*アントン・チェーホフ原作 大滝寛(文学座)演出 中野・劇場MOMO 25日まで
「文学座プラチナクラス」とは、演技経験を問わず(学歴、国籍も不問)、40歳以上の男女を対象に行っているシニア向けの俳優養成講座で、現在第9期生が受講中である。講座終了後に結成された「文学座プラチナネクスト」というユニットもあり(1)、文学座の大切な事業のひとつとなっている。
シックスセンスは、その文学座プラチナクラス第6期生が結成した社会人による演劇集団だ。今回は演出を文学座の俳優・大滝寛、舞台監督、照明、美術はじめ、俳優も2名出演するなど、劇団の座員が加わる座組での公演となった。「この大きな物語を拝借してシックスセンス版のサクラノソノを作ってしまえないだろうか」。大滝が公演チラシに寄せている通り、『サクラノソノ』は、チェーホフの『桜の園』をベースに、シックスセンスの個性を活かし、ある面は自由な遊び心をもって、別の面では原作以上にシリアスに作り上げた1時間40分のステージだ。
舞台中央には大きく口を開けた古ぼけたトランクがあり、華やかな髪飾りや衣装らしきものが見える。下手にはギターが立て掛けられ、そこへ小さな本を懐中電灯で照らしながら一人の男が登場する。手にした本は『桜の園』の台本らしい。やがて舞台に人々が集まって展開するのは、『サクラノソノ』オリジナルの序幕である。入れ子式の構造は珍しくないが、既視感がないのはシックスセンスのひとつの持ち味であろう。序幕のこの仕掛けは、終幕できっちりと収められており、複雑な余韻を残す。
「一生が過ぎてしまった。まるで生きた覚えがないくらいだ」。公演チラシ表にも掲載されたこの言葉は、一家の老僕フィールスの台詞である。『桜の園』は何度も観劇しているのに、今回はじめて聴いたかのように心に染み入るのは、演じたのが女性であること、それもかなりご年配とお見受けする方であったこと、そして見る自分もまた年を重ねたためであろう。
シックスセンスはプロの劇団ではない。しかしプロの指導を受け、その手を借りながら、おそらく相当な試行錯誤や喧々諤々を繰り返し、社会人としての経験値を活かしながら、演劇人生を満喫しておられる様相は清々しく、優しい気持ちになれる。これは指導するプロの側にも多くの学びがあり、実りをもたらしていることだろう。
『サクラノソノ』。このカタカナ表記には原作との距離感や批評性、遊び心だけでなく、そこはかとない寂寥感があるのも、実際の舞台を見ての気づきである。「生きていきましょうよ」。『三人姉妹』終幕のこの台詞をつぶやきそうになった。
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