『たけし アート☆ビート』(NHK BS)第2回をみた。
今回たけしが訪ねたアーティストはタップダンサーのセビアン・グローバー。高速カメラを使って天才ダンサーの奏でる靴音の秘密を探る様子も興味深かったが、番組のあいだにはさまれるトークが本編をしのぐおもしろさ。たけしと語らうのは、金工作家で東京藝術大学学長の宮田亮平氏と絵描きのジミー大西氏である。世界にはちょっとやそっとでは思いつかないことを考えたり作ったりする人がいて、この日紹介された海外の2人のアーティストの作品(というか…)も素晴らしいと驚嘆するより困惑するのだが、3人のトークはみずからがアーティストだという気負いや奢りがなく、実に率直でスカッとする。
未知のアートを知ると同時に、それに対する自分の感覚を味わい、楽しむことができそう。
番組のテーマ音楽、ブルーハーツ「裸の王様」に開き直るわけではないのですが、アートは何でもアリで、その受けとめ方も「何でもアリ」と腹を決めてもよいのではないだろうか。
以下4月の本や映画などの覚え書きです。
【本】
*坪内逍遥『役の行者』(岩波文庫) さっそく困っている。どうなんでしょうか、これは。
*和田秀樹『あなたはもっと怒ってよい』(新講社)
大震災の被災者が冷静で忍耐強いことが海外で称賛されているが、本作は嫌なこと、困ったこと、理不尽なことに対して正しく怒ることはコミュニケーションの一つであり、そこからはじめて問題解決への筋道が始まると説く。処世術や指南書のたぐいはほとんど読まないのに、書店で本書を手に取ってページをめくるうちふらふらと買ってしまった。震災の直前である。ちゃんと読まないまま、怒りや何やらどこへどうぶつけてよいかわからない混乱の日々がはじまった。ひと月たってようやく一気に読み終えた。自分の心のありかをきちんと見極めよう。
*高野秀行『放っておいても明日は来る 就職しないで生きる9つの方法』(本の雑誌社)
図書館に予約を入れてから届くまでに数カ月かかり、どこで本書を知ったのかきっかけを忘れてしまったが、おもしろく読む。宮仕え(この表現、古すぎるかしら)せずに独自の道を歩んできた高野秀行が、高野自身も仰天するような経歴の9人から話を聞く。上智大学で行われた「東南アジア文化論」の講義として行われた。究極の就活本か単なる笑える奇談かは読む人の意識によるだろう。
*柴幸男『わが星』(白水社)
観劇のあと読んだ。舞台をみながら、この場面が台本にはどう書かれているのかという興味はわいたが、これは台詞をずらす手法やめまぐるしい俳優の動きが、「どんな字面になっているのか」という関心に過ぎず、作品の世界観や、劇中ある種のうねりや高揚感も自分なりに感じたから、それを今度は戯曲から感じ取りたいという積極的な意志ではない。舞台の印象を思い出しながら何とか読んだ。舞台をみずに戯曲だけで何かを感じ取れたかは想像ができない。あとがきに「読むだけで果たしてこの戯曲は面白いのでしょうか?」と記されていて、「いや申しわけない」と苦笑した。単純な好き好き、相性のあるなしで片づけず、舞台、戯曲ともに本作のどこが自分にとってしっくりしないのか、どういうところが支持され、評価されているのかを今後も考え続けていきたい。
*永井愛『中年まっさかり』(光文社)
舞台『シングルマザーズ』について少し長めの劇評を書いていることもあって、改めて読み直した。そして自分は舞台以上に永井愛の「文章」が好きなことを自覚した。1998年ごろであったか、日経新聞夕刊に一時期連載されていたエッセイを毎週楽しみにしていたことも思い出す。
ある出来ごと、それに対して自身がどう感じたか。明確で率直、生き生きした描写に引き込まれるうち、ごく身近で個人的な体験から、大きく広く深い社会問題に迫っていく確かな足取りに、「そうか、そういうことだったんだ」と気づかされ、自分のなかにあったもやもやした気分が明文化されたように爽快になる。
ところが、このエピソードはあの舞台のあの人物のあの台詞に活かされているのだなと思い始めると、台詞がとたんに説明的で、劇作家の、あるいは誰かの気持ちを代わりに話しているように聞こえるのも確かなのだった。永井愛の舞台をこれからもずっとみていきたい。しかしおもしろいと感じる気持ちの一方にある違和感や疑問も忘れずにいたいと思う。
【映画】
*『SP革命編』
監督、出演俳優諸氏完結編だと言っておられるが、完結していないじゃないかというのが自分や本作をみた知人友人ほぼ共通の感想である。尾形(堤真一)に「もうすぐだからな」という看守の意味深な台詞を敢えてまったく芝居気なしに言わせたのはなぜか。続きがあると示しているようなものではないか。完結だと言いながらこの終わり方。『新・SP』なんて作ったら許さんぞ、しかしみてみたいぞ。ああ自分の怒り方はこの程度か・・・。
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