乃木坂46が待望の1stアルバム『透明な色』を1月7日にリリースする。2012年2月22日にシングル『ぐるぐるカーテン』でメジャーデビューを果たした彼女たちは、今日までに10枚のシングルを発表しており、その全10曲の表題曲をすべて詰め込んだこのアルバムはデビューから3年間の集大成といえる1作と言える。
本来ならもっと早くにリリースされていてもおかしくなかった彼女たちの1stアルバムだが、恐らくこのタイミングでの発売には何らかのストーリーが用意されていたはず……そう、きっと昨年末の「第65回NHK紅白歌合戦」初出場という豪華な2014年の締めくくりを経て、このアルバムを発表したかったのではないだろうか。紅白に出ていたなら、時期的には昨年10月発売の最新シングル『何度目の青空か?』を歌っていたはずだろうし、その楽曲が収録された“これぞベスト盤”と呼べるような1枚が紅白直後に発売されるとあれば、年末の音楽番組を通じて彼女たちに注目した“乃木坂ビギナー”たちが手軽に手を伸ばすことができたはずだから。
しかし、現実は違った。結成からここまで順調に歩みを進めてきた彼女たちに、この紅白落選は大きな挫折感を与えたかもしれない。実際、一部メンバーは昨年の早い段階から紅白を目標にしていたそうだが、それを強く主張するようになったのは2014年も折り返しに入った夏頃から。だが、自信のないメンバーも多かったことから、全員が同じ方向を向いて「私たちの目標は紅白出場です!」とは言い切るまでには至らなかった。もしかしたらこの足並みが揃わなかったところも、少なからず落選に影響していたのかもしれない(もちろん今となっては結果論でしかないが)。この乃木坂史上初の大きな挫折を味わったことで彼女たちの紅白に対する現在の思いはより強く、より大きなものとなっている。活動4年目にして対峙した大きな壁。もちろん公式ライバルとしてのAKB48という巨大な壁もいまだに存在するが、それより先にまず飛び越えなくてはならない、一番身近にある大きな目標が2015年末の紅白出場なのだ。
ではその目標を達成するためには何が必要なのか? そのヒントが今回のアルバム『透明な色』に隠されているような気がする。3仕様用意されたアルバムのうち、Type-AとType-BはCD2枚組で、各ディスクに新曲がそれぞれ4曲、計8曲収められている。シングル曲をリリース順に並べたDISC 1の冒頭10曲は、人によっては「味気ない」「アルバムとしての工夫が足りない」と感じるのかもしれない。しかし、“乃木坂46の足跡をたどる”という意味ではこれ以上はない曲順だと個人的には考えている。実際、デビューシングル『ぐるぐるカーテン』から最新シングル『何度目の青空か?』までを順々に聴いていくと、最初はほぼソロパートもなく、メンバーの個性が感じられなかった歌声も、4thシングル『制服のマネキン』あたりから徐々に“個”が強まりつつあることが感じられる。そういった進化、成長を現在進行形で体感できるのが、今作のために新録された新曲と言える。
これらの新曲を最初に聴いた感想、各楽曲の解説は昨年12月上旬にオフィシャルサイトに寄稿したので割愛するが(参照:http://www.nogizaka46.com/news/2014/12/46-101323.php)、少人数でのユニット曲、昨年のシングルでセンターを務めた生田絵梨花、西野七瀬によるソロ曲、そして選抜、アンダー+研究生による楽曲(意外にも研究生参加曲はDISC 2収録「自由の彼方」が初となる)と、シングル以上にバラエティに富んだ内容は、アルバムだからこその実験心や遊び心に満ちあふれている。このアルバムで初めて乃木坂46にじっくり触れる人たちが新曲を通じて、メディア露出の多い生駒里奈や白石麻衣のようなメンバー以外の個性を感じることができる。なんならType-AにはライブDVD(さわりの1時間のみだが)も付属しているわけだし、こうやって楽曲や映像を通じてメンバーの“個”を知ることで、グループ全体に対する理解を深めていくこともできるわけだ。
48グループと比較して、現在の乃木坂46は明らかに個々のメンバーに対する認知度は低いと言わざるを得ない。ほかのアイドルグループと比べてもガツガツした印象がなく、どこか清楚でお嬢様的なイメージが(よくも悪くも)つきまとっていた。そのイメージは『透明な色』というアルバムタイトルにも反映されていると言える。この矛盾するタイトルこそ、実は彼女たちのパブリックイメージそのものなのだ。いい意味で捉えれば「結成4年目の現在も透明感がある」、悪い意味で言えば「明確な色がない」。色ですらない透明を、色の例えに使う意味……それぞれが個性を強めて色を付け、それをグループに持ち寄ったときにどういう化学反応を起こすのか。乃木坂46にとって2015年の真の課題は、実はここにあるのではないだろうか。この課題がどのような形で達成されるかは現時点ではわからないが、いい意味で透明感を保ちつつも、変幻自在なカラーを兼ね備えたときこそ、彼女たちの目標は誰もが認める形で叶うはず……そしてその実力はすでに持っているのだから、それをどのようにしてうまく発揮するかにすべてはかかっている。
昨年リリースしたシングルがすべて売上50万枚を突破し、メンバーのソロ仕事も増加。それまで露出の少なかったアンダーメンバーや研究生もアンダーライブを通じて経験と実力を付けていき、もはや選抜メンバーに肉薄している。すべてのお膳立ては揃った今、乃木坂46の本当の意味での快進撃は、この『透明な色』から始まる。