(意訳)
炉の油が燻ぶる向うがわ、この家の主の席が設けられている、
大黒柱を切り取ったかと思う逞しい膝がどっしり揃えられている。
夜の闇のなかを先程、この家の息子たちが音も立てず帰ってきた。
肩幅の広いガッチリした身体に蓑をつけた息子たち、
汗で寒天みたいに黒光りした四~五匹のデッカイ馬を連れていた、
かれらは馬を厩に入れて何やらマジナイみたいにしていた、
それから気配を消して土間で飯を食べていたが、
厩の辺りの藁や草のなかに転がるように寝てしまった。
ウッカリ気に入らないことを言おうものなら、
たちまち息子の誰でも私を片手で表の闇に引きずり出せるだろう。
そのような巨体がいくつもモノも言わずに眠っている、
いや、たぶん眠っているのだ。
黒い油煙を上げる灯火の下、女性が一人、食べ物を用意している。
それはまるで鬼にさらわれて、洗濯でもさせられているよう、
女性はどうやら私のための食事をこしらえているようなのです、
それなら要らないとさっき断わったのですよ…。
とつぜん、ガタリと音が響いた。
重い陶器の皿か何かが滑って床に落ちたのだ。
主人は黙って立って、女性のほうへ歩いて行った。
それから三秒ばかり、しんと静まって、
主人はもとの席へ戻ってきてどしりと座った。
どうやら、女性はぶたれたようでした…。
音を立てないように撲ったのです…。
その証拠に土間の人の気配は消えて死人のように静まって、
主人の目玉は古びた金貨のようにして鈍く光っている、
それで私は辛くて悲しくて身の置き所もなくて堪らない。
原典 ⇒ 「家長制度」です。
わたしは思うのです。
借金の形(かた)に取られたか、売られてきたか、
いずれにしても、この女性にはマトモに食べ物もあてがわれない、
食べ物をマトモに食べてさえいれば、皿を落とすこともない、
誰よりも朝は早く起きて、誰よりも夜は遅く寝ているに違いない、
そして朝早くから眠りに就けるまで一日中休みなく働いている、
誰よりも粗末な物を、誰よりも少なく食べて、一番よく働く女性、
このような様子を見て、ある人たちは言うでしょう。
この主人は人間じゃない、人間の皮をかぶった鬼だ、畜生だと、
憎い、憎い、憎いと呪うかもしれない、
やっつけろ、あいつらをやっつけろと叫ぶかもしれない、
また、ある人たちは言うでしょう。
弱い者は損だ、真面目に暮すのはバカバカしい、賢く生きようぜ、
お金は汚く稼いでキレイに使って楽しく生きたら好い、
人に使われるのは損、お金は儲けた人の勝ち、上手く稼ごう、
多くの世間の親たちは子供に言うでしょう。
「勉強しなけりゃ、この女の人みたいになるよ」って…。
そしてこれらの人たちは「自分の考えしかない」と思っている。
もしかして、あなたの考えもこれらに属していませんか?
多くの政治家も、多くの権威・権力も、同じような考えをしてる。
あなたもやはり、似たお考えでしょうか?
もっと良いお考えを、お持ちでしょうか?
炉の油が燻ぶる向うがわ、この家の主の席が設けられている、
大黒柱を切り取ったかと思う逞しい膝がどっしり揃えられている。
夜の闇のなかを先程、この家の息子たちが音も立てず帰ってきた。
肩幅の広いガッチリした身体に蓑をつけた息子たち、
汗で寒天みたいに黒光りした四~五匹のデッカイ馬を連れていた、
かれらは馬を厩に入れて何やらマジナイみたいにしていた、
それから気配を消して土間で飯を食べていたが、
厩の辺りの藁や草のなかに転がるように寝てしまった。
ウッカリ気に入らないことを言おうものなら、
たちまち息子の誰でも私を片手で表の闇に引きずり出せるだろう。
そのような巨体がいくつもモノも言わずに眠っている、
いや、たぶん眠っているのだ。
黒い油煙を上げる灯火の下、女性が一人、食べ物を用意している。
それはまるで鬼にさらわれて、洗濯でもさせられているよう、
女性はどうやら私のための食事をこしらえているようなのです、
それなら要らないとさっき断わったのですよ…。
とつぜん、ガタリと音が響いた。
重い陶器の皿か何かが滑って床に落ちたのだ。
主人は黙って立って、女性のほうへ歩いて行った。
それから三秒ばかり、しんと静まって、
主人はもとの席へ戻ってきてどしりと座った。
どうやら、女性はぶたれたようでした…。
音を立てないように撲ったのです…。
その証拠に土間の人の気配は消えて死人のように静まって、
主人の目玉は古びた金貨のようにして鈍く光っている、
それで私は辛くて悲しくて身の置き所もなくて堪らない。
原典 ⇒ 「家長制度」です。
わたしは思うのです。
借金の形(かた)に取られたか、売られてきたか、
いずれにしても、この女性にはマトモに食べ物もあてがわれない、
食べ物をマトモに食べてさえいれば、皿を落とすこともない、
誰よりも朝は早く起きて、誰よりも夜は遅く寝ているに違いない、
そして朝早くから眠りに就けるまで一日中休みなく働いている、
誰よりも粗末な物を、誰よりも少なく食べて、一番よく働く女性、
このような様子を見て、ある人たちは言うでしょう。
この主人は人間じゃない、人間の皮をかぶった鬼だ、畜生だと、
憎い、憎い、憎いと呪うかもしれない、
やっつけろ、あいつらをやっつけろと叫ぶかもしれない、
また、ある人たちは言うでしょう。
弱い者は損だ、真面目に暮すのはバカバカしい、賢く生きようぜ、
お金は汚く稼いでキレイに使って楽しく生きたら好い、
人に使われるのは損、お金は儲けた人の勝ち、上手く稼ごう、
多くの世間の親たちは子供に言うでしょう。
「勉強しなけりゃ、この女の人みたいになるよ」って…。
そしてこれらの人たちは「自分の考えしかない」と思っている。
もしかして、あなたの考えもこれらに属していませんか?
多くの政治家も、多くの権威・権力も、同じような考えをしてる。
あなたもやはり、似たお考えでしょうか?
もっと良いお考えを、お持ちでしょうか?