしゅ)と言います。すると自動的にステージIVになります。このように、がんの進行は、お腹を開いてみないとわからないところがある。術前のCTスキャンでも、そこは見えないから」
渡邊「術後の検査結果で『残念だけど、ステージIVでスキルス性胃がんです』と言われました」
長尾「胃がんには、組織型というのがあって、高分化型、中分化型、低分化型とある中で彼女は低分化型の腺がん。スキルス性胃がんは中でも一番タチが悪いと言われています。そしてステージは、術前はIIかIIIと言われていたのが、手術してみたら外へ飛び出していて、一番進んだIVであると」
渡邊「手術して1カ月ですぐ抗がん剤治療となりました。でもその頃ダンピングっていうのがあって…」
長尾「胃を全摘しているから、食べた物が直接小腸に入り込みます。それで、小腸がびっくりしてしまい、消化管ホルモンがたくさん分泌されるようになる。冷や汗が出たり、気分が悪くなるんです。胃を全摘した人はみんなそうなりますね」
渡邊「そうなんです、吐いたり、下痢したり、つっかえたりして食べられなくて、体重は手術後、あっという間に48Kgまで落ちました。最初にくらべて20Kg落ちたので、本来なら、体力を奪う抗がん剤治療はやめた方がいいんじゃないか?と考えますよね。でも私は、抗がん剤をやろうと思ったんです」
■長尾和宏(ながお・かずひろ) 1958年香川県生まれ。1984年東京医科大学卒業、大阪大学第二内科に入局。1995年兵庫県尼崎市で「長尾クリニック」を開業。複数医師による365日年中無休の外来診療と24時間体制での在宅医療に従事。昨年『胃ろう、抗がん剤、延命治療いつやめますか? 「平穏死」10の条件』がベストセラーとなり、本業の傍ら終末期の在り方についてのオピニオンリーダーとして各メディアで活躍中。医学博士、日本尊厳死協会副理事長、関西国際大学客員教授、日本慢性期医療協会理事、日本ホスピス在宅ケア研究会理事、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医、日本禁煙学会専門医、日本在宅医学会専門医、日本内科学会認定医。
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