丘を越えて~高遠響と申します~

ようおこし!まあ、あがんなはれ。仕事、趣味、子供、短編小説、なんでもありまっせ。好きなモン読んどくなはれ。

視線

2007年09月19日 | 四方山話
 スーパーの階段の踊り場で、年中さんか年長さんくらいの小さな女の子が一人でしゃがみこんでいた。癇癪を起こしてお母さんに置いていかれたのか、べそをかきながら小さい声で何かをイライラした口調で呟いている。
 辺りを見回したが、目のつくところに親の姿はない。この物騒なご時勢である。こんな年頃の子を一人で置いておくのも気が引けて、声をかけた。
「どうしたの? ママは?」
 彼女ははっと顔を上げた。次の瞬間、子供とは思えないような鋭い視線で私を睨みつけながら叫んだ。
「うるさい! ほっとけ! ばか!!」
 ……正直、目が点になった。こんな小さい子供の反応とは信じられない。なによりもその視線の鋭さに絶句した。きつい、憎しみすら感じさせるような視線。
 それでもやっぱり心配で、
「ママは近くにいるんかな? 一人で大丈夫?」
 と声をかけた。彼女の反応は先ほどと一緒。ついでに悪態の数が増えた。
 しょうがないか……。そう思って階段を少し下りて、もう一度だけ声をかけた。
「知らん人について行ったらあかんよ。気、つけてね。」
 そして階段を下りた。私の後ろからずっと大声で私を罵る言葉が聞こえ続けていた。

 腹が立つというよりも、なんだか妙に悲しかった。可愛い顔をした女の子だ。にっこり笑ったらさぞかし愛らしいだろう。彼女にはあんなカミソリみたいな視線は似合わない。あんな悲しい悪態も似合わない。
 同じ年頃の子供を持つ親として、無性に悲しかった。彼女は愛情をちゃんともらって育っているのだろうか……。そんな事まで心配になった。

 どうかあの女の子の心に柔らかい光を与えてあげてください。そう祈らずにはいられない。



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