芳野星司 はじめはgoo!

童謡・唱歌や文学・歴史等の知られざる物語や逸話を写真付でエッセイ風に表現。

Kちゃんの結婚

2016年08月13日 | エッセイ

 先日、長い付き合いのTさんという照明さんと仕事をした。
 仕事の合間に調光室で、彼の娘Kちゃんの話を聞いた。結婚したのだそうである。おめでたい話だが、それはそれは驚いた。私は彼女を赤ちゃん時代から知っている。
 Tさんの家に遊びに行くと、彼女はまだ歩けず、這っていた。Tさんと同じような髭をたくわえていたせいか、Kちゃんは私と父親を見間違えたか、よく私の膝の上に這い上がってくつろいでいた。
 彼女が三歳の頃、トイレを借りるとドアに小さな良い絵が架けられていた。まるで熊谷守一のような、シンプルで実に素晴らしい絵だった。聞けばKちゃんが描いたという。私がKちゃんに「何という題ですか?」と尋ねると、彼女は「人生の道」と即答した。私はたまげた。この子は天才だ。
 私はその日のうちに共通の友人の現代アートの作家に電話し「Kちゃんは天才だ。見てこい。まるで熊谷守一だ。題名は『人生の道』というのだそうだ!」
 その友人は絵を見に行ったらしい。10日ほど経ってから興奮した様子の電話をもらった。「あの子は天才だ!」
 
 彼女の母親はシャガール風の幻想的な絵を描いていたが、その後、Kちゃんはもう絵を描いていないという。
 小学生の頃、まるで男の子のように、半ズボン姿で野山を駆け回っていた。中学生の頃も、決してスカートをはかず、スボン姿で真っ黒になって野山を駆け回っていた。
 高校を卒業した頃、これがあのKちゃんか! というほど変貌し、美人になった。女の子というものは、かほどに変貌するものなのか! 
 彼女はハリー・ポッターに夢中らしい。全巻読破し、何度も読み返しているという。
 二十歳を過ぎていたろうか、イギリスに留学するという。聞けばハリー・ポッターのせいらしい。彼女は夢中でハリポタの魅力とイギリスについて語った。

 その後、Tさんと会うたびにKちゃんの話を聞いた。就職しているが、旅行が好きで、よく休暇をとっては世界中に出掛けているらしい。どうもパックツアーとは異なるらしく、僻地や秘境にも臆することなく、現地の人たちにすぐ溶け込み、一味も二味も密度の濃い旅だという。

 そのKちゃんが結婚した。お相手は中国人の方で、日本の大学に留学、卒業後は大手グローバル企業に就職し、日本国籍を取得したという。Tさんもお婿さんの中国のご両親や親戚とも会い、無事結婚式を挙げたという。二人は日本で暮らすらしい。
 Kちゃんは父親に似て風変わりで、いやかなりの変わり者だから、思えば実にふさわしい話である。スマホで久しぶりに写真を見せてもらった。夫婦二人で並んでいる。「ところでKちゃんは幾つになったの?」「今年の誕生日で34かな、たしか?」
 そんなになるのか。思えばTさんとは、35年の付き合いになるか。
 Kちゃんとその旦那には、どうか日中友好の小さな架け橋の一つになってほしい。
 先日もブログに書き、Face Bookにも紹介したが、憲法学者の星野安三郎の言う通りだ。「政府は戦争を欲するが、国民は平和を欲する」
 だからフランス革命以来の伝統的思想として、権力を持つ政府、国家間の政治的条約や経済的条約にはあまり信を置かず、平和を保つためには人類の知的及び精神的連帯を築かなければならない。平和を愛する「諸政府、諸国家」ではなく、平和を愛する「諸国民」の精神的連帯なのであると。日本国憲法の前文にも「諸国民」と明記してある。


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